第96話 スタンピード② 1日目
研究員の魔力さえ使わないと戦力が足りない……とか?
……悪い方に考えるのは止めておこう。
◇
街の見回りを終えると、フランチェ先生が、この後は東門の詰所で手伝いをして、日が暮れる前に学園に戻って来るようにと言われた。
チームで東門の詰所に行くと、受付に複数の冒険者が……みんな泥だらけだ。救護班のテントで治療を受けている冒険者もいる。
騎士科のメンバーは馬の世話と荷運びの手伝いに向かい、ソフィア様とミハエル様は詰所の受付を手伝っている。ミアと私は、朝、指示してもらったベテランの警備兵さんを探した。
ベテランの警備兵さんに付いて、救護班で使う布や薬を運ぶ手伝いをしていると、休憩所のテントで仮眠を取っている冒険者達がいた。
「あいつらは、宮廷魔術団が出て来たから、一旦、休憩しに戻ったそうだ」
宮廷魔術団……あぁ、さっきの研究員の方達ね。
「今、仮眠して、夜中に他の冒険者達と交代するらしい。魔物には昼も夜も関係ないからな」
「ええっ! 魔物は寝ないんだ~」
「そう言われれば……」
ダンジョンの中で魔物が寝ている姿を見たことがない。ジャイアントスネイクは、道の真ん中でじっとしているのもいたけど……。
「スタンピードでダンジョンから溢れた魔物は、倒されるまでずっと攻撃してくるってことですか?」
「そうだ。下手に長時間頑張って怪我をするより、休憩しながら旨く立ち回る方がいいんだ。全ての魔物を倒すまで時間が掛かるからな」
「そっか~」「長期戦なんですね……」
日が暮れる頃に冒険者達が東門から帰って来て、代わりに街の外に向かう冒険者達もいる。
そろそろ学園に戻ることになり、チームのみんなが集まるのを待っていると、東門から馬に乗った騎士団が帰って来るのが見えた。
ドラゴンの時にいた第二騎士団の補佐の騎士様が見えたけど、隊長らしき方(ギーレン副隊長じゃなかった)とそのまま北門へと向かった。他の騎士様は馬から降りて詰所の受付に並んでいる。
あっ、ハロルドさんだ!
「ハロルドさん!」
思わず駆け寄って怪我をしていないか見る……返り血を浴びているようだけど、大きな怪我はなさそう。良かった。
「アリスじゃないか! そうか、学園の生徒だったな。手伝いご苦労様」
「いえ、私に出来ることなんて限られていますから。ハロルドさん、『回復魔法』を掛けさせてください」
「怪我はしていないよ」と言うハロルドさんに、『ヒール』・『クリーン』とつぶやく。
「ありがとう、アリス。身体が軽くなったよ。凄いね~、鎧まで綺麗になって……何だか、僕だけ仕事をしてないみたいだね。フフ」
「えっ?」
あっ~、周りの騎士様も魔物の返り血や泥で汚れていたので、『浄化魔法』を使わせて欲しいと言って『クリーン』と『ヒール』を掛けていった。あっ、ドラゴン戦で一緒だった騎士様もいる。
「ハロルドさん、これで皆さんの鎧も綺麗になりましたよ。じゃあ、私、学園に戻りますね」
「ああ、アリス、ありがとう」
ハロルドさんや他の騎士様に挨拶をして、みんなと学園に戻った。
◇
学園の門で騎士科の先生に点呼され、明日は授業が始まる時間に競技場に集合だと言われた。
「食堂で食事をしたら解散だ。しっかり食べて、今夜はちゃんと休むんだぞ」
「「「はい!」」」
食堂に入ると良い香りがして来た。いつもはメニュー毎に並んで料理を受け取るのに、キッチン近くのテーブルに出来上がった料理がズラリと並んでいる。
「皆、食べ放題らしいよ」
ロレンツ様の言葉に、ミアがいち早く反応した。
「ええー! ロレンツ様、食べ放題ですか!? やった~! アリス、行くよ!」
「えっ、う、うん」
ミアに引っ張られて、トレーとお皿を持って料理を取って行く。
「アリス、どうしよう~、好きなだけ食べていいんだよね? 全種類食べたいな~。ふふふ」
「えっ! 全種類? ミア、無理だよ……」
「ミア……、色々食べたいなら少しずつお皿に取るようにね」
ソフィア様が、お皿に取った料理は残さず食べるように言っている……ミアのお姉さんみたいです。
「はい! ソフィア様、絶対に残しません!」
ふふ、ミアが目をキラキラさせている。お昼は、見回りをする前に少し干し肉を齧った程度だったから、お腹が空いているのかもね。
イーサン様を始め騎士科のメンバーは、肉料理ばっかり取っている。リーダーの2人とソフィア様、ミハエル様は色んな料理を少しずつ取って上品です。私もソフィア様を見習おう……美味しそうな料理と気になる料理を一口ずつお皿にのせていく。ふふ。
いつものテーブルだと席が足りないので、2つのテーブルに分かれて食事をした。
いつもよりみんな口数が少なくて、話す内容はスタンピードの話ばかり。明日はBクラスから見回りをするらしいので、遅刻しないようにとリーダー達から言われた。
ガタッ、ガタッ、
ん? イーサン様とミアが席を立って、おかわりを取りに行くみたい。イーサン様は分かるけど、ミアも? 凄い食欲だね。
ミアに、私もおかわりしないのかと聞かれたけど、やんわり断った。私はこの後、店に帰ってポーションを作らないといけないからね。食べ過ぎると眠たくなってしまう。
「えっ、アリスは帰ってからポーションを作るのか?」
「はい、タイラー様。第一騎士団から自家製ポーションの依頼を受けていて、作ったら届けるようにと言われています」
「えっ、第一騎士団から直接依頼を受けているのか!?」
ロレンツ様が、「アリスの店はマルティネス様専属の薬屋なんだよ」と説明してくれる。
「あっ……聞いたことがある。確か、ドラゴンの討伐で……そうか、アリスの実家が……うん? マルティネス様専属の薬屋が何故、第一騎士団から依頼されるんだ?」
「相変わらず、タイラーは鈍いな。マルティネス様と第一騎士団の副隊長は血縁者じゃないか。ハハ」
タイラー様は噂話には無頓着で、「タイラーは、自分の剣の腕を磨くことにしか興味がないんだよな~」と、騎士科のメンバーに茶化されている。
じゃあ、お先に失礼しますと席を立った。
「アリス、夜遅くまで仕事したらダメよ」
「アリス~、また明日ね!」
「はい、ソフィア様。ミア、明日ね」
やっぱりソフィア様はお姉さんみたいだと思ったら、ロレンツ様やミハエル様にまで、ちゃんと睡眠を取るように言われた……はい、ちゃんと寝ますよ。明日、遅刻なんて出来ませんから。
◇
店に帰ると、テオとタロウはまだ帰ってなくて、台所のテーブルに保存用の木箱にサンドパンを入れて置いておく。
テオ達は忙しくて詰所で仮眠しているのかも。タロウに、店売り用のサンドパンを多めに渡してあるから食べる物には困らないだろう。
作業場で、今から作るポーションの数だけ薬草を出した。
今日は30本作ったら寝よう。今朝は早かったから、明日寝坊しないようにちゃんと睡眠を取らないとね。
明日、早めに起きたら、第一騎士団に自家製ポーションを持って行こう。騎士団のポーションが余っているかも知れないから、50本だけ持って行こうかな。
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