第101話 スタンピード⑦ サキュバス

 リアム様が示す方を見ると、くるりとじれた2本の角を持った魔物がいる。全身真っ黒で、長い髪に大きな胸の女型の魔物だ。黒いドレスを着ているんだけど、肌もドレスも真っ黒だから、どこから肌なのか分からない。


「「あれが……」魔物なのか……」


 武器は……穂先が大きく2本に分かれた黒いやり? を持っていて、赤紫色の翼がゆっくり動いている。これは……なまめかしいって言うのかな? 綺麗な魔物。


『ギャアァァーー!』


 あっ、声が獣みたいで……低いだみ声なのが残念だね。


 サキュバスは少し離れた所にいたので、タロウと魔法が届く所まで素早く移動した。


「アリス、あいつの弱点もインキュバスと同じだけど、スキルを上げたいから俺は『雷魔法』を撃つよ!」

「タロウ、了解!」


 学園で、属性魔法は『風魔法』しか使えないことになっているけど、エリオット様達は私が4属性使えるって知っているから『火魔法』でも良いか。タロウが弱点を教えてくれたしね。『火魔法Ⅲ』の『バースト』と呟いた。


 ビリビリ! ドッカ――ン!!

 ボワッ! ヒュー、バァーーン!!


 タロウが撃った『雷魔法』の稲光がサキュバスを貫き黒い煙を上げ、そこに炎が爆発するように襲う……命中した?


『ギャアアアァァ……!』


 サキュバスが声をあげて膝から倒れた。動かない……。


「やった!」


 えっ、2発の魔法でサキュバスを倒したの?


「タロウの魔法、強過ぎじゃない?」

「そうかな? アリスの『火魔法』も強かっただろう?」

「うん。サキュバスはランクB+の魔物だから、少し強めの魔法を撃ったけど……」


 あ~、『雷魔法』は上位魔法だからかな? 4属性と同じランクの魔法を撃ったとしても、『雷魔法』の威力は4属性よりの格上の威力になるのかもね。


 例えば、『雷魔法C』の威力は『火魔法B』か『C+』と同等とか……有りえるよね。


「お前達、初めてにしたら上出来じゃないか! 俺が『挑発』を入れる前に倒しやがって! ハハッ」


「テオ、タロウの『雷魔法』の威力は凄いね」

「魔法だと、手ごたえがないよ……」


 タロウはいつも片手剣で倒しているから、魔法だと物足りないのかもね。


「おぉ~! アリスもタロウも、やるではないか!」

「タロウは『雷魔法』のスキルを持っているのですか! 素晴らしい!」


 レオおじいちゃんにタロウと私は頭を撫でられ、リアム様は「フフ。テオ殿、私の出番もありませんでしたよ」と……微笑んでいる!



 前方のエリオット様達は、もうヴァイパを仕留めていて別の魔物と戦っていた。ハイオークを引き連れた……あれはダンジョンの35階から出て来るジェネラルオークかな?


 はじめて見たよ……肌の色は明るいグレーでハイオークと同じく筋肉がムキムキだ。シルバーの鎧を付けていて武器は片手剣。鎧を付けているから防御力が高そうだと思ったけど、エリオット様は問題なく倒していた。あ~、エリオット様が強いのか。


 エリオット様に『ヒール』を飛ばそう。エリオット様と目が合って微笑まれたので、にっこりと笑顔を返す。


 アルバート様とロペス様にも『ヒール』を飛ばしたら、驚いた顔で2人がこっちを見た。ロペス様の口が動いて、『ありがとう』って言ってくれたのが分かる。ふふ。


 順調に魔物を倒すエリオット様達とレオおじいちゃん。ふと……北の方から変な気配を感じた。


「……テオ」

「アリス、どうした?」

「何かが来る……」

「本当だ……テオ、来るぞ」


 タロウと私が北を差すと、テオが指さした方をジッと見る。エリオット様達も何かを感じたみたい。


「来たか」

「そのようです。副隊長、オークキングとマンティコアでは、どちらの足が速いでしょうか?」


 あの気配は、オークキングとマンティコアなんだ。


「アルバート、どちらもデカいから変わらないと思うが……。あぁ、オークキングが連れているジェネラルオークがいさんで来るかもな」

「フフ、どこにでも張り切る奴はいますからね」


「あの……副隊長、アルバート殿、ヴァイパやサキュバスもまだ来るんじゃないですか?」


 ロペス様が遠慮気味に話に割って入ると、アルバート様から雑魚は任せたと言われて、ロペス様が固まったのが分かった。経験を積ませるってやつかな?


 遠くに魔物の姿が見えて来ると、レオおじいちゃんがスッとエリオット様の前に出た……えっ、レオおじいちゃん?


ようやくく、わしの出番じゃな!」

「マルティネス様……」「マルティネス団長……」「……」


「マルティネス様! 1発だけにしてください。仕留めそこなった魔物達が一斉にこちらに来たら困りますからね!」


 リアム様が大声でレオおじいちゃんに声を掛けた。


 そっか、魔法を撃って、倒しきれなかった魔物は、レオおじいちゃんに向かって来るんだ。エリオット様達がいるから、2~3体だったら大丈夫だと思うけど。


「リアムよ、五月蠅うるさいわい!」


「マルティネス様、アリスとタロウがいるのですから自重してください」


「アリスとタロウは、お前が守れば問題ないじゃろう。まーさーかー! リアムよ、出来ぬのかぁ?」


「はあ~。マルティネス様、挑発には乗りませんよ」


「リアムめ、面白くないのぉ~」と言って、レオおじいちゃんは詠唱を始めた。


『大地に眠る熱き炎よ、炎の嵐となりて……』


 ボワッ、ボワッ! ゴゴ……


 あれは……『火魔法Ⅳ』の『ファイアストーム』!? 


 現れた炎が渦を巻き始め、立ち上がって火柱になった。段々と炎の柱が太くなって……巨大な炎の柱が魔物達に襲い掛かる。うわぁ、魔法が生きているみたいだよ!


 ゴゴゴーー、ゴゴオオオーー!!


 巨大な炎の柱が、次々に魔物達を赤く染めていく……凄い。


「はぁ……」「「マルティネス団長……」」


 エリオット様達から声が聞こえ、隣にいるリアム様がこめかみを押さえて少し首を傾げている。


「はぁ……マルティネス様、はしゃぎ過ぎです」


 怒っては……いないみたいです。たぶん。


「やっぱり、レオ様は凄いな……」

「うん! レオおじいちゃんは、カッコイイな!」

「うん。本当にレオおじいちゃんの魔法は凄いよね!」


 レオおじいちゃんは魔法を撃ち終わると、バッグから淡い青紫色のマジックポーションを取り出して飲んだ。


「アリスのマジックポーションは旨いのお~。いくらでも飲めるわ! フォフォフォ」


 レオおじいちゃんは「むむっ! MPが210も回復しておる! アリスは天才じゃのぉ!」と手を振ってくれる。


 えっ……MPが210回復した? レオおじいちゃんは、スキル『鑑定』を持っているんですね。褒めてくれて嬉しいけど、私は天才じゃないです。それと、マジックポーションは不味くは無いけど、美味しくもないですよ。


「えっ……マルティネス様、MPの回復量が210ですか!? 試作品の時より10も増えたのですか? アリス、素晴らしいですね!」


「リアム様、たまたまですよ……」


 魔力草の大きさは全て同じじゃないから、回復量も多少変わると思います。


 隣で、レオおじいちゃんに「はしゃぎ過ぎです」と呟いていたリアム様が、満面の笑顔を私に見せてくれる……この顔は貴重かも。

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