第104話 スタンピード⑩ デーモン

 エリオット様が淡い光に包まれる――届いた!


「……(アリスか!?)」


 エリオット様が何かつぶやき、苦しそうだったエリオット様の表情が、緩やかに微笑んだ。


 良かった。魔法が効いたみたい……付加の続きをしよう。


「今、アリスが使ったのは『回復魔法』……それとも『聖魔法』ですか? しかし、ここから状態異常を治せるとは驚きですね」


「アリスはレオ様に貰った杖を持っていますからね。魔法効果もアップしますし、普通の魔法使いより少し遠くまで魔法が届くみたいです。それより、リアム殿……アリスの後ろ盾をお願いしますよ」


「あの杖で……もしかしたら、エリオット副隊長の受けている『呪い』を解くことが出来るかも知れませんね。ええ、テオ殿、になど、アリスを渡しませんから安心してください。フフ」


「良かった。これからも、リアム殿にアリスのマジックポーションを届けることが出来ますよ」


「テオ殿……それは宮廷魔術団の案件になります。もし、アリスが、マジックポーションを作るのに困ることがあれば、直ぐに連絡してください。対処します」


「リアム殿! ありがとうございます!」


 テオとリアム様が何か話しているけど、私は『聖魔法』の付加に集中――剣が光るまで何度も魔法を掛ける。


 エリオット様の片手剣に『聖魔法』の付加が終わると、タロウの「やったー!」と喜ぶ声が聞こえた。


 えっ、デーモンが倒されたの!? デーモンの最後の雄叫びと言うか、断末魔は聞こえなかったけど……見ると、デーモンが地面に倒れていた。


「おおー! リアム殿、デーモンが倒されましたよ!」


「ええ……しかし、属性魔法が効かないとは厄介な魔物です」


 デーモンが倒されたなら『聖魔法』の付加は要らなくなったけど……付加の消し方が分からないからこのままでも良いよね? その内、消えるだろうし。テオにもそう言って、エリオット様の剣を渡した。


「ああ、アリス、このままでも問題ないと思うぞ。この剣をエリオット様に渡してくる」

「うん」


 テオがエリオット様と剣を交換しに前へ行った時、黒い矢がいくつも飛んで来るのが見えた。


「えっ? テオ、危ない!!」


「エリオット! まだ2体おるぞ!」「不味い!」「魔法の壁だね!」


 直ぐに、レオおじいちゃんとロペス様が詠唱し、タロウも「『風』の壁ー!」と叫んで、エリオット様達の頭上までおおうように3重の魔法の壁を作って黒い矢を弾き飛ばした。


「何だって……」「「デーモンが2体!?」」


 テオは慌てて、エリオット様の剣を渡して、アルバート様と剣を交換して来た。


「アリス、アルバート様の剣だ。頼む!」

「はい!」


 隣でリアム様が「不味いですね……」と言うのを聞きながら、受け取ったアルバート様の剣に『聖魔法』を何度も掛ける――ポワッ……出来た!


「テオ!」

「よし、行って来る!」


 前方を見ると、エリオット様とアルバート様が、それぞれデーモンと対峙している。


 テオは剣を持って走り出すと、頃合いを見計らってアルバート様と剣を交換し、急いでロペス様の所に行って、何か喋って剣を交換した。


「アリス、ロペス様の剣で最後だ! 出来たら、俺も前に行くぞ」

「テオ……分かった」


 ロペス様の剣を受け取ろうとしたら、ロペス様とタロウが走り出すのが見えた。


「あっ……」


 テオの剣を持ったロペス様がアルバート様に付いて、タロウがエリオット様の横に……急がないと!


 ロペス様の剣に『聖魔法』の付加が終わると、テオがニカッと笑って私の頭を撫でる。


「ありがとな、アリス」

「うん……テオ、気を付けてね」


 走り出したテオは、ロペス様と剣を交換してタロウのいるデーモンに向かった。ゆっくりと大きく息を吸う――みんなの動きを見ないと。


 レオおじいちゃんとリアム様が、近寄ってくる雑魚の魔物を魔法で倒し、魔法で倒し損ねた魔物は、ロペス様が素早くデーモンから離れて止めを刺している。


 先ずは、前衛にいるエリオット様から『ヒール』を掛けよう――次に、アルバート様とロペス様――タロウとテオ。横にいるリアム様はいらないけど、レオおじいちゃんにも『ヒール』を飛ばす。


 デーモンが、エリオット様が振った『聖魔法』付きの片手剣を嫌がったのか、飛んで立ち位置を変える。


「逃げるな、デーモン! 『雷』行けー!」


 タロウが叫んで、デーモンに『雷魔法』を撃つと、テオが即座に『挑発』をいれる。


 デーモンの片翼が、ビリビリと音を立てながら煙をあげ……穴が開いた!


「「「おっ!」」『雷魔法』か!」「タロウ、上手いぞ!」


「むむー! 『雷魔法』は通るのかー! わしも欲しい……」


「フム、『雷魔法』が通るなら、『氷魔法』も効果があるかも知れませんね」


 リアム様、『氷魔法』もですか? あっ、『雷魔法』と『氷魔法』は、4属性魔法の上位魔法になるから?


「タロウ! こっちのデーモンも飛べないように翼に『雷魔法』を撃ってくれ!」


「アルバート様、分かりました! 『雷』行けー!」


 ビリッ! ビリビリ――、ドッカ――ン!!


 魔法を詠唱する時、基本の詠唱をカッコイイ言葉に変えたり足したりする人がいるけど、タロウの詠唱は分かりやすい。「『雷』行けー」とか、「○○を『回復』」って言うの。


 飛べなくなったデーモン達は、魔法を使うようになったけど、レオおじいちゃんとロペス様が魔法の壁を作って防いだり、タロウが詠唱を始めたデーモンの口に『雷魔法』を撃って止めたりしている。上手いな。


 詠唱を止められずに、誰かが『呪い』や弱体攻撃を受けたら、顔色が悪くなるから直ぐに分かる。


 急いで『聖魔法』や『回復魔法』を飛ばすと、戦闘中だから言わなくても良いのに「アリス、ありがとう」と声が返って来るから少し余裕があるみたい。


 攻撃の邪魔にならないように『ヒール』を順番に飛ばすと、剣に付加した『聖魔法』が効いているのか、デーモンの顔がどんどん歪んでいく。


『……!』


 先にエリオット様が対峙していたデーモンが倒され、続いてアルバート様もデーモンに止めを刺した。


「ふう~、終わったな」「「はい」終わりましたね」


「タロウ、頑張ったな!」

「うん。テオ、こいつ硬かったよ……」


 レオおじいちゃんが、「デーモンめ、わしの魔法を笑いよった……『雷魔法』が欲しい!」と言って、近くにいる魔物に向かって『火魔法Ⅳ』の『ファイアストーム』や『フレア』を撃っている……レオおじいちゃんが子供みたいです。


「マルティネス様、MPが勿体ないですよ……」


「リアムよ、アリスのマジックポーションがまだあるんじゃ。デーモンはもうおらんから、Aランクの魔物でも倒そうかのぉ」


「フム、そうですね……後処理が楽になるように、掃除でもしましょうか」


 それから、レオおじいちゃんとリアム様が先頭に立って、魔法での魔物討伐が始まった。


 2人とも、Aランクのマンティコアやオークキングを狙って、『火魔法』ⅢやⅣの魔法を撃ちまくるから爆音が凄いです。チラチラと周りにいる戦闘中のパーティーから視線を感じる……。


 ボワッ!ヒュ――、バァ――ン!!

 ボワッ! ゴゴゴーー、ドババァ――ン!!


 2人は淡い青紫のマジックポーションを飲みながら、最前線を思うがままに歩いて、その後ろをエリオット様達と私達が付いて行く……あっ、サキュバスやインキュバスも狙っている?


 ボワッ! ゴゴゴーー、ドババァ――ン!!


「テオ、あんな風に魔法を使えたらかっこいいな!」

「タロウ、あれを冒険者パーティーでやると嫌われるぞ。あんなことをするのは、レオ様だけだと思っていたんだが……リアム殿もか」


 いつも一緒にいると似て来るのかもね。おとなしかったタロウが、少しテオに似て来た気がするよ……ダンジョンに行き出してからね。


 あっ、レオおじいちゃんが、ニコニコと淡い青紫色のマジックポーションを飲んだ。リアム様まで……2人とも楽しそう。

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