第93話 備える

 学園から帰って来ると、テオとタロウが作業場で薬草を洗っていた。タロウがおけでジャブジャブと土を洗い流して、洗い場でテオが葉を1枚ずつ丁寧に洗っている。


「アリス、いつもの場所で魔力草を5枚採って来た。2枚残したぞ」

「結構、育っていたね。テオ、ありがとう。先にポーションから作るね」


 テオから魔力草を受け取り、私のバッグに残っている薬草を全部タロウに渡した。


「タロウ、これでバッグにある薬草全部だよ。お願いね」

「うん、任せて」


 私は別の桶に『浄化魔法』と『聖魔法』を掛けた水を準備して、テオが洗い終わった薬草を10枚ずつ束ねていく。


「アリス、タロウ、明日の朝、出来上がったポーションを第一騎士団に持って行く。で、そのまま薬草を採りに行くからな」


 スタンピードが起きたら街は完全に閉鎖されるんだって。そうなると、薬草を採りに行けなくなるから、今はポーションを作るより薬草を集めるのが優先だと言われた。


「うん、「分かった」」


 ◇◇

 翌朝、作ったポーションの内の50個を第一騎士団に届けて、3人で<大森林>に行った。


 前日、テオ達が薬草を集めた場所から離れた所で薬草を探す。ここにも石の柱があるけど、いつもの柱と大きさが少し違うな。


「あっ! アリス、あそこ!」


 タロウが指差した方を見ると、石の柱の後ろ側にある茂みに隠れるように青紫色した葉っぱが見える。


「ん……? あっ、魔力草だ! 凄い……タロウ、良く見つけたね!」

「えっ、凄くないよ……。アリス、これでもっとマジックポーションが作れるね」

「うん! タロウ、ありがとう」


 タロウと茂みに近寄ると、きれいな青紫色した魔力草が……うわ~、いっぱい生えている! 


 思わずタロウを見て「タロウ、凄いね……」と言うと、「アリス、褒めすぎだよ~」って、照れている。ん? 魔力草の数が凄いんだけど……うん、タロウも凄いよ。ふふふ。


「お前達、奥に行くなよ」


「テオ、タロウが魔力草を見つけたの! 直ぐそこだから」

「テオ、柱の後ろにあるんだ!」


「ほお~、魔力草があったのか! タロウ、でかした!」


 いつも採っている魔力草が1株だとしたら、ここには2~3株くらいあって10枚は採れるかな? 昨日テオが5枚採ってきてくれたから、合わせて15本のマジックポーションが作れそうね。


 タロウとしゃがみ込んで魔力草を採り始めたら、奥から『グルルル……』と獣の唸る声が聞こえてガサガサと何かが動く音がする。


「タロウ、こっちに何か来るよ……」

「近いね……」


 現れたのは大きな茶色い熊で、2本足で立ち上がって私達を威嚇いかくして来た。


『ガアアァーー!』


「ビックベアだ。俺が倒して来るから、アリスは魔力草を採っていて」


 タロウがスッと立ち上がって、ビックベアに向かって行く。


「えっ! タロウ、一人で大丈夫?」


 ビックベアは、コカトリスやジャイアントスネイクより格下の魔物だから、タロウは自分だけで大丈夫だって言う。


「タロウ、俺も行くぞ。アリスに良い所を見せないとな!」

「テオ……仕方ないな」

「へっ?」


 なんか、テオが変なことを言う……父親としての威厳いげんを見せたいのかな?


 威嚇して来たビックベアは、タロウとテオにあっという間に倒された。


「タロウ、ビックベアの毛皮は売れるんだが、今は解体する時間が勿体ない。魔石があるか見たら、後は処理するぞ」

「分かった」


 ああ、大きなビックベアの毛皮をいだら1時間はかかりそうだね。


 魔石があったみたいで、テオが手早く魔石を取り出した。私が『土魔法』で掘った穴に、タロウがビックベアの亡骸を落として『火魔法』を放つ。手慣れたもので10分も掛からないよ。


 ついでに昼食を取ってから薬草集めを再開したけど、午前中に比べるとペースが落ちて来るね……。


「そろそろ戻るぞ」

「うん」「はい」


 ここから街まで戻るのに2時間くらい掛かるから、日が傾く頃には街に向かうの。


 ◇

 街に戻って店に戻る途中、お気に入りの屋台で串焼きを多めに買い込む。タロウか私のバッグに入れておけば、いつでも出来立ての串焼きが食べられるからね。


「アリス、今朝、騎士団にポーションを持って行ったから、先にマジックポーションを作ってくれ。リアム殿に届けたいんだ」


「分かった。帰ったらマジックポーションを作るね。この2日間で薬草をかなり集めたから、テオ……明日は店に残ってポーションを作ろうかな?」


 週明けには学園に行かないといけないから、作れる時にポーションを作っておきたいな。私が1日頑張ってポーションを作っても、100本くらいしか作れない。テオ達に、薬草洗いを手伝ってもらったら、150~200本は作れるかな?


「そうだな。明日は俺とタロウだけで薬草を採りに行こうか」

「分かった」


 店に戻って、私がマジックポーションを作っている間、テオとタロウには薬草を洗ってもらう。


 2時間近く掛かって、やっと淡い青紫色のマジックポーションが出来た。


「テオ、出来たよ」

「どれ……アリスのマジックポーションは相変わらず綺麗だな」

「うん。テオ……これ、飲むのが勿体ないよ」

「えっ、そう? ふふ」


 嬉しいな……2人して褒めてくれる。


 テオは、出来上がったマジックポーションを早速リアム様に届けると言う。


「15本出来たけど、半分でいいかな?」

「ああ、何があるか分からんから、アリスも持っていろ」

「うん。タロウもマジックポーションいる?」

「俺は使わないと思うけど……じゃあ、1本だけ」


 タロウに1本渡して、残りの半分……7本だと、レオおじいちゃんとリアム様が喧嘩になるだろうから8本テオに渡した。残りの6本とバッグにある3本で、私のマジックポーションは9本になるから十分だよね。


「今からリアム殿に届けて来る。帰ったら食事にしよう」

「うん、「いってらっしゃい」」


 さて、次はポーションを頑張って作ろう。先ずは薬草を洗わないとね。


 ◇

 夜、食事の時にテオから聞いたけど、宮廷魔術団に行くとリアム様の執務室まで通されたそうです。


 テオがリアム様に「遅くなって申し訳ない」と言うと、「テオ殿! 待っていましたよ!」と抱き付かれてビックリしたって言う。


 ソファーに座ってテーブルにマジックポーションを並べていたら、「テオ殿が来たと聞いたが、アリスはおらんのか!?」って、レオおじいちゃんが部屋に飛び込んで来たそうです。ふふ、レオおじいちゃんらしいね。


「レオ様がな、テーブルに並べたアリスのマジックポーションを見つけると、『おお……』って、動きが止まって顔がくちゃくちゃになったんだ……」


 2人して、マジックポーションをうっとり見つめて、何かつぶやいているのが怖かったんだって。


 いつも2本しか納品しないから、8本もテーブルに並んだのが嬉しかったのかな? ふふ。

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