第65話 タロウを鑑定?

 エリオット様達が帰って店を閉めた後、テオは、タロウにこの国には貴族や騎士・宮廷魔術師がいることを説明した。


 店のお客さんに貴族や騎士様が来るから知っておいて欲しいのと、粗相をしたら大変な目に遭うから、タロウに気を付けるように教えている。


 タロウの住んでいた国にも貴族やオサムライ様? という騎士みたいな人はいたらしく、両親から同じように言われていたそうです。その時、タロウは3人兄妹の一番上で、弟と妹がいるって教えてくれた……お兄ちゃんだったのか。


「タロウ、店の外では貴族に関わらない方が良いぞ。あぁ、この店に来る貴族は後で詳しく教えるからな」


「うん……」


「アリス、明日はタロウと<大森林>に行って、タロウの魔法を試してくる」

「分かった。気をつけてね」


 タロウは「"まほう"をためすの!?」って喜んでいる。テオも嬉しそうに「ああ、俺が教えてやるからな!」って、本当の親子みたい。ふふ。


 この時期、<大森林>で人に出くわすことはほとんどない。冬の間は活動する冒険者は少ないし、冒険者が向かうのは北の森にあるダンジョンだからね。


 ◇◇

 今日は、テオとタロウが<大森林>に行く。2人にお昼用のサンドパンを渡すと、タロウは大事そうに自分のアイテムバッグに入れる。ふふ。


 2人を見送った後、お店のカウンター横にある小さいストーブに薪をくべて、シチューの入ったお鍋を置く。寒くなってきたので、今日からメニューにシチューパンを加えるの。


  今日は、目玉焼きとチーズのサンドパンと、日替わりのシチューはコカトリス肉のシチュー。明日はオーク肉のトマトシチューにしようかな? ベーコンと野菜のシチューも美味しいけどね。


 今日もエリオット様が来てくれて、後からロペス様も来てくれたんだけど、タロウの紹介が出来なかったなぁ。


「ああ、タロウのことはアルバート様から聞いたよ。それより、今日からシチューパンなんだね。もう冬か~」


 ロペス様は、シチューで冬を感じるんですね。ふふふ。


 サンドパンの売る数が減ったので、忙しいのは昼頃までで、昼からはゆっくりしている。お客さんがいなくなると、隣の作業場で傷薬やポーション作りをすると、あっという間に店を閉める時間になるのよね。


 ◇

 夕方、テオ達が帰って来た。


「アリス、戻ったぞ~!」


「ただいま、アリス。サンドパン、うまかった!」


 タロウが、サンドパンの目玉焼きが出来たての温かいままだったと嬉しそうに言う。


「ああ、タロウのアイテムバッグはと同じで、時間停止が付いていたぞ」


「そうなの? タロウ、良かったね~。それ、とっても便利だよ。でもね、他の人には知られないようにしないとダメだよ」


「そうだな。アイテムバッグは、登録者以外が使えないのは当たり前だが、時間停止なんて性能が付いているのがバレたら、貴族が研究用だとか言って無理やり買い取るとか言い出しそうだ。最悪、盗まれるぞ」


「えっ、だれにも言わない! 気をつける……」


 タロウが首から下げていたバッグを、大事そうに首からシャツの中に隠した。ふふ、可愛いな~。


「ああ、タロウ、考えて使えよ。考えるのが面倒だったら、人前では使わないようにしろ」


「わかった。そうする……」


 帰って来た2人に、『回復魔法』と『浄化魔法』を掛ける。タロウが驚いた顔をして固まったので、テオが「アリスが掛けている魔法は、『ヒール』と『クリーン』だ」と説明している。ふふ。


「じゃあ、ご飯の用意をするね」

「ああ、アリス、頼む。タロウ、テーブルに皿やスプーンを出してくれ。俺は水を入れる」

「うん」


 夕食でテオから話を聞いてみると、タロウは、4属性は使えたけど、MPが少ないみたいで、直ぐに息切れをして座り込んでしまったとか。


「タロウは、初級魔法の4発で魔法が使えなくなったんだ。成長すればMPは増えるんだが……そうだ! アリスは『鑑定』を使えるよな? タロウのステータスを見てくれ」

「えっ、タロウのステータスを……見てもいいの?」


 魔法の授業で、ランクの高い『鑑定』スキルを持っていれば、魔物や他人のステータスを見ることが出来るって聞いたけど、勝手に見るのは良くないと教わった。


「教会で、タロウのステータスを見て貰う訳にはいかないだろう」

「あ~、そうだね。下手をしたら、タロウが<迷い人>だって知られるかもね」

「ああ、それは困るからな」


 授業で、他の人のステータスを鑑定する時は、許可を取るのがマナーだって言われた……。


「ねえ、タロウ。私がタロウのステータスを見ても良いかな?」


「おれのステータス? うん、いいけど……ステータスってなに?」


「「ああ……」」


 そこからなのね。


「タロウ、それはな――」


 テオが、タロウにステータスの説明を始めたので、私は学園で勉強したステータスのことを書き留めた紙をバッグから取り出した……このまま全部タロウに渡そう。


「タロウ、これ……私が学園の授業で勉強したことを書いた紙なんだけど、タロウに渡しておくね。こっちの世界を知る勉強になると思うから」


「アリス……おれ、文字はよめない……」


「あっ、タロウ、ごめん。こっちの世界の文字なんて分かんないよね。じゃあ、時間ある時に私が読むね」


「あっ、ちがう……」


 タロウは、こっちの世界の文字だけじゃなく、向こうの世界の文字もほとんど書いたり読んだり出来ないって言う。


「タロウ、気にするな。こっちの世界にも読み書き出来ない奴は大勢いるぞ。読み書きが出来なくても生きていけるからな!」


 うん。テオの言う通りで、庶民で読み書き出来ない人は多い。商売をしていたら必要だけど、普段、買い物をする時にお金の計算が出来れば、読み書きなんて必要ないからね。


 庶民が行く学校なんてないし、警備兵になりたくて騎士科に入った庶民は、授業で文字の勉強をするんだって、書類や報告書を書く試験があるってユーゴが言っていたよ。


 う~ん。タロウの許可をもらったけど、どうやって『鑑定』すれば良いのか分からないな。ジッとタロウを見て『タロウのステータスを鑑定する』と強く思う……。




 ――――――――――――――――

・あとがき・

 ※タロウは、日本でほとんど文字を書いたり読んだり出来なかったので、会話中の漢字はなるべく使わないようにしていました。こちらの世界で勉強していくと、会話中の漢字が増えて行きます。ご了承ください。

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