第90話 ランクアップ

 29階フロアーは、他のパーティーが狩りをしていたせいか、1時間程で下への階段に辿り着いた。


「アリス、タロウ、下りてワープを開通させるぞ」

「うん」「30階だ!」


 タロウが嬉しそうに先頭に立って下りて行く。階段を下りた30階のフロアーは、洞窟じゃなくて四角い通路になっていた。天井も壁もむき出しの岩肌じゃなくて、石を積み上げたような造りで、道幅は今までの階層より少しだけ広い気がする。


「上の階と違う。石垣だ……」

「うん。タロウ、誰かが作ったみたいだね……」


 タロウは近付いて壁を触っている。


「ここはこんな造りだが、ダンジョンによって階層の景色が違うんだ。フロアーが草原や森になっているダンジョンもあるぞ」

「えっ? テオ、ダンジョンの中に草原や森が……」

「それ、授業で聞いたことがあるよ……」


 確か、深い階層まであるダンジョン程、景色が変わる――


『<リッヒ王国>にある4つのダンジョンの内、<トロムダンジョン>と南東にある<大森林ダンジョン>の2つが、かなり深い階層まであると言われています』


 ――って、フランチェ先生が言ってた。



 壁沿いに右へ進むと、背の高いキラキラした乳白色のワープ・クリスタルがあって、3人でクリスタルに触れて1階にワープする。これで30階のワープを開通だ。


 まだ時間は早かったけど街に戻ることにした。この2日間頑張ったし、明日からは学園だからね。


 そう言えば、誰もコカトリスの嘴攻撃を受けなかったから『石化』にならなかった。良いことなんだけど、私の魔法で『石化』が治せるか試してみたかったな。


 ◇

 ギルドの買取りカウンターに行くと、テオの知り合いの古株のギルド職員さんがいた。


 テオが軽く挨拶を交わした後、私がドロップ品を出し始めると、カウンターが魔石やオーク肉の塊で山盛りになっていく。2日分だからね。


「お、おい……まだあるのか!?」


 ジャイアントスネイクの肉と皮も出して、コカトリスの羽も……あっ、スキル書も忘れずに出さないとね。


 あれ? 古株の職員さんが固まって、眉間にシワが寄りはじめた。


「なっ、何だ! この魔石の数は! スキル書まであるのか……テオ、どれだけダンジョンに潜っていたんだ?」


「あ~、30階のワープ・クリスタルを目指したからな。相変わらず魔物が多くて、かなり時間が掛かったぞ。前に入った時は、もう少しマシだった気もするが……」


 テオの言葉に古株の職員さんが呆れた顔をする。


「そりゃ~、20階から30階のワープを取りに行くなら魔物がわんさかいるが……もしかして、こいつらのワープを通したのか!?」


 古株の職員さんが「まだ新人だったよな……」と言いながら、まじまじとタロウと私を見る。そして、タロウと私に冒険者カードを見せるように言うから、カードを渡した。


「むうぅ……ランクEの子供を2人連れて、30階のワープを通したのか!? ありえんだろう!」


 テオが「大丈夫だ。コカトリスの嘴攻撃も受けなかったからな」と言うと、古株の職員さんが「お前ら、どれだけ運がいいんだ!」と怒鳴っている。


「無理はしてないぞ。こいつらには、21階辺りで十分に慣れさせたからな」


 テオの言う通りで、後半は少し余裕がありましたよ。


「それにしてもだ……まったく。はぁ~、換金するから少し待ってろ」


 100個近い魔石をランク分けするだけでも時間が掛かるだろうな。スキル書は、身体強化の『挑発』が4つと、闇魔法の『暗闇』が3つも出たから良い値段になるだろう。上質肉とコカトリスの肉は出さなかったけどね。


 古株の職員さんが戻って来て、小さい声で金額を言う。


「(金貨439枚と銀貨7枚だ)」


「ほお~、かなり稼げたな!」

「えっ!」「なっ!」


 私は思わず口を押えてタロウを見たら、タロウも目を見開いてこっちを見た。目で、『凄い金額だよ!』って言っているのが分かる。うん! タロウ、凄いね。


「テオ、白金貨でいいか? それとも金貨で渡すか?」


「ゲイル、白金貨3枚と後は金貨で頼む。こいつらだと、白金貨は使えんからな」


 白金貨だって……心臓が、バクバクしてきた。


「そりゃそうだが、金貨でも不味いんじゃないのか?」


「こいつらは、金の使い方には慣れているから大丈夫だ。アリス、タロウ、今回は稼げたな!」


 ……凄い大金なのに、テオはいつもと変わらないね。


「テオ……うん。良かった……ねぇ、タロウ」

「う、うん。す、凄いよ……」


 お金は、テオが一旦預かって帰ってから分配するんだけど、いくらになるのか……あっ、タロウはもう計算をしているのかな?


 換金が終わって、古株の職員さん――テオが「ゲイル」って呼んでいた――が、「30階のワープを通している新人の冒険者なんていないからな」と言って、タロウと私を冒険者ランクDに昇格してくれた。


「後、ランクBの魔石を何個かと、ハイオークの上質肉を持ってきたら直ぐにでも『C』にしてやるぞ」


 古株の職員ゲイルさんの言葉に、テオが急いでランクを上げる必要はないからなと言っている。


「えっ、上質肉を……(嫌だ)」


 小さく聞こえたタロウの声にしっかりと頷いて、タロウにしか聞こえないように答えた。


「……(うん。私も嫌だよ)」


 ランクDで十分だよ。


 ギルドを出ると外はまだ明るくて、ブラブラと夕食用にあちこちの屋台をのぞいて帰ることにした。


 みんなが好きなコカ肉やオークの串焼きを多めに、野菜炒めやおつまみっぽいのをあれこれ買った。いつもより多く買ってしまったけど、ダンジョンで頑張ったから良いよね。テオは途中の店でお酒まで買っている。ふふ。


 夜、ご飯を食べながら、来週は魔力草を探しに行きたいってテオにお願いした。30階のワープを通したから一区切りついたし、バッグにあるマジックポーションが3本だけなのが不安だからね。


「そうだな。そろそろ、リアム殿にもマジックポーションを納品した方がいいだろう」

「えっ、マジックポーションを納品するの?」

「あ~、実は……」


 リアム様から催促さいそくの手紙が届いたんだって。


 そう言えば、冬休みが終わってから今(6の月)まで、1度もマジックポーションを納品していないな。ポーション作りとダンジョンで忙しかったからね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る