第83話 『魔物討伐の実習』始まる

 ◇◇◇

 今日は初めての『魔物討伐の実習』の日。いつもより早い時間に学園の玄関前に集合して、騎士科・魔術科のAクラスのパーティーから学園の馬車に乗って出発していく。


 学園の馬車は辻馬車に比べて座り心地が良いけど、念の為、軽く『身体強化』を掛けておこう。


 ダンジョンに着くまでの間、パーティーメンバーとお互いに自己紹介をしてコミュニケーションを取るように言われた。


「じゃあ、ソフィア様とアリス、僕の騎士科のグループメンバーを紹介するよ。イーサンとポールだ。自己紹介をしてね」


 ロレンツ様に言われて、騎士科の方から簡単な自己紹介が始まった。


 イーサン殿は子爵家の方で、背が高くて筋肉質って言うのかな? とてもガッチリした体格の方で大きな盾を持っている。こげ茶色の短髪で目は一重、力強い雰囲気の方です。


 男爵家のポール殿は金髪の中肉中背。ロレンツ様と同じような背格好で、丸い盾を左腕に付けている。2人ともパーティーを組むから名前で呼んで欲しいと言う……『様』を付けて呼べば良いのね。


「ソフィア・ラミレスです。では、私のこともソフィアとお呼び下さい。主に『水魔法』と『風魔法』を使いますが、ダンジョンは初めてですのでよろしくお願いします。ああ、後、アリスに個人的な勧誘はご遠慮くださいね」


「「……」」


 微笑ながら……えっと、ソフィア様?


「フフ、ソフィア様、大丈夫だよ。アリスのことは、僕からグループの皆に話しているからね」

「流石、ロレンツ様。ふふ、助かりますわ」

「えっ、ロレンツ様?」


 何を話したんだろう……ソフィア様の自己紹介が終わって、最後に私。


「アリスです。『風魔法』と『回復魔法』が使えます。よろしくお願いします」


「君があのマルティネス様のお気に入り……」

「2年生なのに、もう宮廷魔術師の内定が出ているんだよね……凄いね」


 イーサン様とポール様がまじまじと私を見るから、恥ずかしくてうつむいてしまう。


 騎士科も5人ずつのグループになっていて、ロレンツ様は騎士科でもグループのリーダーをしているんだって。そして2人は、ロレンツ様のグループのメンバーで、来週は残りのメンバーの2人と入れ替わるそうです。


「僕達は先週からダンジョンに入っているんだけど、ソフィア様はさっき初めてだと言ったよね?」


「ええ。ロレンツ様、ダンジョンに入るのは初めてですが、領地でスライムやウサギを狩った経験はあります」


「狩りの経験があるなら良かった。アリスは?」


「私は、『魔物討伐の実習』があるから、家族に頼んで何回か<リッヒダンジョン>に入っています」


「そうか、了解」


 ダンジョンに入ったら、ロレンツ様達3人が前を歩いて、ソフィア様と私が後ろからついて行く形で、魔法は温存しながら進むと言われた。


「それと、学園から予備のポーションが入ったアイテムバッグを渡されている。ダンジョンでのドロップ品をここに入れることになっているんだ」


 使用者登録されていないから誰でも使えるそうで、後衛がドロップ品を集めるように言われたので、「私が集めます」とアイテムバッグを受け取った。ソフィア様にはさせられません。


 自分のバッグを背中側に回して、パーティー用のアイテムバッグを前に来るように肩から掛けた。左右反対に掛けると、間違って自分のバッグに入れてしまいそうだからね。


「狼やゴブリンが2体以上で出て来たら、ソフィア様とアリスが交代で削るように。魔法を撃つ時は、先に声を掛けてね」

「「はい」ロレンツ様」


 騎士科の3人の中で攻撃魔法を使えるのはロレンツ様だけで、余程のことがない限り魔法を使わないからと言われた。


「ええ。MPの配分を考えるのも勉強ですから、それでお願いしますわ」


 魔術科の生徒は、ポーションとマジックポーションを各自で用意しているけど、いざという時以外マジックポーションは使わないように言われているからね。


 庶民のミアと私は、学園からダンジョン産ポーションを2本・マジックポーション1本を支給されたの。


 ポーションだけじゃなく、(相場が金貨2枚もする!)マジックポーションまで支給してくれるなんて太っ腹! 喜んで受け取ったけど、支給されたマジックポーションの色に驚いた。濃い深緑色をしていて……苦そう。


 自分が作った淡い青紫色のマジックポーションがバッグにあるから、使う時はこっちを飲もうかな。自分が作ったのは苦くないからね。


「皆、怪我をしたら早めにポーションを飲むように。飲んだ時間は、覚えておくようにね」

「「「了解」」」


 ああ、ポーションは続けて飲まない方が良いからね。


「ロレンツ様、定期的に私が『ヒール』を掛けますね」

「アリス、良いのかい?」

「はい。魔法を温存しながら進むなら、MPも足りますから」


 魔物が2体以上出て来るのはダンジョンの5階辺りからで、それまではドロップ品の回収だけだと暇だと思う。


「おお! 『回復魔法』を掛けてもらえるのか。ポール、嬉しいな!」

「ああ、イーサン。『回復魔法』なんて掛けてもらったことがないから楽しみだね」

「そう言えば、僕も『ヒール』を掛けてもらったことがないな」

「ロレンツ様、私もないですわ」


 えっと、ソフィア様にも『ヒール』を掛ければ良いんですね。


 ◇

 森に入り<リッヒダンジョン>に着くと、先に到着したAクラスのパーティーから順番に入っているみたいで、ダンジョンの入口でグレース先生が地図を見ながらパーティーに何か指示をしている。


 ミハエル様とミアが杖を片手にダンジョンに入って行った。あっ、私も魔法の杖を出して、さっき掛けた弱めの身体強化を『D』に掛けなおそう。


「最後は僕達の番だ。皆、行くよ」

「「ああ」」「「はい」」


 ダンジョンの入口に行くと、グレース先生が地図を開いて、2つめの四つ角を右に進んで階段へ向かうように言う。


「「えっ、2つめの四つ角……」を右ですか?」


 ロレンツ様とソフィア様が地図を出して確認している。


「全てのパーティーが最短の道を進んだら、魔物がいなくなりますからね。1階フロアーは、指示された道から下の階へ向かってください」


 4階へ下りる階段に先生がいるので、指示を受けるように言われた。


「「分かりました」」


 そっか、魔物がいないと狩りの練習が出来ないもんね。


 ◇

 薄暗いダンジョンの中をゆっくり進んで行く。


 ん――、ダンジョンに入ってかなり進んだけど魔物が現れない。


「アリス、ダンジョンってこんな感じなの?」

「……ソフィア様、前に来た時は10分に1~2体の魔物が現れましたよ」


 結局、1階のフロアーで出会った魔物はスライムとラットの2体だけで、ロレンツ様達が余裕で倒して、ドロップしたのはラットの尻尾(売れないゴミ)でした。


「ロレンツ様……これもアイテムバッグに入れるんですか?」


 ラットの尻尾をつまんで聞いたら、深く頷かれた。討伐の証明にゴミアイテムも回収するそうです。


 余りにも暇だったので、2階へ下りる階段でみんなに『ヒール』を掛けていく。


「おお!? これが『ヒール』か!」

「アリス、ありがとう!」


 イーサン様とポール様に凄く喜ばれた。ふふ。


「アリス、ありがとう。『ヒール』って少し温かい感じがするね」

「私まで……アリス、ありがとう。暇なのね」

「はい……」


 ロレンツ様とソフィア様に深く頷いた。

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