第61話 もうすぐ冬休み
◇◇◇
もう直ぐ冬休み。その前に試験があるんだけど、一般教養の試験を勉強しないとね。
学園での試験は筆記試験と実技試験があって、『A(秀)』・『B(優)』・『C(良)』・『D(可)』・『E(不可)』の5段階で評価される。『E(不可)』を取ると冬休みに補習授業を受けないといけないの。
1年生の時の試験の成績は、一般教養が『D』だったけど、錬金と魔法陣の試験では『A』をもらった。
魔法の試験では、エリオット様に言われた通り、みんなの撃つ魔法の半分くらいの魔力を意識して風魔法を使ったのに『B』だった。『C』を狙ったのに……おかしい。
今回の試験では、一般教養で『C』を取りたいと思って勉強したけど、マナーとダンスの実技で減点があって今年も『D』だった。庶民には難しいと言い訳したいけど、ミアは去年も今年も『C』を取っているの……凄いな。
「ほら、うちの宿は貴族のお客様が来るでしょ? だから、ある程度のマナーは知っておかないとダメで、冬休みは宿の手伝いをしながら勉強させられるのよ~」
「ミア、家でも勉強しているんだ。偉いね」
私は、冬休みは店番しながら薬を作って、時々、薬草を採りに行っている。後は、お茶コーナーのサンドパンを沢山作ってバッグに作り置きしているけど、勉強なんてしてないな。
「ミアみたいに、実際に貴族を相手にするとマナーを覚えられますものね。アリスの薬屋だと、言葉使いくらいでしょう? その代わり、アリスは薬を作っているから錬金の評価が高いのね」
はい、ソフィア様の言う通りですね。錬金と魔法陣の評価は去年と同じ『A』でした。
因みに、ソフィア様とミハエル様の一般教養は評価『A』。流石です。代わりに錬金と魔法陣の評価が『C』と『D』だったとか、ミアも『D』だったって言っていたな。
魔法の試験はソフィア様と私が『B』でミハエル様とミアが『C』。魔法の試験は評価が厳しいみたいで、『A』を取れたのは隣のクラスのリカルド様とスカーレット様だけだったと聞いた……それぞれの取り巻きの方が、ドヤ顔で言いふらしていました。
試験が終わるとみんな家へ帰る。ソフィア様は、王都にある屋敷に移って、お茶会と言う戦場へ向かう。ミアがソフィア様の手を握って、「ソフィア様、新参者に気を付けてくださいね」と言うけど……新参者って、年下の令嬢の事かな?
「ふふ、ミア、心配してくれてありがとう。日頃、アリス狙いの虫を払うのに鍛えられていますからね。そう簡単には負けませんわよ」
「確かに! ソフィア様は虫を見つけたら、アリスに声を掛ける前に速攻で撃退していますもんね!」
「ああ、ソフィア嬢は素早く綺麗に虫を払うよね。僕も勉強になるよ。フフ」
私に声を掛ける前に? 最近、声を掛けて来る人がいなくなったと思っていたら、ソフィア様が……。
「ソフィア様……ありがとうございます」
「アリス、虫を払うのは私の役目だから気にしないでね。報告すると兄に褒められるのよ。ふふ」
ミハエル様も領地には帰らずに、王都にある屋敷に残って、人脈作りの為にお茶会に参加するそうです。
去年、ソフィア様は、お茶会で何度かミハエル様と一緒になったそうです。その時、ミハエル様はいつも令嬢に囲まれていたとコッソリ教えてくれた。
ソフィア様とミハエル様の馬車を見送った後、ミアが「嫡男じゃないのにモテるなんて、ミハエル様は凄いね~。じゃあ、アリス、またね~!」と言って、ミアは迎えに来たお父さんと帰って行った。
貴族にとっては、嫡男かそうでないかが重要らしいけど、私には関係ない世界の話だな。さあ、私も帰ろう。
「アリス! 迎えに来たぞー!」
学園の門で、手を上げているテオが見えた。
「うん、テオ、ありがとう~!」
◇◇◇
11の月、冬休みに入って最初の光の曜日、今日はテオと一緒に<大森林>まで薬草を採りに来た。自家製ポーションの在庫が少なくなったので、冬休みの間に沢山作るつもり。
ワイバーンの討伐部隊で一緒だった第二騎士団の騎士様が、時々、「アリスは元気か」と店に来て、サンドパンを食べてポーションも買ってくれるそうです。私は学園でいないけどね。
有難い事に、ギーレン副隊長や補佐の騎士様まで来てくれたとテオが言っていた。
薬草を採りに行く時は、冒険者ギルドで薬草収集の依頼を受けるんだけど、やっとこの前ランクFからEになった。月に1~2回と冬休みにしか薬草を採りに行かないからね。今はランクEの新人冒険者です。ふふ。
今までは、のんびりと薬草採りをしていたけど、そろそろテオにダンジョンへ連れて行ってもらおうと思っているの。
3年生になったら、『魔物討伐の実習』で騎士科と魔術科でパーティーを組んでダンジョンに入るって聞いたからね。テオにはもう話をしていて、ポーションの在庫が溜まったらダンジョンに行く予定。
<大森林>で、ついでに魔力草がないか石の柱近くで探すけど見つからない。
魔力草は、魔力の多い場所に生えているから、石の柱から奥に行けばあるんだろうけど、テオに絶対に入るなと言われている……前に見つけた魔力草を見に行こうかな。
「アリス、腹が減ったな。そろそろ昼にするか」
「うん。テオ、食べ終わったら、前に見つけた魔力草が増えてないか見に行くね」
「ああ、分かった」
今朝作った豪華な肉のサンドパンを、バッグから取り出してテオに渡した。
「おっ! 今日はドラゴン肉のサンドパンか! ガブッ……旨過ぎる!」
テオ、食べる前にドラゴンの肉だと分かるの? 匂いで?
「だよね~。これ以上、美味しい肉ってあるのかな?」
「ドラゴンの肉は別格だからな。これ以上、旨い肉なんてないと思うぞ」
討伐でもらったワイバーンの肉はもう無くなってしまったけど、ドラゴンの肉はまだまだ沢山あるから、月に1度の割合で食べている。
テオが直ぐに食べ終わったので、目玉焼きとチーズのサンドパンも渡した。
「アリス、ドラゴンのサンドパンは1個だけか?」
目玉焼きのサンドパンにかぶりつきながら聞いて来る。
「うん。1個ずつしか作ってないよ。又、作るね」
「そうか……。アリス、頼む! 次は2個にしてくれ」
テオ、そんな悲しそうな顔をしないでくれるかな。仕方ないなぁ……バッグからドラゴンの干し肉を2~3個出して渡した。
「アリス、これは……ドラゴンの干し肉か? まだ持っていたのか!」
「うん」
討伐の時に作ったやつなんだけど、ドラゴンの干し肉なんて勿体なくて食べられない。ワイバーンの干し肉もまだバックに残っているよ。
テオは、ワイバーンの干し肉どころか、1袋あったドラゴンの干し肉も「とっくの昔に食べたぞ」と言って、ニコニコと干し肉を齧っている。
昼食を食べ終わって、石の柱の手前にある大きな木を目印に、獣道を入って茂みの奥を覗く――あった! 青紫色した魔力草がひっそりと生えていた。でも、使えそうな葉は4本しかない……2本だけ採ろうかな。
「アリス、そろそろ戻ろうか」
「は~い」
大量の薬草と魔力草も2本採れたから満足。帰ってポーションを作ったら、マジックポーションも作ろう。ふふ。
帰り道、石の柱の近くまで戻ると、さっきは無かった塊がある。ん……人の手が見える!?
「テオ、あそこ……誰か倒れているよ!?」
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