第91話 『魔物討伐の実習』10階~
今週の『魔物討伐の実習』から、2パーティーでチームを組んでダンジョンに入るそうです。
ダンジョン前の広場で、一緒に行動するパーティーが発表され、私達ロレンツ様のパーティーは、騎士科のタイラー・バートン様が率いるパーティーとチームを組むことになった。
「アリス、やったね! 同じチームだよ~!」
「うん! ミア、一緒だね!」
つまり、ミハエル様とミアがいるパーティーです。やった~!
こっちの騎士科のメンバーはイーサン様とポール様だから、ミハエル様とミアも知っている。
「おっ、この前の試食会の顔ぶれだな!」
「本当だ。顔見知りの魔術師で良かったよ。フフ」
イーサン様とポール様は気が楽だと笑っている。
「今日はユーゴがいませんけどね。あははは!」
「きっと、ユーゴが聞いたら
騎士科のCクラスは警備兵の研修が始まっているけど、ユーゴなら「俺もダンジョンに行きたい!」とか言いそう。
「ミア、アリス、嬉しいのは分かるけど、ダンジョンに入ったら気を抜かないでね」
「「はい! ソフィア様」」
「フフ、僕も頑張ってソフィア様とアリスに良い所を見せないとね~」
ミハエル様も嬉しそうですよ。ふふ。
茶色の短い髪をしたタイラー・バートン様が、褐色のきりっとした目でこちらを見ている。
「知り合いだったのか。仲が良いのは構わないが、ダンジョンに入ったら気を引き締めてくれ」
真面目そうなリーダーです。向こうのリーダーと騎士科の方とは初めましてなので、ちゃんと挨拶をしないとね。
そして、リーダー達が話し合って、今日は20階を目指すんじゃなくて、複数体で出て来る狼やゴブリンの討伐に慣れようと言うことになった。
◇
Aクラスのチームから順番にダンジョンへ入って行き、私達が最後のチーム……これは、いつもと変わらない。
ダンジョンに入って、右側の小部屋にあるワープ・クリスタルで10階までワープして、魔物が出て来たら、それぞれのパーティーが交互に魔物を倒して進んで行く。
10階は相変わらず魔物が少なかったけど、11階では魔物の現れる回数が増えた。普通に地図を見ながら最短ルートを進んでいるのに……。
12階のフロアーなんて、13階への階段までかなりの時間が掛かっている。3体セットの魔物を倒すのに少し時間は掛かるけど、パーティーの連携が取れていないわけじゃなく……単に魔物の数が多い? 私達が最後のスタートなのに……不思議。
もうお昼をだいぶ過ぎているので、13階へ下りる階段で休憩することになって、リーダー達と騎士科の方は階段の入口近くに座り、魔術科の4人は階段奥に座った。
私がバッグからサンドパンを取り出して食べ始めると、ミアもにこにこしながら自分で作って来たサンドパンを頬張っている……食べるスピードが早いね。
「具材はアリスのと変わらないのに、アリスが作るサンドパンの方が美味しいのよね~」
「ええ、ミアの言う通りね」
「そうですか? ミア、ソフィア様、ありがとうございます」
ミアはあっという間に食べ終えて、ごそごそとカバンから2つめのサンドパンを取り出した。
「えっ、ミア、2個も食べるの?」
「うん。だって、1個だと直ぐにお腹が空いちゃうからね~」
ミアは小さな声で、ダンジョンに入るようになってから、たくさん食べるようになったと言う。
「他のメンバーは干し肉しか食べないんだよ。あれだけじゃ、足りないよね~」
「うん、それは思う」
バートン殿のパーティーは、ミアだけがサンドパンで、ミハエル様と他のメンバーは干し肉を食べている。
ロレンツ様のパーティーは、みんなサンドパンを持参していて、試食会の後からイーサン様もサンドパンを持って来ているの。パンが潰れているけどね。ふふ。
ミアは、待たせるのが悪いからいつも急いで食べているそうで、
「2個食べてもね、夕方になったらお腹が減っちゃって……夜ご飯をいっぱい食べるから、太らないか心配になるよ~」
寮の食堂はおかわり自由だとか……それは、食べてしまうよね。でも、ミアが太るか心配するなんて、どれだけ食べているんだろうと考えていたら、リーダー達の会話が聞こえて来た。
「タイラー、魔物が多いね……」
「ああ、おかしいな……。ロレンツ、戻ろうか」
「うん、そうしよう。3体の狼やゴブリンは10階でも出て来るからね」
リーダー達の話し合いの結果、休憩の後は下の階層には進まないで10階へ戻って狩りをすることになった。
◇
日が傾く前にダンジョンから出て学園に戻ったら、教室には私達しかいなかった(いつもだけど)。ミアに、レポートには何て書くのか聞いたら、
「えっとね、ソフィア様とアリスが一緒で嬉しいって書くよ~。あっ、ロレンツ様のことも書かないとね!」
私も、知らない人とパーティーやチームを組むより、知り合いと一緒の方が安心するって書こうかな。
「アリスは~?」
「魔物が、いつもより多かったって書こうかな」
「なるほど~! 私もそれ書くね」
「うん」
同じチームだから、書く内容が同じでも問題ないと思う。
◇◇
翌日、魔法の演習の授業で、グレース先生がダンジョンの『魔物討伐の実習』を延期すると言われた。
「「「えっ……」」」「「「どうして?」」」
みんなが、ザワザワしだした。
昨日の『魔物討伐の実習』で、Aクラスのチーム数組が、早くも20階のワープを通したそうです。
そのチームの報告で、18階と19階のフロアーで、いるはずのないホブゴブリンやハイオークがいたとか……それって、20階から出て来る魔物だよね。
「本来、20階から下層に出て来る魔物が、階段を登って19階に現れることはありえません。まして、18階になど……」
「ええ、グレース先生のおっしゃる通りで、これはスタンピードの
「「「えっ!?」」」「「「スタンピード……」」」
フランチェ先生の言葉にみんなが驚いた。
先生達は、昨日の時点で学園長に報告して、『魔物討伐の実習』を中止・延期することに決まったとか。その後、学園から王国に連絡が行き、今日から騎士団・宮廷魔術団が調査に向かうそうで、教会と冒険者ギルドにも緊急依頼が出されるだろうと言う。
「えっ、教会に? あっ、聖女様にパーティーの依頼をするのか~。聖女様はワープを何階まで開通させているのかな?」
「ミア……たぶん、パーティーの依頼じゃないと思うよ……」
『鑑定の儀』で『聖魔法』を持っていると分かると、聖女として教会に入る……10歳から囲われるから、ダンジョンなんて行ったことないと思う。
◇
食堂ではダンジョンの話で持ち切りだった。「スタンピードはいつ起きるのか?」「このまま王都にいて大丈夫なのか?」とか、あちこちから不安そうな声が聞こえてくる。
私達のグループもスタンピードの話になった。
「ねぇねぇ、もしスタンピードが起きたら、私達も駆り出されるのかな~?」
「「「……」」」
「僕達、騎士科は見回りに参加するだろうね」
「俺もそう思う」
「魔術科の私達が駆り出されるとしたら、後方支援かしら」
「ソフィア様、僕もそう思うよ。僕達は、ダンジョンの浅い階層の魔物しか狩っていないからね」
初心者の私達が魔物の討伐に加わったら邪魔だよね。
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