第69話 3人で大森林へ

 ◇◇◇

 今日は光の曜日。店が定休日なので、久しぶりに3人で<大森林>へ薬草と魔力草を採りに行く予定。


 テオとタロウが、毎日<大森林>へ行くから、テオが採って来るお土産の薬草は十分にあるんだけど、タロウが頑張っているのを見たら、私も頑張ろうと思ったの。それで、錬金術のスキル上げにマジックポーションを作ることにした。


 ギルドに行って、ランクEの『薬草収集』の依頼を受ける。この依頼は、タロウが受けるランクFの依頼と同じなんだけど、ランクEからは報酬が銅貨5枚から銅貨4枚に下がってしまうの。


 安いけど、冒険者は定期的に依頼を受けて達成しないとペナルティーがあるのよね。ランクCのベテラン冒険者になったら、依頼を受けても受けなくても良いんだって。


 ランクCになって依頼を受けるのは、更に冒険者ランクをBに上げたい人――依頼達成件数と内容でギルドへの貢献度が上がるそう――か、割高な依頼報酬がある時だって。


 テオが1人の時は直接ダンジョンに行くんだって。ランクBだから依頼を受けなくてもいいし、帰って来てからギルドの掲示板をチェックするって言っていた。


 タロウと一緒の時は、ギルドで『薬草収集』の依頼を受けてから森へ行って、タロウの魔法の練習が終わったら、2人で黙々と薬草を採っているんだって。


 そして、タロウの『薬草収集』の報酬は、そのままタロウの小遣いにしているそうです。


 ◇

 <大森林>で、前に魔力草を見つけた場所に行って見ると、残した魔力草が増えていた……誰にも見つからなかったんだ。


「テオ、あったよ~!」

「おっ、幸先さいさきが良いな! アリス、又、少し残すのか?」

「うん、そうする」


 前に来た時に2枚残したのが……育っていない小さい魔力草を除いたら、4枚になっている。


「アリス、その濃い青緑の草が魔力草? 色違いの大きな薬草みたいだよね」


 そうなのよね~。色は違うけど、見た目は大きく育った薬草なのよ。


「うん。この魔力草を冒険者ギルドに持って行ったら、金貨1枚で買い取ってくれるの。1枚がよ! タロウ、見つけたら採るようにね」

「なっ、この葉っぱが1枚で金貨1枚だって!? そこに1、2、3……」


 タロウが目を輝かせている。ふふ。


「あ、タロウ。魔力草は大きな葉だけを選んで取ってね。小さいのは買い取ってくれないかも」

「そうか! 小さいのは残して、大きく育つまで待つのか……」

「タロウ、その通りだ!」


 魔力草は3本だけ採って後は残すことにした。魔力草は本当に少なくて、なかなか見つけられないのよね。


 ガサガサッ、


 ん、何かいる? 茂みに奥に……オオカミだ。1頭だけ……珍しい、オオカミは群れを作って行動するって聞くけど、はぐれオオカミかな?


「オオカミだよ……」


 小さな声でテオとタロウに知らせた。


『ガルルル……』


「アリス、下がれ……」

「テオ、俺に任せて!」

「ああ、やって見ろ」


 タロウが、直ぐにオオカミに向けて魔法を撃った。


「『風』、行けー!」


 ヒュッ――、シュッ!


『ギャウン!!』


 風の刃が、茂みから顔を出したオオカミの首元を切り裂いた。凄い、一発で倒したけど、あれは……『風魔法』の詠唱?


「やった!」

「タロウ、上出来だ!」


 タロウはテオに褒められて嬉しそう。オオカミは毛皮が売れるから、なるべく皮に傷をつけないように狩るんだって。


「アリス、タロウにオオカミの皮をいでもらうが、アリスも覚えるか?」

「うん、私にも教えて」


 私も解体の仕方を知っておかないとね。オオカミをそのままギルドに持って行ってもいいけど、買取り価格が安くなるんだって。


 倒した魔物は、解体して売れる素材や魔石を取る。解体後の残骸は、その肉や血の匂いで他の魔物が寄って来ないように、穴を掘って燃やしてから埋める……ワイバーンの討伐で見たのと同じね。


 『土魔法』を使えるけど、誰かに見られたら困るからシャベルの出番だ! 買っておいたのよね~。まだ使ったことがないから試してみよう。


「アリス、後の処理はタロウにさせるぞ」

「あっ……分かった」


 バッグからシャベルを取り出して穴を掘ろうとしたら、後処理は魔法の練習を兼ねてタロウにしてもらうんだって。


 タロウは『土魔法』で穴を掘った後、残骸を穴の中に落として『火魔法』で燃やした。その後、『土魔法』で盛り上げた土を『風魔法』で穴に崩し入れている。へぇ~、タロウは器用に魔法を使うね。


「アリス、なんでシャベルなんか持っているの?」

「えっと……私ね、人前で『土魔法』を使えないから、後処理用にシャベルをバッグに入れているの」


 タロウに、私が使える魔法は『風魔法』と『回復魔法』にしているからと説明した。魔力を使い果たして、魔法を使えない時にも使えるからと言うと、


「俺も持っていた方がいいかな?」

「タロウ、この森で誰かとすれ違うなんて滅多にないから、普通に魔法を使えば良いぞ。最悪、誰かに見られても生活魔法だと言えば良いんじゃないか? ダンジョンでは使わないからな」


 そっか、ウサギや狼くらいが入る穴なら生活魔法だって誤魔化せたね……あ~、シャベルいらなかったかも。


 ダンジョンの中で倒した魔物は、どういう仕組みか分かっていないけど消えるんだって。そして、魔物が消えた後に魔石やアイテムを落とすことがあるって、テオから聞いたし授業でも習った。


 あの時……テオを探しにダンジョンへ行った時は、テオのことしか考えてなくて周りが見えていなかった。どんどん進むエリオット様の背中をじっと見ていた気がする。


 ◇

 街に戻って、冒険者ギルドに依頼の薬草を渡しに行く。ギルドに入ると、テオは私の横から絶対に離れないの。


「最近、ますますアリスが可愛くなったから、ちょっとでも油断すると虫が寄って来やがる……。アリス、俺から離れるなよ!」


「テオ……」


 出た~、テオの親バカ発言。私が1人じゃなくても、タロウと一緒にいる時でも絡まれるよ。だから、可愛いとかじゃなくて、ちょろそうな"ひよっこ"に見えるんだと思う。

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