第97話 スタンピード③ 第二波

 ブーーーー!! ブーーーー!!


 けたたましいサイレンの音に飛び起きた。


 はっ! サイレン……第二波が来た!?


 窓の外は真っ暗だ。えっと……今から競技場に集合かな? それとも、スタンピードはもう起きているから、昨日言われた時間に集合? どっちだろう……分からない!


 取りあえず制服に着替えて、台所で急いでサンドパンを食べる。テーブルに置いた木箱のサンドパンがそのままだから、テオ達は帰って来ていないんだ……。


 えっと……先ずは自家製ポーションを第一騎士団に届けて、その足で学園に向かおう。早かったら観客席で仮眠すれば良いよね。



 『身体強化』を掛けて走る。街灯もあるし、サイレンの音で起こされた家の灯りもあるから真っ暗じゃない。


 大通りに出て街の南西、貴族街にある第一騎士団の門に行くと、中が慌ただしいな。荷物を積んだ馬車が騎士団から出て行く。


 出入口の門番さんに「テオの薬屋です。依頼された自家製ポーションを50本届けに来ました」と声を掛けた。


「何! テオの薬屋!? 自家製ポーションを50本だって……有難い」


 門番さんに、木箱に入れた自家製ポーションの数を確認してもらい、納品書にサインしてもらう。


「いつも納品する商人から、薬草がないからもうポーションは納品出来ないと言われたんだ。お嬢ちゃんの店は、まだポーションは作れるのか?」


「えっと、薬草はまだあるんですけど、錬金術師が冒険者でスタンピードの討伐に参加していて、見習いの私は学園の生徒で、街の見回りに参加しているからポーションを作る時間が余りないんです」


「なっ、それは……何とかならないのか?」


「これから学園に行って、見回りが終わったらポーションを作りますので、明日の朝には50本届けられると思います」


「そうか……」


 ポーションが足りないんですか? と聞くと、門番さんは「いや、まだあるが……」と言うから、学園の見回りを休んでまでポーションを作らなくてもいいよね。


 ◇

 学園の競技場に行くと、ほとんどの生徒が来ていた。パーティーチームのみんなも来ていて、ミアが私を見つけて手を振ってくれる。


「アリス、来るのが遅かったね~」

「うん。今ね、第一騎士団にポーションを届けて来たの」

「え~、もう仕事をしてきたんだ! アリス、夜はちゃんと寝たの~?」

「寝たよ……」


 ミアが私のお姉ちゃんみたいなことを言う……。


 集合時間は授業の時間で良かったそうだけど、みんなサイレンの音に目が覚めて、じっとしていられなかったとか。だよね……第二波が来ているって分かっているのに、寝てなんかいられない。


 パン! パン!


 グレース先生が手を叩いた。


「皆さん、おはようございます。朝早くから集まって、やる気があるのは良い事です。折角、集まっていただいたので、時間を繰り上げて見回りを始めたいと思います」


 今日は、Aクラスは各詰所に向かい、Bクラスのチームから時間を置いて順番に見回りに出る。


 Bクラス最後のチームは私達で、出発する前に騎士科の先生から点呼されていると、サイレンが止まった。


「「「えっ!」」」「「「もう……!?」」」

「「第二波との戦闘が始まった!?」」


「ああ、始まったな。お前達、気を引き締めて行け」


「先生……「「はい!」」」



 まだ暗い中、学園を出て中央広場まで来ると、救護施設のテントに冒険者達が並んでいる。他のテントへの出入りも多くて……昨日と全然違う。


「多いな……」「「ああ……」」「治療の順番待ちか?」


 今並んでいるのは魔物から弱体を受けた人達……確か、30階までの魔物で弱体攻撃をしてくるのは、コカトリスの『石化』・インプの『暗闇』と『スリープ』。ジャイアントスネイクは、まれに『毒』攻撃をしたはず。


 これらの弱体異常は『回復魔法』と『聖魔法』で治るけど、MPが尽きると治せなくなるから、マジックポーションを使うか睡眠後のMPが回復するまで待つしかない。


 後は、『毒消し』や『万能薬』の薬で『石化』以外は治る。『毒消し』はどの薬屋でも売っているけど、『万能薬』はダンジョン産で出回る数が少ないから、魔法で治療してもらうしかないよね。


 ◇

 西門の広場に来ると、門の前に多くの冒険者がいた。門が開くのを待っているみたい。


 みんな厳しい表情をしているけど、緊張をほぐそうとしているのか「サキュバスは俺に任せろー!」とか「俺のだー!」と叫ぶ人がいて、笑いが起きている。


「お前ら、『魅了』されたいのか? 馬鹿どもが!」

「お前らはインキュバスの相手でもしていろ! ガハハハ!」

「「何だとー!」」

「ブハッ! お似合いだぜ!」


 これから第二波の強い魔物と戦うのに……心強いな。確か、両方とも闇属性の人型の魔物だったよね……魔物の本に載っていた絵を思い出しながら壁沿いを北門へ進んだ。


 もう直ぐ、街の北西の角にある物見櫓ものみやぐらに差し掛かる頃、前方に何か……気配がする。


 バサバサー……


 かすかに羽ばたく音がして、暗闇の中にキラっと何かが光った。


 ん? 目を凝らして見ると……大きな目? の黒い塊が、翼を広げて浮かんでいる。


 えっ、インプだ! 街に入って来たの!? 確実に魔法が届く所まで行かないと! 『身体強化』を最大に掛けて走った――。


「「「アリス?」」」「どうした?」


 先頭を歩くロレンツ様とタイラー様を追い越し、杖を掲げて『風魔法』を撃った!


 シュワッ! シュー、ズバァー!!


『キキッー!』


「なっ、インプか! 『挑発!』」


 追いかけて来たイーサン様が、素早く『挑発』を入れて突っ込んで行く。


「「「あそこか! 『挑発!』」」」


 ロレンツ様達もインプに向かって走り出し、駆け付けたソフィア様達もインプに向かって魔法を撃った。


 シュワッ! シュー、ズバァー!!

 ボワッ! シュー、バアーン!!

 シュワッ! シュー、ズバァー!!


『ギャ! ギャーー……』


「「やったか!?」」「「おおー!」」「「瞬殺だ!」」


「へへっ~、私は3番~!」


 ミアが嬉しそうに指で3の数字を作って振っている。ソフィア様とミハエル様は、2発目の『風魔法』は自分だと言い合っている。ふふ。


「『挑発』は俺が1番だな! フフ」

「「「……」」」「クソッ……「負けた……」」


 騎士科も競争をしていたのかな?


 インプの残骸を北門の詰所にまで持って行くことになり、状況を聞かれるだろうと話しながら、北門の詰所へ向かった。


 壁の向こうからは魔物の雄叫びや怒号が聞こえて来たけど、その後、こちら側に魔物が現れることもなく、空が少し明るくなった頃、北門広場の詰所が見えてきた。


 そこには、テオと手を振るタロウの姿が見える。


「「アリス!」」


「あれ? テオ、タロウも……どうしたの?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る