第88話 テオ達とダンジョン20階から②

 出迎えのハイオーク達を倒して進むと、直ぐに大きな茶色い鳥が見えた。まだこっちには気付いてないみたい。


「(あれがコカトリスだ。くちばしの石化攻撃に気を付けろ)」


 小さな声で話すテオにタロウと私が緊張する。


「ああ……」「うん……」


 コカトリスの嘴で攻撃を受けたら、そこが『石化』するんだって。かわせなくて盾で受け止めると、盾が石化して使えなくなるからタロウは予備の盾を買ったそうです。


 学園の図書室にある本に、スキル『回復魔法A』か『聖魔法C』を持っていれば『石化』を治せると書いてあったけど……本当に治せるのかな?


 治せなかったら、金貨50枚もするダンジョン産の万能薬を買うか、教会に走るしかない。


 お布施は万能薬より安いとは思えないから……金貨50枚以上!? うわぁ~、高いよ! 誰かが『石化』になったら、私が絶対に治してみせる!


 コカトリスはハイオークより大きくて、立派な太い脚が目を引く。少し長い尻尾の部分が蛇みたいで、嘴は大きくて……あっ、コカトリスがこっちを向いた!


『グエエエ――!』


 翼を広げて威嚇いかくして来る。


「アリスは待機。俺とタロウで行く! タロウ、嘴の攻撃はかわすんだぞ!」

「うん」

「任せろ!」


 テオの言葉に頷くと、2人がコカトリスに『挑発』を入れて突っ込んで行く。


 先にタロウがコカトリスに軽い魔法を撃ってタゲを取り、コカトリスの顔がタロウに向いたと同時にテオがコカトリスの首を目掛けて剣を振り下ろした。即座にタロウも太い脚から羽に向かって剣を振り上げる。


『グゲエエ――!!』


 コカトリスが叫びながら地面に崩れ落ちた!? えっ……ランクBの魔物をほぼ2回の攻撃で倒したよ!


「タロウ、行けそうだな」

「うん。1体なら問題ない」


 余裕あり過ぎ。タロウのステータスが『攻撃力B』だって知っているけど、テオも絶対『B』はあるよね。


 コロン、コロン……


「おっ、魔石と肉が出たぞ」

「やった! コカトリスの肉だ!」


 テオに、コカ肉は売らないで、今夜の野営でステーキにして食べようと言ったら、


「ああ、良いぞ。今夜はコカ肉のステーキか……聞いただけで酒が飲みたくなるな!」

「コカトリスのステーキ!」


 ふふ、2人が喜んでいる。コカ肉はオーク肉に比べると値段が倍以上するから、いつもは小さく切って野菜と煮込んでいるの。


 それにしても、1体倒して2個もドロップするなんて……。コカ肉は銀貨5枚、ランクBの魔石なんて金貨5枚で買い取りだよ! 恐るべし、タロウの『幸運』。


 その後、地図を確認して道を曲がると、茶色い大きな岩の塊が道をふさいでいた。


「テオ、道の真ん中に岩だよ……」

「アリス、あれはジャイアントスネイクだ。肉と皮を落とすが……安くて割に合わん」


 ジャイアントスネイク? 本当だ……よく見ると、土色の大きな蛇が蜷局とぐろを巻いているのが分かった。頭が見えないけど、テオ位の高さがある。


「ジャイアントスネイク……確か、ドロップする肉が銀貨1枚で皮が銅貨5枚だった。テオ、あいつの肉は旨いの?」


 タロウ……ドロップ品の買取り価格を覚えているの?


「んー、食べたことはあるが、ランクDのスネイクが落とす肉と、味の違いが分からなかったな」

「じゃあ、肉はギルド売りだね。アリス、良いよね?」

「うん、良いよ」


 まだ倒してもいないのに……ふふ。でも、肉の買取り価格が銀貨1枚で、味がスネイクの肉と変わらないなら味見しなくてもいいかな。


 ジャイアントスネイクの岩の上で、チロチロと真っ赤な長細いのが動いているのが見える。あれは舌? するすると……岩が動いて、ジャイアントスネイクが頭を出した。


 鎌首をもたげたジャイアントスネイクは、真っ黒な大きな目でこっちを見ると、チロチロと動いていた真っ赤な舌が止まって、一気に大きく口を開いた。


『シヤヤ――ァ!!』


「タロウ、尻尾の攻撃に気を付けろ! 範囲が広いからな!」

「分かった!」


 テオはタロウに声を掛けて突っ込んで行く。私は? 魔法で攻撃しても良いよね?


『シャ……ァァ……』


 ええっ、テオとタロウの攻撃でジャイアントスネイクの動きが鈍くなった。次の攻撃で終わりそう……魔法を撃たないと!


 シュッ――!


 うっ、タロウの動きが早くて、ジャイアントスネイクを3回の攻撃で倒してしまった……私の出番がない。


「皮だ……」

「うん……。タロウ、銅貨5枚だっけ……」


 ジャイアントスネイクが消えてドロップしたのは、両手を広げた大きさの茶色い皮だった。タロウと私ががっかりするのを見て、テオがため息をつく。


「はぁ~。お前達、ドロップするだけ有難いんだぞ。普通はな、毎回のようにドロップなんてしないんだからな!」

「「うん……」」


 そうだよね。学園のパーティーでダンジョンに来る時は、3~4体に1個のドロップだったかな~。


 出て来る魔物が多くて、やっと26階への階段に着いた。


「26階のフロアーに下りて、右の壁沿いに進むとセーフティエリアがある。今からそこへ行くぞ」

「「はい」」


 歩き出して直ぐ、岩壁に囲まれた開けた場所に着いた。普通にダンジョンの道沿いにある行き止まりの部屋みたいな広い空間で……誰もいない。


「ここがセーフティエリアだ。5人組だと、4つのパーティーが野営出来るから、部屋を十字に区切って使うんだ。この部屋に入って直ぐの左か右側で野営をする」


 変なパーティーが入って来たら直ぐに逃げられるようにだって。人気があるダンジョンだと、空いてないこともあって、そういう時は階段で野営をするらしい。


「テオ、変なパーティーってどう判断するんだ?」


「そうだな……。目つきの悪い奴、ジロジロ何度も見てくる奴、やたら愛想よく話し掛けてくる奴。タロウ、こんな奴が1人でもいるパーティーが近寄って来たら注意しろ。セーフティエリアじゃなくてもな」


「うん、分かった」


 へえ~、愛想の良い人も注意しないといけないんだ。


 灯りが付く魔道具を出して、テントの張り方を教えてもらった。料理はテオが持っていた野営用の調理器具で作る。


「焼けたよ~!」

「おっ、戦利品のコカトリスのステーキ! 旨そうだな!」

「ニンニクの香りが……旨そう!」


 ふふ、さっきドロップしたコカトリスの肉を分厚く切ってステーキにした。ステーキ用のソースはバッグにあるけど、今日はニンニクで香りを出して香草と塩で焼いたの。


「地面に座って食べるのは変な感じ……野営用にテーブルと椅子が欲しいな」

「アリス、魔道具屋で野営用の色んな調理器具が売っていたよ」

「タロウ、それ、どんなのか見たいな」


 タロウと欲しい物を言い合う。テーブルに椅子、灯りの魔道具も後2~3個欲しいとか。


「お前達が野営に必要だと思う物を買えばいい。荷物が増えても、アイテムバッグを持っているから問題ないだろう」


 今は、地面にパンを入れたお皿と水の入ったコップを置いて、左手にステーキが入ったお皿、右手にフォーク……。食べにくいから、『風魔法』でステーキを一口大に切ったよ。


 椅子の代わりに『土魔法』で四角い盛り土を作ってみたけど、やっぱり、テーブルと椅子がいるよね。


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