第62話 倒れている
「アリス、どこだ? 人……子供かっ!?」
石の柱に近寄ると、小さな子が丸くなって倒れて……えー! 慌てて『回復魔法』を掛けたけど、どこもケガはしてないみたい。
変わった服を着ている――穴を開けた大きな茶色っぽい布に、頭を通したような……袖は無くて、腰を
「テオ、ケガはしていないみたい……」
「ああ、血は出ていないようだ。男の子だな……アリス、連れて帰るぞ」
「うん……」
テオは、その子を背負って街まで連れて帰り、門にいる警備兵さんに森で子供が倒れていたことを話して家に連れて帰った。
◇
男の子を2階の客間に寝かせて、起きるまでテオが様子を見てくれる。私は採って来た薬草と魔力草を洗ってバッグに入れ、夜ご飯の準備を始めた。
見たことない服を着ていた……何であんな所で倒れていたんだろう。
テオから男の子が起きたと声が掛かったので見に行くと、男の子がベッドから身体を起こしている……髪は私と同じ黒色で、目も黒い。
「俺は、テオだ。お前……俺の言葉が分かるか?」
テオが男の子にゆっくりと話しかると、男の子がコクンと頷いて不安そうにテオを見た。
「お前は、森で倒れていたんだが……何故、あそこにいたか分かるか?」
「わからない……。山でキノコをとっていたら、足がすべったんだ……ここはどこ?」
男の子は頭を振りながら答えたけど、山……? 山なんて、あの辺りにないよ。
「そうか……。ここは、<王都リッヒ>だ。お前の名前は?」
「りっひ……? おれの名まえ……たろう」
変わった名前ね……あ、可哀そうにプルプル震えている。
「ふむ。タロウか……取りあえず、風呂に入ってご飯を食べようか」
「……」
男の子は、コクンと小さく頷いた。
「アリス、今からタロウと風呂に入るから食事を頼む」
「うん、分かった。タロウの持っていた布袋は、机の上に置いてあるからね。あっ、私はアリス。タロウ、よろしくね!」
にっこりとタロウに挨拶したら、キョトンとこっちを見た。
◇
お風呂から上がって来たタロウはテオの服を着ている……服が大きくてダブダブなせいか、袖から出る腕が細く見えて、私より背が低いから幼く見えるな。
今夜は、コカ肉入り具沢山の野菜のスープとオーク肉のステーキと丸パン。タロウがいるから、
「旨いな! タロウ、腹が減っているだろう? 遠慮しないでいっぱい食べろ!」
「……食べていいの? ……うまい!」
一生懸命ご飯を食べるタロウが可愛い~。ふふ。
「そうだ、タロウはいくつなの?」
「……おれは13才。正月が来たら14才になる」
「えっ! タロウは13歳なの? 私と同い年で、先にタロウの誕生日が来るんだ……」
小さいから年下だと思ったのに……『ショウガツ』って誕生日のことかな?
「……たんじょう日?」
タロウの言う『ショウガツ』とは、新しい年を迎えた月の最初の日を表す言葉で、こっちだと1の月の火の曜日かな。
タロウの国では、生まれた日は関係なく、『ショウガツ』にみんな1つ年を取るんだって……みんなの誕生日が同じって変わっているね。
「タロウはきっと年下で、弟が出来ると思ったのに……"お姉ちゃん"って、言って欲しかったな~」
「ぶっは! アリス、残念だったな。で、タロウは腹一杯になったか?」
「うん、もう食べられない……」
少し緊張が解けたのか、タロウが自分のお腹を両手でさすりながら言うのが可愛い。年下にしか見えないんだけど。
「ハハ、そうか。タロウ、聞きたいことがあるんだが、お前が住んでいた国は<ニホン>か?」
「うん、そうだよ……ここは日本じゃないの?」
<ニホン>……この大陸にそんな国あったかな?
「ああ、違う。さっきも言ったが、この街は<王都リッヒ>で、<リッヒ王国>って言う国だ」
「りっひ……」
タロウは小さな声で、そんな名前の国は知らないと言ったけど、私も<ニホン>なんて国は知らない。
テオが言うには、タロウが住んでいた<ニホン>は、この大陸とは違う世界にあるんだって。そこから、タロウはこっちの世界に来た……えっ、それって……まさか、
「タロウは、サユリと同じ<ニホン>からこっちの世界に迷い込んで来たみたいだ。タロウ、こっちでは別の世界から来た人を、<迷い人>って呼んでいるんだ」
「……こっちのせかい? 迷い人?」
やっぱり、母さんと同じ<迷い人>! タロウがキョトンとしてテオを見ている。そっか、母さんは<ニホン>と言う国から来たのか。
「凄い、タロウは<迷い人>なんだ!」
タロウが、意味が分からないって感じで私を見た。
「タロウ、良く聞け。俺の知る限りだが、こっちの世界に来た<迷い人>で、元の世界に戻った人はいないんだ。だから、助けて欲しいと国に言えば保護してもらえる。その代わり、色々お願いされたりするがな」
「えっ、家にかえれない……」
あっ、タロウの顔色が一気に悪くなった。
「ああ、絶対とは言えないが、俺は聞いたことがない。タロウ、このままこの家にいても良いし、国に<迷い人>だと名乗り出ても良い。時間はあるから、ゆっくり考えろ……ゆっくりだぞ。直ぐに決めなくても良いからな」
「……わかった」
タロウは口をギュッと結んだ。不安だよね。気が付いたら知らない場所で、知らない人に囲まれて……。
取りあえず、タロウがこっちの世界に慣れるまでの間は一緒に住むことになって、2階の客間をそのままタロウが使うことになった。
タロウが着ていた服は、『浄化魔法』を掛けてキレイにしたんだけど……テオが、変わった服だから着ない方がいいと言ったので、タロウが持っていた布袋に入れてもらった。靴? も、一緒にね。
あっ、タロウが首から掛けていた布袋は、アイテムバッグだったの。テオが布袋の中を見ようとしたら手が入らなかったから分かったんだって。
「ダンジョン産のアイテムバッグは、魔力で使用者を登録しなければ誰でも使えるんだ……」
テオが、<ニホン>にはアイテムバッグがないだろうって言う。
あったとしても、あっちの世界には魔力も魔法もないから、使用者の登録なんて出来ないはずで、タロウがこっちに来る時に、持っていた布袋が何かの影響を受けてアイテムバッグになったんだろうと言う。
……もしかしたら私のバッグと同じで、時間停止機能が付いているかもね。
タロウのアイテムバッグは、見た目がこっちのと違うから、私のバッグみたいにカバーを付けるんだって。布袋のままでも良い気がするけど……。
タロウから、布袋に入っていたキノコを使ってと渡されたから、シチューに使おうかな~。見た感じ、こっちのキノコと変わらないね。
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