第103話 スタンピード⑨ 黒い魔物
マンティコアを倒し終えて、戻って来たタロウが慌てている。
「あいつ、『鑑定』しても何も見えない! まさか、ランクAより格上ってことか!?」
「何!? タロウ、何も見えないのか!」
『鑑定B』のタロウが何も見えないってことは、ランクA+以上ってことだよね……。
「エリオット、わしが試しに削ってみるぞ」
「分かりました。アルバート、私の補助を。ロペス、マルティネス様の補助と寄って来る雑魚を頼む」
「「ハッ!」」
エリオット様とアルバート様が黒い魔物を迎えるように前へ出て、ロペス様はレオおじいちゃんの横に並んだ。
怖いな……名前も分からない魔物。誰かがあの『呪い』を受けるかも知れない……そう思ったら声を出していた。
「エリオット様! みなさんも、弱体を受けたら教えてください! レオおじいちゃんもですよ! 治しますから」
「フッ、アリス……」「「アリス……」よろしくね」
「うむ、アリスは可愛いのお~。わし、頑張るぞ!」
テオに、「しっかり、見ていような」と頭を撫でられた。うん。
タロウが何度『鑑定』しても何も出て来ないみたいで、「アリスもあの魔物を『鑑定』してみて」と言われた。だけど、私もタロウと同じ『鑑定B』だよ。
――――――――――――――――
名前 デ……
…………
――――――――――――――――
ん? ちょっと出た。タロウと同じ『B』でも、私は『B+』なのかな?
「えっと、一文字だけ出たよ。最初に『デ』が付くみたい……」
「「デ……?」それだけじゃあ、分からんな」
エリオット様が黒い魔物に『挑発』を入れて、レオおじいちゃんが魔法を詠唱した。
ボワッ、ヒュ――、バァ――ン!!
『……』
「こ奴には……やっぱり通じんのか!」
えっ、レオおじいちゃんの『火魔法Ⅲバースト』が命中したのに、全く効いていない? 黒い魔物はニタリと笑いながらエリオット様と剣を交えている。
「何!? レオ様の『火魔法』が効かないのか!」「あいつ……笑ってる!」「レオおじいちゃんの魔法だよ……」
「フム、前回もそうでしたが、やはり『火魔法』の耐性があるようですね……ん」
「「前回も?」」「『火魔法』が通じないの……?」
リアム様が近寄ってきたサキュバスに特大の『火魔法』を撃った。
ボワッ! ゴゴゴーー、ドババァ――ン!!
「流石、リアム殿……」「うわっ! サキュバスを一撃だ!」「えっ、リアム様が『火魔法Ⅳ』の『フレア』を……」
「フッ、雑魚に邪魔はさせませんよ」と言って、淡い青紫色のマジックポーションを取り出して飲んだ。
「あぁ……アリスの作るマジックポーションは、本当に美味しいですね。フフ、近寄る雑魚は私が始末しますので、アリスとタロウは、エリオット副隊長達とボスとの戦いをしっかり見るように」
「「はい!」リアム様」
「テオ殿は、雑魚が暴れてこちらに来るようでしたら止めをお願いします」
「おう! リアム殿、任せてくれ!」
レオおじいちゃんが、今度は黒い魔物に『風魔法』を撃ったけど、かすり傷? ほとんどダメージが無いように見える。
「むむー! 可愛げのない奴め!」
レオおじいちゃんが
エリオット様とアルバート様が、黒い魔物に攻撃をしているけど、余りダメージを与えていないみたい。
「剣の攻撃が効いてない……テオ、あいつ
「タロウ、あの魔物は防御力もだが、回避率も高いのかも知れん……回避率が高いと攻撃する側の命中率が下がるからな」
「命中率……当たりにくいってことか」
そうなんだ……。黒い魔物の剣さばきは、エリオット様と互角とまではいかないけど負けずに剣を交えている。あの魔物に弱点はあるの?
――――――――――――――――
名前 デ○○○
弱点 ――
――――――――――――――――
あっ、無意識に黒い魔物を『鑑定』したみたいで、小さな半透明の四角い窓が浮かんだ。
ロペス様が黒い魔物の弱点を探る為か、『水魔法』と『土魔法』を撃ったけど、魔物がダメージを受けたようには見えなくて、黒い魔物のニタリ顔がさらに……ああっ! 口が大きく裂けて気持ち悪い!
「あいつ……4属性の耐性を持っているのか!?」
「耐性? テオ、それは魔法が効かないってことか?」
「タロウ、そうだ……」
一瞬、黒い魔物がレオおじいちゃんとロペス様を見た。
『……』
黒い魔物の口がわずかに動く……えっ、剣を振りながら魔法を詠唱している!?
シュシュッ! ヒューー、シュトトトッ!!
レオおじいちゃんとロペス様目掛けて、いくつも黒い矢が飛んだ。それを、レオおじいちゃんの『ファイアウォール』とロペス様の『ウオーターウォール』の壁が防ぐ。
「うおっ!」「凄い! 魔法の壁だ!」「防いだよ!」
……あれは『闇魔法』? なら、弱点は『光魔法』かも?
――――――――――――――――
名前 デーモン
闇属性の魔物…………
弱点:光魔法・聖魔法
――――――――――――――――
あっ、また『鑑定』スキルが……えっ、名前と弱点が見えた! スキルが上がった?
「出た! テオ、タロウ、あの魔物の名前はデーモン! 闇属性の魔物で弱点は『光魔法』と『聖魔法』だよ!」
「何!? アリス、見えたのか! 魔物の名前がデーモン……」
「弱点が『光魔法』と『聖魔法』……」
「フム……デーモンですか」
「「「デーモン!」」」
「何! 弱点は『光』と『聖魔法』じゃと……持っとらんわ」
う~ん、タロウも持っていない。ここで『光魔法』と『聖魔法』を持っているのは私だけ? そうだ! 私の『付加魔法』で片手剣に属性を付けられるかな?
スキル『付加魔法』はAまで上がったから出来るはず……お茶にも付いているからね。私の『光魔法』はAで『聖魔法』はSだから、『聖魔法』を付けよう。
「テオ、テオの片手剣に『聖魔法』を付加しても良いかな? 出来るか分からないけど……」
「良い考えだな! アリス、やってくれ」
テオから片手剣を受け取って、『聖魔法』の魔法を片手剣に掛ける――何度も何度も、『聖魔法』の属性が付いてと願いながら……。
ポワッ……
片手剣全体が優しく光った――その光が剣身に吸収するように消えていき、剣身がキラキラと輝いた……出来た?
「テオ、出来たと思う」
「おう! アリス、この剣をエリオット様に渡してくる!」
そう言って、テオは片手剣を持ってエリオット様の所へ向かった。見ていたタロウが、自分の片手剣を差し出して「アリス、俺のも!」と目をキラキラさせている。
「タロウの剣も? うん、分かった」
タロウの剣にも『聖魔法』を付加すると、タロウはレオおじいちゃんの所に走って行き、「俺もレオおじいちゃんを守る!」と言って横に並んだ。レオおじいちゃんの目尻がしわしわに垂れた横顔が見える。
エリオット様が、交換したテオの片手剣でデーモンに攻撃すると、剣が当たった所が一瞬光って、デーモンが顔を歪めた。
『……!?』
今、デーモンが嫌がったよね?
「おっ、付加した『聖魔法』が効いているみたいだな!」
「うん!」
戻って来たテオから、エリオット様の片手剣を受け取って、黙々と『聖魔法』を掛けていたら、
「アリス! エリオット様が、弱体を受けたみたいだぞ!」
「えっ!」
見ると、エリオット様の顔が苦しそうで、こめかみがピクピクしている。
「『麻痺』か、それとも……あの『呪い』を受けたかも知れんな」
エリオット様はいつも白い手袋をしているから、肌が見えるのは顔だけで、顔に『呪い』の痣は見当たらない。
「テオ殿、あのデーモンの『呪い』ならエリオット殿は既に受けているので、他の弱体かも知れません」
えっ、リアム様? あ……エリオット様は『呪い』が治ったことをまだ話していないんだ。
慌てて魔法の杖をエリオット様に向けて魔法を飛ばした――『エリオット様の全ての痛みを癒して! 呪いを解きたいの!』
杖から、エリオット様に向かってキラキラと魔法が飛んで行く――お願い届いて!
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