第70話 2の月、初めてのダンジョン
◇◇◇
タロウは、文字を覚えて初心者用の錬金術の本が読めるようになったので、テオから傷薬の作り方を教えてもらうことになった。
今日、テオとタロウは森には行かず作業場に入って行く。初めは、すり傷を治す傷薬作りからで、私は接客の合間に店側からコッソリ見る。
「タロウ、傷薬を作る時も薬草を使うんだが、薬草を洗う時は丁寧に扱え。薬草に傷を付けないようにな」
「分かった。傷つけないように……」
薬作りは、丁寧に作業しないと出来上がった薬の効果が下がるからね。タロウは、あまり手先が器用じゃないみたい。
「洗った薬草を乾燥させるのは、生活魔法程度の『風』程度がいいんだが……タロウの『風魔法』では強過ぎるから、自然乾燥させるか布で優しく水分を拭こうか」
「優しく、優しく……」
タロウは優しくと言いながら、テーブルに置いた薬草を布で拭いているんだけど……トントンとテーブルをたたく音がする。
「タロウ……音が出るほどたたくと、薬草に傷がつくぞ」
テオに「薬草を布で包むようにした方が良いな」と言われ、数枚の薬草を布で優しく包もうとして、ポロポロと薬草を床に落とした。あぁ……洗い直しだね。
「テオ、難しい……」
「タロウ……慣れるまで、1枚ずつ拭こうか。ゆっくりでいいぞ」
「分かった……」
魔法は器用に使っていたのに……まぁ、錬金術は難しいからね。その内、慣れると思うよ。
◇◇◇
2の月に入った店の定休日、今日はテオにダンジョンへ連れて行ってもらう。だから、いつもより少し早く起きた。
前からテオにダンジョンに行きたいって話していたんだけど、タロウが来てバタバタしていたからね。3年生になって、魔物討伐の実習で足手まといになるのは嫌だから、冬休みの間に1~2回はダンジョンに入りたかったの。
だって、騎士科とパーティーを組むから……初めましての貴族とパーティーを組むんだよ? 粗相をしたら怒られそう。ロレンツ様やユーゴとパーティーを組めたら良いのになぁ~。
魔術科のグループでパーティーを組めたら1番良いんだけど、魔法使いだけのパーティーになってしまう……あっ、前にそんな研究をしている先輩方がいたな。あの時は「何で?」って思ったけど、今なら分かる。
騎士科でも、警備兵希望の庶民しかいないCクラスだったら良いのに……パーティーを組むのはAとBクラスなんだって。
朝ご飯を食べて、冒険者の装備を付けていく。タロウと私は初心者用の装備服に片手剣を腰から下げた。私の剣は初心者用だけど、タロウの片手剣は誕生日に買ってもらったカッコイイ片手剣。
テオは黒い革の防具で、腰から下げた片手剣は……鞘がシルバーの金属で、飾り彫りがしてあってカッコイイの!
この剣は、テオがドラゴン討伐の後に「この剣では、思うようにドラゴンにダメージを与えられなかった。もっと良い剣じゃないと……」とか言って買った上級者用の片手剣なんだけど、テオは又ドラゴンに遭遇すると思っているのかな?
あっ、いつでも出せるように冒険者カードを首から下げておこう。
「アリス、タロウ、行こうか!」
「「うん!」」
◇
大通りにある冒険者ギルドに入ると、いつもより人が多いな……冬に活動する冒険者は少ないのにね。
薬草を採りに行く時は――だいたい店を開ける時間にギルドに来るんだけど――もっと人が少なくてのんびりしている。
テオが言うには、報酬の良い依頼を受けようと思ったらこの時間でも遅いらしく、これでも人が少ないそう。今日は、タロウと私が初めてのダンジョンなので、少し時間をずらして来たんだって。
依頼を張り出している掲示板に行くと、テオから声が掛かった。
「お前達、初めてのダンジョンだから簡単な依頼にしろよ」
「「うん」」
パーティーで1つの依頼を受けてもいいんだけど、テオが、タロウと私でそれぞれ依頼を受けろって言うの。そっちの方がギルドへの貢献度? 冒険者の評価が上がるんだって……別に冒険者ランクは上がらなくてもいいんだけどね。
タロウはランクEまでの、私はDまでの依頼を別々に受けることが出来るんだけど、達成出来なかったら困るからランクEの依頼にしよう。
ランクEの依頼は『王都周辺の魔物の駆除:ゴブリン』『ランクDの魔物の魔石』『薬草収集』『一角ウサギの角』『ウサギの毛皮』『狼の毛皮』
どれが良いかな~。簡単なのは『薬草収集』なんだけど、これはいつも受けているからね。今日はダンジョンだから違うのにしよう。
「……私、ランクEの『ランクDの魔物の魔石:銀貨1枚』この依頼にする」
「俺は……ランクFの『ウサギ肉:銅貨3枚』かな」
ランクFの依頼には『水路の掃除』『薬草収集』『ランクEの魔物の魔石』『ウサギ肉』があって、ウサギはランクEの魔物。
ダンジョン内で魔物がアイテムを落とす割合――ドロップ率は、外に比べると高めで30~40%だって学園で教えてもらったから、4体倒したら魔石かアイテムは落とすかな?
「タロウ、魔物指定のアイテム依頼は、戻った時にドロップ品と依頼書を出せばいい。先に依頼を受ける時は、魔物を指定しない魔石が無難だぞ。狩場に同じアイテム狙いのパーティーがいたら取り合いになるからな」
なるほどね。魔物を指定したドロップアイテムより、ランク指定の魔物の魔石――例えば、ランクEの魔物のウサギを4体探して狩るより、ランクEの魔物をどれでも良いから4体倒す方が楽だよね。
「そうか、ダンジョンは他の冒険者もいて俺達だけじゃないのか。じゃあ、『ランクEの魔物の魔石:銅貨2枚』にする」
この前、タロウが仕留めた狼はランクDの魔物だから、ランクEのスライムやウサギなんて楽勝だよね。テオはランクBだから依頼を受けなくてもいいのが
冒険者のランクを上げたいなんて思っていないけど、1年以上依頼を受けなかったら冒険者ランクが落ちて、最悪は冒険者登録を抹消されるんだって。
依頼を受けないで自由に出来るなら、ランクCを目指した方が良いのかな? でも……依頼は『薬草収集』を受ければいいから、ずっとEでも問題ないかな。
◇
ギルドを出て、大通りを北門へ向かう。
しばらく歩くと、北門の手前にある広場に<リッヒダンジョン>行きの辻馬車が見えて来た。ちょっとドキドキしてきたな……何となく、タロウと目が合って速足になる。ふふ、タロウもダンジョンに行くのを楽しみにしていた?
馬車のそばに居る御者さんに、テオが3人分の馬車代を払った。御者さんがテオに2人の保護者かと聞いているので、私は素早く冒険者カードを見せた。タロウも釣られて出している。
ふふ、『私達は、1人で街から出られるんですよ』口に出して言わないけどね。
「ハハ、お前達は冒険者登録しているんだな。おっ、お嬢ちゃんはランクEか! 頑張ってんな。ワハハ!」
お嬢ちゃん……完全に子供扱いだ。子供だけど……。
御者さんにもう直ぐ出発するから馬車に乗るように言われた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます