第68話 タロウの誕生日②

 席を立ってタロウの横に行き、バッグから湯気の出ているステーキ皿を出した。


「はい! 今日の特別料理だよ~」


 タロウの前に置くと、タロウが驚いた顔をする。ふふ、ニンニクの良い香りでしょ? 


「えっ、アリス、まだ料理があるの? うわっ、厚切りのステーキだ! 旨そうー!」

「タロウ、ちょっと待ってね。みんなの分も出すから」

「ああ!」


 次にテオ。ふふ、テオの目がキラキラとステーキ皿に釘付けだよ。


「おお……これは、まさか!? アリス、そうなのか!」

「うん。そうだよ、テオ」


 ニンニクの香りで分からないと思ったのに気付いたんだ。ふふ、テオは嬉しそうにバッグからお酒を出して、なみなみとコップに注いでいる。タロウが来てからドラゴンの肉を食べてなかったからね。


 最後に私のステーキを出して椅子に座ると、「「いただきます!」」と大きな声が聞こえた。


「ふふ、私もいただきます」


 早速、2人は肉にかぶりついている。タロウ、フォークやナイフを上手に使えるようになったね。


「うっまー!! 何この肉、旨すぎる!」

「タロウ……これはな、幻のドラゴンの肉だ! ゆっくりと、味わって食べろ!」

「幻の……ドラゴン……? あっ、前にテオが話してくれた魔物だ……」


 幻なんて……まあ、ドラゴンなんて、一生に一度出会うかどうかだから嘘じゃないけど。あっ、タロウはもうドラゴンのステーキを食べ終わりそう……。


 私はゆっくりと味わって食べます。テオも、「う~む、酒が止まらん!」と唸りながらドラゴンの肉を食べている。


「タロウ、この肉の存在は……アリスと2人だけの秘密だったんだ。タロウ、この肉のことは誰にも言うな! お前が<迷い人>だということよりも大事な……3人だけの秘密だからな!」


 ええっ! タロウの<迷い人>より秘密って、比べるのがおかしくない?


「テオ、分かったよ……俺、絶対に言わない!」

「ああ、頼むぞ。俺達がドラゴンの肉を手に入れたことは、ワイバーンの討伐部隊ならみんな知っているが、全部干し肉にしたと思っているはずだ。生肉のままで持っているなんてバレたら、どうやったんだと尋問されるだろう……」


 テオが真面目な顔をして言うけど、


「「尋問……?」調べられるのか……」


 そんなことになるかな?


「ああ。そして、時間停止の付いた……アリスのバッグのことを話さないといけなくなる。アリスが『氷魔法』を使えれば、肉を凍らせているって誤魔化せるんだが……」

「ん……『氷魔法』? 私、使えるよ」

「なっ、何だと!」


 使うことが無いから言ってなかったけど、いざと言う時に使えるように、ステータスにある魔法は誰にも見られないように練習している。店の作業場や<大森林>に行った時にね。


 よく分からなかった『無属性魔法』と『空間魔法』は、自分で調べたり授業で習ったりして何となく理解したけど放置しているかな。


「流石、サユリの娘。だがアリス、目立ってしまうから人前で使わない方がいいだろう」


 だよね。ドラゴンの時、ステータスが見えて自分が『氷魔法』を持っていることを知ったの。


 解体している時、「肉を凍らせましょうか?」って言おうかと思ったけど、目立たない方が良いと思ったから言わなかった。それまで『氷魔法』を使ったこともなかったしね。


「テオ、俺も『氷魔法』は使わない方がいい?」


「そうだな……タロウが使える魔法は、4属性と『雷・氷魔法』・『回復魔法』は『F』だったな。『聖魔法』を持っていないから、教会に連れて行かれる心配はないが、子供の間は……人前で使うのは4属性魔法の内の2属性だけにした方がいいな。上位魔法は『雷魔法』がいいだろう」


 テオは、『氷魔法』が使えると知られたら、食べ物を扱う商人から勧誘が来るぞと言う。あぁ、肉の氷漬けね。


「テオ……『聖魔法』を持っていたら、連れて行かれるの?」

「あぁ、タロウにもアリスのことを教えておこうか」


 テオは、私がテオに預けられたことから話し始めた。


 『聖魔法』を持っていたら聖女として教会に連れて行かれる。私がそれを嫌がって『聖魔法』を使えるけど秘密にしていることや、『回復魔法』を使えるだけで目立つから人前で使う魔法を制限していること。


「そうか、アリスは使う魔法を制限しているのか……」


「ああ、そうだ。アリスが『聖魔法』を使えることを知っていて、秘密にしてくれている人も何人かいる。タロウ、何度も言うが、自分が使える魔法やスキルを他人に教えるな。トラブルに巻き込まれるぞ!」


「分かった……人前で使う魔法は『火魔法』と『風魔法』にする。それと『雷魔法』。それ以外の魔法は使わないようにするよ」


 もし、タロウが他の魔法を使う所を誰かに見られたら、魔法の『スキル書』で覚えたことにするんだって、テオって賢いね。


 先月、タロウは冒険者ギルドに登録したから冒険者カードを持っているの。だから、いつでも魔道具屋やスキルの専門店で『スキル書』を買えるからね。


 覚えられるかどうかはその人の適性次第なんだけど、タロウだったら何でも覚えられそう。だって、幸運が『A』の<迷い人>だからね!


 そうそう、冒険者カードのパーティーメンバーの欄にタロウの名前が増えたから、テオがパーティー名を付けるって張り切っている……メンバーが増えるとパーティー名が必要になるのかな?


 タロウは「パーティーの名前なんて分からない」と言っているから、たぶんテオが付けるんだろうな……変な名前だったら絶対に断るからね!



 最近、タロウは顔色も良くなって、細かった手足に肉が付いて来た。


 毎日、テオと森へ魔法の練習をしに行ってお腹が空くのか、テオに負けないぐらい食べるのよね~。身長も伸びて……まだ私の方が少し高いけど、すぐに抜かされそう。


「タロウ、自分のステータスを見られるようになったか?」

「まだだよ」

「じゃあ、食べ終わったらアリスに見て貰おうか。誕生日を迎えると、ステータス値が一気に上がったりするからな」

「誕生日で!? アリス、後で鑑定して欲しい!」

「うん、いいよ」


 教会でもステータスを調べてもらえるんだけど、金貨1枚のお布施をしないといけないんだって……ぼったくりだよね。



 夕食を食べ終えて、紙とペンを用意した。タロウをジッと見て、声を出さずに『タロウを鑑定する』

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 名前   タロウ

 年齢   14歳

 HP   30/31

 MP  196/196

 攻撃力    B

 防御力    A

 速度     D

 知力     D→C

 幸運     A

 スキル  

 ・短剣D→C  ・鑑定C ・身体強化A

 ・火魔法A ・風魔法A ・土魔法A ・水魔法C

 ・雷魔法D ・氷魔法D ・空間魔法C ・回復魔法F→E

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 見えた……って、えっ?


「ええー! タロウのMPが凄く増えているよ!」


 ペンを走らせると、2人が私の手元をジッと見つめる。タロウが前回ステータスを書いた紙を出して見比べている。


「うわっ、やったー! MPが凄く増えている!」

「やっぱりな! 最近、タロウの魔法が撃てる回数が増えていたからな~」


 2カ月前はMP20ちょっとだったから、これは嬉しいよね~。


「タロウ、ステータスとスキルが3つも上がっているよ!」

「やったな! タロウ!」

「うん! テオ、ありがとう!」


 テオとタロウがとっても嬉しそう。ふふ。



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