第60話 13歳の誕生日プレゼント

「リアム殿、いらっしゃい!」


 テオがカウンターから声を掛けると、「マルティネス様からアリスへの誕生日プレゼントです」とアイテムバッグから大きな箱を取り出した。


「わぁ~! ありがとうございます」


 去年、レオおじいちゃんからもらった誕生日プレゼントは、金糸の刺繍が胸元と袖に入ったフード付きの白いローブだった。勿論、ただのローブじゃなくて、背中の内側に金糸で防御力+5の魔法陣が描かれていて……大事に取ってあります。


「今年も、良い物ですよ」


 リアム様がそう言って渡してくれた箱は、去年もらったローブが入っていた箱と同じくらいの大きさだ。


 テーブルに置いて箱を開けてみると、黒いマントと白いマントが並べて入っていた。両方とも金色の刺繍がしてあって……あれ、黒いマントは宮廷魔術師と同じ? リアム様のマントを見ると、やっぱり同じに見える。


 リアム様が私の視線に気が付いて教えてくれた。


「ええ、アリス、その黒いマントは宮廷魔術師に支給されるマントと同じ物で、内側に魔法防御+5の魔法陣が描かれています」


「えっ、魔法防御の魔法陣が……凄いですね」


 魔法防御の魔法陣なんて見たことない。家にある魔法陣の本や学園の図書室の本には、属性魔法の魔法陣しか書かれてなかったよ。防御力や魔法防御の魔法陣なんて、どこで教えてもらえるんだろう……。


 白いマントは特注品で、防御力が高いジャイアントスパイダーの糸で作られていて、更に黒いマントと同じ魔法防御+5の魔法陣が描かれているそうです。


「これは凄いな! アリス、レオ様から良いのを貰ったな。リアム殿、レオ様によろしくお伝えください」


テオ、ジャイアントスパイダーの糸って凄く高価だったよね?


「リアム様……宮廷魔術師のマントって、私がもらっても良いんですか?」


「ええ、アリスは宮廷魔術師に内定していますから、そのマントを着けても構いません」


「え……ええっ!?」


 リアム様が変なことを言う。


 宮廷魔術師の内定をもらえるのは、学園主催の魔術大会に参加した3年生の中で、来賓席にいる宮廷魔術師(リアム様だけど……)から評価された数名の生徒だけだと聞いたよ。


 魔術大会に参加するのは、宮廷魔術師を希望する生徒だけで、私は宮廷魔術師になりたいなんて言ったこともないのに……。


「アリス、既に学園には内定通知を送ってあります。通常より早いので公表されていませんが、そのつもりでいてください」


 えっ、私、学園を卒業したら、薬草を採りに行きながら薬屋をするつもりですよ。


「アリス、そちらの白いマントを着けたら、いつでも宮廷魔術師団の施設や研究所に入れますからね。それと、内定通知のことは、既にテオ殿には伝えてあります」

「え……テオに?」


 聞いていませんよ。カウンターにいるテオを見ると、テオは頭をかきながら台所へ逃げて行った。


「アリス、宮廷魔術師の内定通知は、私からのプレゼントだと思って受け取ってください。フフ」


「えっ、リアム様からの……プレゼントですか?」


 宮廷魔術師の内定通知ってプレゼント出来るの? 親戚枠とか……。あ~、リアム様は、レオおじいちゃんの”お茶くみ係”として内定してくれたのね。


「ええ。アリス、いつでも研究所に遊びに来て良いですからね。フフ」


 微笑むリアム様がちょっと怖くて、「遠慮します」とは言えません……。


「アリス、マルティネス様と私へのお返しは、いつもの『回復魔法』付きのクッキーをお願いします」


 と言って、リアム様は帰って行った。


 お返しはクッキーでと言ってもらえるのは助かるな……それより、


「テオー! どういうことかな~!?」


 隠れるように台所へ行ったテオを追いかけて、リアム様からいつ話を聞いたのか詳しく話してもらった。


 どうやら、マジックポーションを取りに来たリアム様から、他の貴族からちょっかいを掛けられないように、保護する意味で宮廷魔術師の内定通知を出すと言われたらしい。


「リアム殿は、アリスが教会に狙われた時、宮廷魔術団の後ろ盾がある方が守れると言ってくれたんだ」


 教会に見つかっても連れて行かれないってこと? それは……嬉しい。


「それと、宮廷魔術師の内定が出ている生徒には、他の貴族がちょっかいを出せなくなるそうだ。例えば、下位の貴族が上位の貴族に婚約を打診されても断れるらしい」


 テオ、庶民の私が貴族と婚約なんてないよ。でも、貴族に何か頼まれたら断れるの?


「それは、普通の貴族より宮廷魔術師の地位が高いってことなのかな?」


「そうだな。貴族が3年の間、学園の騎士科に在籍すれば、ほとんどの者が騎士団に入れるが、宮廷魔術師はそうはいかない。年少科から4年も学園に通って、宮廷魔術師になれるのは数名だけだそうだ」



 その数名の1人が私? しかも、私が1年生の終わりに内定通知を送っているとか……そんな前から”お茶くみ係”に決定したんだ。


「研究員は毎年10名程採用するそうだがな。それにだ、リアム殿は内定通知を貰っても宮廷魔術師にならなくてもいいと言ってたぞ。辞退できるそうだ」

「そうなの?」


 なら、心配しなくてもいいか。でも……内定通知をもらったなんて誰にも言えないな。


 ◇

 台所で晩ご飯を作り始める。先にオークハムのサラダとコカ肉と香草の団子のスープを作ってテーブルに出す。チーズを乗せて焼いたパンは、直ぐに冷めてしまうから一旦バッグに入れて、ステーキを出す時に一緒に並べよう。


 フライパンに油とニンニクを入れて、焦がさないように香りを出す。


「おお~! アリス、旨そうな匂いだな~!」

「ふふ、テオ、もう少し待ってね」


 香りが出たらニンニクを取り出して、塩コショウしておいた肉を入れる――ジュー! っていう、音と香りがたまりません。


 お酒を振って、肉を裏返して焼く。ニンニクを戻して、焦げないように肉にのせよう。最後にもう1回お酒を掛けて『ジュワー!』っと、湯気を立たせて出来上がり!


「アリス! このキラキラした肉厚のステーキは! まさか……」


 テオがいつの間にか横に来て見ている。


「うん。ドラゴン肉のステーキだよ。テオ、ゆっくり味わってね。ふふ」


 今日は、誕生日プレゼントのお返しだから分厚いステーキにしたけど、馬車2台分のドラゴンの肉がバッグにあるからね。月に一度食べる位なら、贅沢じゃないよね。


「アリス! 旨すぎるぞー!」

「うん。本当に、美味しいね~!」


 ふふ、焼くだけで美味しいなんて、スキル『料理A』に感謝だね。

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