第100話 スタンピード⑥ 贅沢なパーティー
翌日の早朝、テオ達と北門の広場に来ると、第一騎士団と宮廷魔術団が出撃の準備をしていた。
門の向こうから魔物の雄叫びや誰かの叫ぶ声が聞こえて来る……魔物との前線はすぐ目の前なので馬は使わないそうです。
「テオ殿!」
振り向くと、白い鎧姿のエリオット様とアルバート様がこっちに来た。うわっ~! カッコイイ! 隣でタロウの目がキラキラと輝いている。うん、分かるよ~。
「エリオット様、アルバート様、おはようございます。今日はレオ様に見学の許可を貰って……」
「ああ、テオ殿、マルティネス様が無茶を言ったのは聞いたよ。アリス、タロウもすまない」
「いいえ。エリオット様、邪魔にならないようにしますね」
「エリオット様! 俺は、騎士の動きを勉強したいです!」
うわぁ、タロウが眩しい……。
「そうか。タロウ、無茶はするなよ。それと、ポーションを届けてくれてありがとう。助かったよ」
「「はい!」」
エリオット様にお礼を言われて……タロウと顔を見合わせて喜んだ。少しでも手伝えたのなら良かったです。
間もなく、ロペス様がレオおじいちゃんとリアム様を連れて来た。
「うむ、アリス、タロウも来たか。そろそろ、ボスクラスの魔物が来る頃じゃ。わしの魔法を見れば勉強になるからのぉ。良~く、見るんじゃぞ。フォフォフォ」
「「はい!」」
レオおじいちゃんの魔法が見られるのは嬉しい。なぜか、エリオット様は呆れたよう子で、アルバート様はどこか遠くを見ている……ロペス様は緊張しているのかな? 顔が引きつっているように見える。
「コホン! マルティネス様、エリオット副隊長が困らない程度にしてくださいね」
リアム様の言葉に、エリオット様が深く頷いた。レオおじいちゃんは聞こえてないのかな? 知らん顔をしている。
「では、魔物の殲滅に行こうか」
「「ハッ! 副隊長!」」「「はい! エリオット様!」」
エリオット様の言葉にアルバート様とロペス様が即座に反応して、タロウと私も釣られて返事をした。あぁ、緊張するな……『身体強化』を強めに掛けておこう。
そして、アルバート様が門の上に向かって手を上げると、北門が開いていく。城壁の上に数人の騎士様がいて、門の開閉と外の様子を見ているのかな。
門が開くと、騎士様と宮廷魔術師がパーティーを組んでいるのか、5~6人まとまって歩き出す。
私達のメンバーは、前衛にエリオット様にアルバート様とロペス様。後衛がレオおじいちゃん。見学者にタロウと私で、リアム様とテオがその護衛。なんて贅沢なパーティーだろう……ドキドキしてきた。
ギイイィ……
開かれた北門の向こうに――至る所で魔物との戦闘が繰り広げられているのが見える。
「「うわ……!」」
……タロウと2人して足が止まった。
魔物の雄叫びや魔法が撃たれる爆音……怒号が聞こえる。倒された魔物の残骸があちこちにあって、焦げた臭いと何かが腐ったような臭いが微かにする……これが、戦場……。
「お前達、良く見ておけよ」
「テオ……うん」
「酷いな……」
先に出た騎士様と宮廷魔術師のパーティーが扇のように広がって、戦っている冒険者達を越えて前へ進んで行く。戦闘中の騎士様や宮廷魔術師も越えて……。
『第二騎士団、対峙している魔物を討伐後、速やかに退避!』
今、目の前で戦っている騎士様は第二騎士団なのか。宮廷魔術師も何人かいるけど少ないな……あっ、MPが無くなった宮廷魔術師は街に戻っているのかもね。
みんなが戦っている合間を抜けて、最前線まで来た。
「うお……ヴァイパがコカトリスを喰ってやがる」
「「えっ?」」
テオに言われて見ると、エリオット様の前方に、ヴァイパと言われるジャイアントスネイクより大きな白い蛇が、コカトリスの残骸を飲み込もうとしていた。
「うわっ、食べているよ……」
「えっ、魔物が魔物を食うのか!?」
ダンジョンの中では魔物同士が戦ったりしないけど、外にいる魔物は違う種類の魔物を襲うことがあるって聞いた。そして、他の魔物や人間を襲った魔物は強くなるとか……。
「ダンジョンから出て来たばかりなのに……これは不味いですね」
リアム様は、宮廷魔術師を呼んで何か指示している。それを見たテオが、ランクの高い魔物の残骸を放置しないように集めるんだろうって言う。
「フン、さっさと倒してしまえば良いではないか!」
レオおじいちゃんはそう言って、直ぐに魔法の詠唱を始めた。
シュワッ! ヒュー、シュバッーー!!
『シャー!!』
「「マルティネス殿!」」
アルバート様とロペス様が慌てて剣を抜いて、ヴァイパに突っ込みながら『挑発』を入れた。
「マルティネス様……では、始めましょうか」
エリオット様が鞘から片手剣抜いて突っ込み、流れるような動きでヴァイパに攻撃をする……綺麗。
ドラゴンの時、第二騎士団の戦いを見たけど、こんなにも目が離せない騎士様はいなかった。剣の舞を踊っているみたい……。
「アリス、エリオット様は強いな!」
「うん! タロウ、エリオット様ほどの綺麗な剣の使い手は見たことないよ!」
あっ、横から人型の魔物が、軽く飛び跳ねるようにエリオット様達に近寄って来た……あれは、インキュバス!?
長細い2本の角が生えた全身が黒い魔物。背の高さはエリオット様やロペス様と変わらないくらい高くて、インプを大人にしたような……細身の人型の魔物。黒い片手剣を持っていて、紫色した蝙蝠のような翼がある。
「邪魔ですね……」
リアム様がそう言うなり、即座に詠唱して『火魔法』を撃った。
ボワッ! ヒューー、バァーーン!!
『ギギャーー!』
「ムッ! リアムには、アリスの護衛を頼んだんじゃがのぉ! 『炎よ……』」
インキュバスがリアム様に向かって指を向けようとした瞬間、レオおじいちゃんがインキュバスに『火魔法』を撃った。
ボワッ! ヒューー、バァーーン!!
『ギャアアッ……』
インキュバスは全身を炎に包まれ、地面に崩れるように倒れた。
「テオ、凄いよ……ランクBの魔物を魔法2発で倒した!」
「ああ、インキュバスを早めに魔法で倒したのは正解だな。魔法を撃たれたら面倒だ」
「そうか……。あいつの弱点は『火魔法』と『光魔法』と『聖魔法』だ!」
タロウは、ダンジョンで魔物に『鑑定』しまくったらスキルが『B』に上がって、全ての魔物じゃないけど、弱点が分かるようになったんだって。見たことない魔物は必ず『鑑定』する癖がついたらしい。
「アリスがインプを見たら、速攻、魔法で倒すけど、インキュバスを倒す時もそうした方が良いのか……」
「そうね……タロウ、強めの魔法を撃たないと倒せないと思うから、タロウと私で同時に魔法を撃つのはどうかな?」
「ああ、アリス、それが良いな。俺は『挑発』を入れるが……言っておくが、お前達が本気で魔法を撃ったらタゲを取る自信はないからな! ハハ」
「タゲは俺がもらう!」
「タロウ……魔法は全力で撃たないでよ」
でも、『挑発』でタゲをあっさり取られる程度の魔法では、ランクBの魔物にダメージを与えられないと思う。2~3発の魔法で倒したいから、ランクⅢ以上の少し強めの魔法を使った方が良いよね。
リアム様は視線を前に向けていたけど、私達の会話を聞いているのか、チラッとこっちを見た。
「では、アリスとタロウ。あそこにいるサキュバスを倒してみますか?」
「「えっ!」サキュバス……」
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