第89話 テオ達とダンジョン20階から③
◇◇
朝、ステータスを見ると、昨日半分以上使ったMPが回復している。
消費したHPとMPは、休憩したりすると少し回復するんだけど、夜寝て朝起きると全部回復しているから睡眠は大事だよね。だけど、病気や怪我をしていると、全部回復しないんだって。
食事を済ませて、テントを片付けた。
「忘れ物はないか? 地図を確認したら出発するぞ。『身体強化』を忘れるなよ」
「「うん」分かった」
バッグから杖を出して自分に『身体強化』を掛ける。
地図で27階への階段を確認して、セーフティエリアを出ると、次々に魔物が現れる。今日も魔物が多いけど、ホブゴブリンやオークの3体組が少なくなって、代わりにコカトリスとジャイアントスネイクが増えた。
タロウが、コカトリスとジャイアントスネイク狩りに慣れて来たみたいで、テオとタロウの2回攻撃で倒したりする……テオが強いのは知っているけど、タロウもどんどん強くなっていくね。
私の出番は、オーク2体を連れたハイオークとインプだけ。ちょっとだけ暇で……学園の『魔物討伐の実習』に比べたらマシだけど、次にコカトリスが現れたら開幕に『ファイヤーアロー』を撃とう!
ボワッ! シュー、バァーン!!
「アリス……」
「アリス、魔法を撃つのはいいけど……タゲを取らないで」
「えっ? タロウ、『ファイヤーアロー』は『火魔法D』の弱い魔法だよ」
MPだって15しか使わない……あっ、杖を使っているから威力が上がるのか。これより弱い魔法の『ファイア』はスキル上げになるの? 魔物が強ければなるのか……仕方ないな~。
◇
28階のフロアーに下りると、少し余裕が出て来た。
「テオ、このフロアーは魔物が少なめだね」
「ああ、他の冒険者達が狩りをしているんだろう」
定期的に魔物が狩られている階層は魔物がそれほど多くなくて、逆に魔物が狩られていない階層は徐々に魔物が増えて、最悪、魔物がダンジョンから溢れ出す……。
「えっ、テオ、魔物がダンジョンから出て来るのか?」
「テオ、それは……スタンピードが起きるってことだよね?」
「そうだ。<リッヒダンジョン>でスタンピードが起きたのはだいぶ前だがな」
私は覚えてないけど……その時、エリオット様が『呪い』を受けた。
「テオ、このダンジョンでスタンピードが起きたら、魔物がリッヒの街に押し寄せるの?」
「アリス、その通りだ。スライムやラットみたいな弱い魔物は森の中に隠れたりするらしいが、強い魔物ほど人間が好物だからな」
「好物……」
「街に魔物が……。テオ、スタンピードにならないように出来ないのか?」
「タロウ、そうならないように、定期的に騎士団と宮廷魔術団が国内にあるダンジョンに入って魔物を間引いているんだ。後は、ランクC以上のベテラン冒険者向けに、随時、深階層にいる魔物の討伐依頼が割高で出ているし、魔石の買取りも高額になっているぞ」
確かに、ランクCの魔石が銀貨5枚で買い取りなのに、ランクBの魔石になると一気に金貨5枚の買取りだもんね。
「ギルドで、ランクAの魔石を金貨100枚で買い取ってくれる」
「「えっ、金貨100枚!」凄いな!」
「ああ、高額だが……ランクAの魔物なんて、そう簡単には狩りに行けないからな」
<リッヒダンジョン>の深い階層は、闇属性の魔物が多いから、高ランクの『回復魔法』か『聖魔法』が使える魔法使いが一緒じゃないと狩りは難しいんだって。
「宮廷魔術師でも『聖魔法』を使える人はいないと思うぞ」
『回復魔法』のスキル書はダンジョンの宝箱や魔物が稀に落とすけど、『聖魔法』のスキル書が出たって話は聞いたことがないんだって。『聖魔法』はスキル書で覚えられないのか……。
「今まで俺が出会った冒険者で、『聖魔法』が使えたのはサユリしか知らん。『回復魔法』を使える奴は、そこそこいるがな」
「母さんだけ?」
「ああ。使える子供は、10歳の『鑑定の儀』で教会に囲われるからな」
あぁ、そうだった。
タロウがアリスと一緒なら行けるなって言うけど、深い階層に行くだけで、3人の中の誰かが『聖魔法』が使えるってバレる……ん? 宮廷魔術団が後ろ盾になったから、教会を……もう気にしなくても良いんだよね?
◇
29階への階段に来るまでに、3組のパーティーを見かけた。
「昼を過ぎたし、ここらで休憩にしようか。他のパーティーが来るかもしれないから、階段の真ん中辺りまで行くぞ」
「「はい」」
テオに続いて下りて行き、片側に並んで座った。
サンドパンを頬張っていたら、29階から上がってくる冒険者パーティーが見えた。5人組で、テオと同年代か少し年上に見える。
「通るぞ」
先頭のリーダーらしき人が声を掛けて来た――テオは、サンドパンにかぶりつきながら右手を上げて答える。
その後ろに続くパーティーメンバーから声が聞こえた。
「えっ? 子供じゃないか……」
「何でこの階層にいるんだ?」
「3人パーティー?」
「マジか……どう見てもランクEだぞ」
「「「ああ」」Eにしか見えね……」
はい、その通りです。タロウと私はランクEの(新人)冒険者ですよ。タロウは依頼をこなしているから、そろそろランクDになるんじゃないかな~。
最後尾の人が通り過ぎる時、私に優しく声を掛けて来た。
「……無理すんなよ」
サンドパンが口に入っているから、返事をするように軽く頭を下げた。悪い人達ではなさそう。
◇
29階のフロアーも良い感じで狩りが出来て、他のパーティーが小部屋で狩りをしているのも見えた。
「この辺りのフロアーには、大手の商人が雇っている肉狩り専属のパーティーがいるんだ」
メンバーには『石化』を治せる『回復魔法A』を持つ魔法使いもいて、上質肉とコカトリスの肉狙いで、ハイオークとコカトリスを狩っているんだって。
「それで魔物の数が、そんなに多くないんだ」
「じゃあ、魔物が溢れてスタンピードになることはないな」
「タロウ、問題は35階からだ……」
ランクBのジェネラルオークが、ハイオークを2体連れてうろついている……ん?
「「えっ!」ハイオークが子分なのか!?」
「ああ。だが、それよりも『インキュバス』って言うランクBの魔物が厄介なんだ」
闇属性の魔物で、『ダークアロー』や『ポイズン』で魔法攻撃してくるとか……。
「「インキュバス……」」
『ダークアロー』はHPのダメージだけど、『ポイズン』はダメージを受けて更に身体が『毒』の状態になり、治療しないと徐々にHPを削られて、最後には命を落としてしまうんだって。
『毒』は、ダンジョン産や薬屋で売っている毒消しや『回復魔法D』の『キュア』で治せるけど、『ポイズン』の詠唱時間が短くて止められないんだって。
「だから、戦闘中に『ポイズン』を撃たれると必ず毒を受けて、毒消しやポーションを使う羽目になるんだ。『回復魔法』が使える魔法使いがいても、MPが足りなくなるからな」
インキュバスがドロップするのは、レアアイテムの『スキル書』と『帰還石』だけで、魔石が出なかったら割に合わないんだって。
タロウは特別で、レアアイテムは全くと言っていい程出ないのが普通だからね。学園の実習でも、スライムからポーションが出たって話は聞かないよ。
「テオ、俺達だったら魔石もスキル書も出るだろうから問題ないよ」
「そうかも知れんな」
「タロウ……」
強気だ……。
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