第67話 年明け・タロウの誕生日

 ◇◇◇◇

 タロウが来てもう直ぐ2ヶ月になる。ここでの暮らしにもすっかり慣れて、年が明けた1の月の火の曜日、今日はタロウの14歳の誕生日。


「アリス、夕方までには帰って来る」

「行って来るね、アリス」

「うん。テオ、タロウ、行ってらっしゃい~!」


 テオは、タロウの誕生日のお祝いに片手剣を買ってやると言って、朝からタロウを連れて出かけた。私の誕生日と同じで、お昼は屋台巡りをするんだって。


 私は店番です。タロウの国では新しい年になったら、みんな店を閉めてお祝いするそうだけど……国中のみんなが誕生日だからかな? こっちでは、普通に市場も店も開いているよ。


 ああ、レオおじいちゃんやエリオット様達は、毎年お城でパーティーがあるから店には来ないけどね。


 今夜は、タロウの誕生日のお祝いに豪華な料理を作るの。必要な食材はもう買ってバッグにいれてある。2人が出掛けたから、店を開ける前にお祝い用の厚切りステーキ肉を焼いてバッグに隠しておこう。ふふ、驚かせたいからね。


 店番をしながらお客さんが途切れると、台所に行って晩御飯の用意をする。


 大皿にオークハムを乗せた野菜のサラダと、鍋でコカトリス肉の具沢山トマトシチュー。シチューは多めに作って、明日の日替わりで出そうかな。


 それから、ミノタウロス肉とオーク肉を細かく切って丸めて焼いた肉の上に目玉焼きを乗せて、ニンニクをたっぷり使ったソースを掛けたサンドパン……前に作った時、みんなに好評だったのよね~。ふふ。


 店を閉める頃、テオ達が帰って来た。


「アリス、戻ったぞー!」

「ただいま! アリス、テオにカッコイイ片手剣を買ってもらったんだ!」


 ふふ、タロウが嬉しそうに、シャツの中に隠したバッグから片手剣を出して見せてくれる。


 見せてもらった片手剣は、柄の部分に飾り彫りしてあって、木のさやの先が銀色の金属になっていて飾り彫りがしてある。これって、かなり良い剣だよね……私が持っている初心者用の片手剣には飾り彫りなんてなし、鞘は革製だよ。


「うわ~、カッコイイね!」

「だろう? アリス、これは中級者用の片手剣なんだよ!」

「えっ、初心者用じゃないの?」


 テオ、奮発ふんぱつしたね~。


「ああ、タロウのステータスを考えたら、初心者用の剣を買っても半年も使えないだろう。上級者用の剣でも良かったんだが、剣の使い方に慣れてからの方がいいからな」


 そっか、タロウの攻撃力は『B』だったから、初心者用の剣だと直ぐにダメになってしまうのかな?


「それに、自分で稼いだ金で良い武器を買う方が、満足感を得られるからな。タロウと武器屋を何軒か回って、上級者用の片手剣もいくつか見て来た。タロウ、上級者用の片手剣を買ったら、この剣を予備の剣にすれば良いからな!」


「うん! 俺、上級者用の剣を買えるようにお金を貯める」


 武器屋で売っている上級者用の片手剣は、白金貨1~5枚くらいするんだって……うわっ、高いね~。


 それ以上の良い性能の片手剣やダンジョンで宝箱や強いモンスターがドロップするレアな武器は、オークションに掛けられるので値段にキリがないとか。


「タロウ、上級者用の剣を買う前に、装備を買い替えることになると思うぞ」

「あっ、防具もか!」


 森に行く時、タロウは私と同じ初心者用の装備を着ている。タロウのMPは少ないけど、攻撃力は高いからテオみたいに前に出て戦う前衛タイプだと思う。


 薬草採りだけならこのままで良いけど、もし、ダンジョンに入って下層を目指すなら、もっと良い装備が必要になるよね。


 ◇

 店を閉めて台所に行くと、テオがタロウに片手剣の手入れの仕方を教えている。


 前にテオから、初心者用の武器でも手入れすれば長く使えると教えてもらった。それでも切れ味が悪くなったら、良い剣は(有料だけど)武器屋で研いでもらって、初心者用の剣は新しく買う方が安いんだって。


 安い武器は金貨1枚もあれば買えるし、最悪、ダンジョンの魔物が落とす売れないゴミの武器を使えばいいらしい。


 さて、晩御飯の準備をしようかな。


 と言っても、ほとんど出来上がっている。シチューも出来たてをバッグに入れたから温かいままだしね。テーブルにオークハムのサラダの大皿を出して、ミノタウロス肉と目玉焼きのサンドパンを大皿に5つ置いた。


 それを見たテオとタロウが、片手剣をバッグに片付けて、テーブルに並べた料理を見ながら取り皿やフォークを出してくれる。タロウの目がキラキラだよ……ふふ。


 コカトリス肉の具沢山トマトシチューを出してお皿に入れると、う~ん、良い香り……チーズを乗せても良かったかも? 後はお水を3つ出して、テオはお酒を出して飲むだろうけどね。


「テオ、タロウ、お待たせ~!」


 さあ、食べよう~。


「旨そー! 正月は、こっちの世界でもご馳走を作るんだな!」

「違うぞ。タロウの誕生日だから、アリスは頑張って作ったんだぞ!」


 テオが、新しい年になったからと言って、こっちの世界ではご馳走を食べる習慣はない。貴族が集まってパーティーするくらいだと、タロウに話している。


「えっ、俺の誕生日だから……?」

「そうだよ。タロウ、お誕生日おめでとう!」

「アリス……ありがとう」


 私より小さいタロウが、先に14歳になった。可愛いのに……ふふ、変な感じ。テオもおめでとうと言って、タロウと競うように食べ始めた。ゆっくり食べないと喉に詰まらせるよ~。


「アリス、ミノタウロスのサンドパンまで作ったのか!? 良く肉が手に入ったな~」

「うん、肉屋のおじさんに掛け合ったんだよ。ふふ」


 そのミノタウロスの肉は、いつも買う肉屋のおじさんに、秘密だと言ってワイバーンの干し肉と交換してもらったの。


 肉屋のおじさんが旨い旨いと言いながら、「去年、市場に出回ったドラゴンの肉はこれより旨かったんだろうな……ああ~、競り落としたかったー!」って、なげいていた。ドラゴンの肉は全部、貴族相手の高級肉屋やレストランが買い占めたらしい。


「ミノタウロス……このサンドパンに挟んでいる肉のこと? アリス、凄く旨いよ!」

「ふふ、タロウ、ありがとう」


 そろそろ、お祝い用に焼いたステーキを出そうかな。

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