第102話 スタンピード⑧ 来たぞ

 レオおじいちゃんの魔法で倒し損ねた、ボロボロのヴァイパやコカトリスが3~4体こっちに向かって来ると、エリオット様達とタロウまでもが飛び出した。


「行って来る!」


「うっ、タロウ……気を付けろよ!」


 テオも行きたそうだけど、私の護衛だから我慢しているみたい。ここにはリアム様もいるから行っても良いのにね。


「タロウ、剣の扱いが上手いな」

「ええ、副隊長。タロウがこれだけ剣を扱えるとは……テオ殿の指導が上手いのでしょう。先が楽しみですね」


「本当ですか!? エリオット様、アルバート様、ありがとうございます!」


 こっちに戻って来たタロウは、エリオット様達に褒められたと言って嬉しそう。


「さて、もう1発撃とうかのぉ」


 レオおじいちゃんがそう言って、再びみんなの前に出て『ファイアストーム』の詠唱を始めると、隣でリアム様のため息が大きく聞こえた。


 ボワッ、ボワッ! ゴゴ……ゴゴゴーー、ゴゴオオオーー!!


 あの魔法は、最低でもMP200は使うから、さっきのマジックポーションで回復したMPを使い切ったことになる。1発の魔法で……。


 そして、レオおじいちゃんはニコニコしながらバッグから淡い青紫色のマジックポーションを取り出した。うん……レオおじいちゃんなら飲むよね。


「フォフォフォ、アリスのマジックポーションは、深階層の魔物の為に、大事に取って置いたからのぉ~。ゴクゴクッ……」


 大事に……それは、お礼を言った方が良いのかな?


 レオおじいちゃんの魔法でダメージを受けた、初めて見るオークの魔物と、3体の……あれはマンティコアかな? が、雄叫びを上げながらレオおじいちゃんに向かって突進して来た――サキュバスやインキュバスもいたけど、レオおじいちゃんの魔法で倒されたみたい。


「オークキングとマンティコアが来やがった」

「テオ、あれがオークキングなんだ……」


 エリオット様が、素早くオークキングに『挑発』を入れ、『火魔法』を撃って突っ込んで斬り付けた。3体のマンティコアには、アルバート様とロペス様が数発の魔法と『挑発』を入れて対峙する。


 初めて見るオークキングは、ジェネラルオークより一回り大きくて、ピカピカした金色の鎧を着けていた。ギラギラの派手なネックレスと両手に指輪……大きな石の付いた指輪まであるけど、大きな片手剣を握るのに邪魔にならないのかな?


「あの魔物……『鑑定』でオークキングって出たけど、弱点が見えない。説明も少ないし……格上の魔物か?」


「タロウ、オークキングはランクAの魔物だよ。ギラギラのネックレスとか指輪をして、趣味が悪いよね~」


「あいつランクAの魔物なのか! 俺の『鑑定』スキルがBだから弱点が見えないか……」


 『C』だったタロウの『鑑定』スキルが、いつの間に『B』になったの? タロウがどんどん強くなるって言うか、スキルが成長しているね。


 格上の魔物を『鑑定』すると、見えなかったり説明が少なかったりする。もし、ステータスを隠すスキルを持っていたら格下でも見えないかも。でもあの魔物……オークキングと言うより、成金オークみたい。


「ブハハ! アリスの言う通り、趣味は悪いが、あいつは身体強化の『カウンター』のスキル書と、レアアイテムの『攻撃力アップの指輪』を落とすんだぞ」


「えっ! そんな良い指輪を……」


 ネックレスは落とさないんだ。


「ええー! テオ、俺が倒したらダメかな?」

「タロウ、あのな……」


 テオに、ドロップアイテムはダンジョンの中でしか落とさないんだと言われて、タロウはショックを受けている。


 学園で、スタンピードでダンジョンから出て来た魔物は、倒されても消えないしアイテムも落とさないって習ったよ。森や草原にいる魔物と同じで、解体して魔石や素材を取るんだって。


「何でダンジョンから出て来たんだ……あいつ」と呟いて、タロウはマンティコアに突撃する……えっ、タロウ、そこはオークキングに突っ込むんじゃないの?


「ハハ、タロウのやつ、マンティコアに飛んで行ったな」

「うん、オークキングじゃないんだ……」


 と言いながら、私は、エリオット様やアルバート様達が攻撃で弱体異常を受けないかじっと見る。


 マンティコアもランクAに分類されていて、<リッヒダンジョン>では50階から出て来る魔物。


 <リッヒダンジョン>は52階までしか探索されていないそうで、学園の資料にあった<リッヒダンジョン>のマンティコアについては、名前しか書かれていなかった。


 マンティコアは他のダンジョンでも確認されているけど、魔物はダンジョンによって見た目や属性、攻撃が違ったりすることがあるから、同じだと思ったらダメなんだって。


 目の前にいるマンティコアは、茶色い獅子の顔と胴で、鋭くて長い爪と蝙蝠みたいな大きな翼がある。尻尾は太くて黒い蛇みたいなんだけど……尻尾の先は丸く膨らんで、針みたいに鋭くとがっている。


 あっ、マンティコアが口を大きく開けて、アルバート様達目掛けて咆哮をあげた! 口から回転した竜巻みたいな……『風魔法』みたいな攻撃をしたけど、ロペス様が『水魔法』の『ウオーターウォール』の壁を作って防いだ。


「ロペス殿、上手いな……」

「うん……テオ、ロペス様は『水魔法』が得意だったよね」

「ああ、4属性使えるが、水と風が得意だと言っていたな」


 ソフィア様は3属性の魔法が使えて、得意なのはロペス様と同じ『水魔法』と『風魔法』だから、そういう血筋なのかな。


 アルバート様とロペス様は、マンティコアの攻撃を上手くかわしているけど、あの長い爪や尻尾で攻撃されたら弱体異常を受けそう……。


 タロウが、1番ダメージを受けていそうなマンティコアに攻撃をしかけると、オークキングを倒し終えたエリオット様も攻撃に加わった。


 アルバート様とロペス様がタゲを取って盾になっているから、2人の攻撃がすんなりと決まって、マンティコアを順番に仕留めていく。


「むっ、エリオット! 彼奴あやつが来たぞ!」


「! あいつか……」「副隊長……」「あいつ……とは!?」


「来ましたか……」


 レオおじいちゃんの言葉に、エリオット様達と隣にいるリアム様に緊張が走った。ロペス様は、前回のスタンピードの時はまだ学生で、騎士団に入ってなかったのかも。


 レオおじいちゃんの視線の先に、黒光りした片手剣を持った大きな魔物がゆっくり近づいて来た。大きいけど……あれが魔物?


 艶やかな長い黒髪に真っ赤な目。全身真っ黒な出でたちが白い肌を際立たせている……蝙蝠のような翼を持っていなければ、大きな人間にしか見えない。角も生えていないからね。


「何だ、あれは!?」

「テオ殿、あれが……先のスタンピードでエリオット殿に『呪い』を掛けた魔物で、スタンピードのボスだと思われます」

「リアム殿、あれが……」


 あれが、エリオット様に『呪い』を掛けた魔物……。


「ええ、前回のスタンピードで、あれが最後にダンジョンから出て来た魔物だそうです」


 黒い魔物が近づいて来る……大きい。背の高いアルバート様より二回り以上大きくて……うわぁ、顔が整い過ぎている!

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