第98話 スタンピード④ 2日目ポーション作り

「アリス、店に帰ってポーションを作るぞ。学園には第一騎士団から話を通している」

「えっ、テオ?」

「アリス、エリオット様からパーティーへの依頼だよ」

「タロウ、依頼?」


 テオが、ロレンツ様達に第一騎士団からの依頼書を見せて、私を連れて帰ると話している。


「分かりました。先生には、ここでアリスと別行動になったと報告します」


「ああ、学園にも第一騎士団から連絡が行っているはずだ。よろしく頼む」


 チームのみんなと別れて、店に戻りながら話を聞いた。


「ロペス殿が俺達を探して来たんだ。今回のスタンピード、第一波の魔物の数が多過ぎて、昨日の時点で集めた半分近くのポーションを既に使ったらしい」


「えっ、テオ……第二波の魔物の方が強いよね?」


「ああ、そうだ」


 単純に考えて、第一波で使った数以上のポーションが必要になるはず……。


「アリスからポーションを作れるって聞いた門番から、話しが伝わったらしい。それで、エリオット副隊長が、冒険者ギルドを通して俺達に指名依頼を出したそうだ」


 商業ギルドからも緊急の薬草収集の依頼が出たそうだけど、テオは、第二波が来ている中、薬草を採りに行くのは簡単じゃないし、時間が掛かるだろうと言う。


 今朝、第一騎士団にポーションを届けに行った時、門番さんは『まだある』って言っていたけど……『ポーションが足りなくなりそうだ』なんて、騎士団内部のことは話せないか。


「分かった。テオ、帰ってポーションを作ろう」

「ああ、有るだけの薬草を全部ポーションにするぞ」

「「うん!」」


 ◇

 店に戻って作業場で、洗っていない薬草をタロウに渡して、テオには洗った薬草を100枚ずつ桶に入れてもらう。


 さあ、ポーションを作ろう。


 昼頃、テオに出来上がったポーションの内の100本を、第一騎士団に持って行ってもらった。夕方、更に100本。夜はゆっくり休憩を兼ねて食事をする。


「さっき、第一騎士団にポーションを持って行った時、門番から泣きそうな顔をして礼を言われたぞ」


 もう第二波との戦闘が始まっているから、ポーションの消費が多いのかもね。


「そっか~。タロウ、薬草集め頑張って良かったね」

「うん……」


 タロウを見ると少し照れたような顔をしている。


「お前達、後、ポーションと薬草はどれくらいあるんだ?」

「えっと、作ったポーションは……バッグに160本あるよ。タロウ、薬草はどれだけ残っているの?」

「後……150本分はあるかな」

「そうか、十分だな!」


 テオが、今日、薬草を集めに行っている奴らがいるだろうから、明日には他の薬屋がポーションを納品するだろうと言う。


「今日のポーション作りは終わりにして、残りは明日にしよう。お前達、今夜は早めに寝るんだぞ」

「うん」「分かった」


 今朝も、かなり早い時間にサイレンで起こされたからもう眠い……直ぐにでも眠れそう。



 ◇◇

 翌朝早くテオに起こされて、台所でパンとスープを食べ始めたら、目を擦りながらタロウが起きて来た。


「「おはよう」」

「おう、タロウ、早く食べてしまえ」


 信じられないことに、テオが1番に起きてスープを作ってくれたの。


「俺は今からポーションを100本届けて来るから、お前達は残りのポーションを作ってくれ」

「うん。テオ、いってらっしゃい」

「ふぁ~。テオ、分かった」


 タロウ、まだ眠たそうだね。


 ◇

「テオ、終わったよ~」

「お前達、頑張ったな!」

「うん、頑張った……」


 昼過ぎにポーションを作り終えた。今、手元にポーションが210本あるけど、全部納品したら常連さんの分がなくなってしまうから、200本を納品して半端の10本は残すことにした。


 これで、第一騎士団に合計700本のポーションを納品することになる。私達、頑張ったよね~。


 ◇

 3人で、第一騎士団に最後のポーションを届けると、テオは門番さんに『ありがとう!』って、ブンブンと握手をされた。ふふ、嬉しいな。


 この後、依頼達成の書類をギルドに持って行く。ギルドへ書類を届けたら、テオ達はそのままギルドに残るけど、私は学園に行ってパーティーに合流するつもり。


 貴族街から大通りに出て、中央広場を抜けて冒険者ギルドに向かおうとしたら、救護施設のテントから人が溢れている。40~50人はいるかな……。


「何でこんなに人がいるんだ……」

「ね……騎士様までいる」


 タロウと私の疑問に、テオが「聖女と治癒士のMPが切れて、治療が出来ないんだろう。第二波には、弱体異常の攻撃をしてくる魔物が多いからな」って言う。


 そうか……私が深い階層の魔物を調べた時、『暗闇』・『スリープ』・『石化』・『毒』攻撃・『麻痺』・『ポイズン(毒)』・『魅了』の弱体攻撃をする魔物がいたな。


「騎士がここにいるってことは、北門の詰所にいる治癒士もMP切れで、弱体異常の治療が出来ないってことだ。怪我はポーションで治せるからな」


 それで中央広場の救護施設に来たけど、ここにいる聖女も治癒士もMPがもうないの? まだ昼過ぎなのに、弱体異常を受けた人が多いのか……私が、『回復魔法』を掛けてもいいのかな?


「今、この街の教会には3人の聖女がいるはずなんだが、救護施設には1人しか来ないらしい」

「えっ、テオ、どうして?」

「テオ……3人いるなら、交代して治療すればいいんじゃないのか?」


 教会側が言うには、神は癒しを求める信者の為に聖女を遣わした。だから、教会に聖女を不在にすることは出来ないとか……何それ?


 王国からの依頼で、毎日1名の聖女を派遣している。それで癒しが足りないのなら教会で治療を……えっ、お布施を払って治療を受けろって!? 


「何よ、それー!? 今はスタンピードで大変なのに、信じられない!」

「何だよ、それ! 教会は金儲けのことしか考えてないのか!?」


 私とタロウが大きな声をあげてしまった。


「ああ、教会はそんな奴らだ……アリス、余り興奮するな。目が赤くなっているぞ」


 目が赤く? そんなことより……凄く腹が立って来た。隣でタロウが「俺が『聖魔法』を使えたら……」って言っている。私、使えるよ!


「テオ! 『回復魔法』や『聖魔法』を使って良いかな? ここにいる人たちは、スタンピードの魔物を倒そうとして弱体を受けたんだよ! 私、街を守ろうとした人達を治したい!」


「ハハ、良いぞ、アリス。教会が何か言ってきたら、レオ様とリアム殿が何とかしてくれるから心配するな。最悪、街を出れば良いだけだからな」


 教会にバレても構わない! 今、私に出来ることをしたい……。


「アリス、俺も手伝う!」

「うん! タロウも手伝って!」


 タロウの『回復魔法』も『D』に上がっているから、『暗闇』と『毒』なら治せる。MPも増えたって言っていたから、2人でかなりの人を治せるはず。


 時間が掛かりそうなので、テオに依頼達成の書類をギルドに持って行ってもらうことになった。

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