第57話 学園で

 ドラゴン討伐が公表されたのか、翌朝から、学園はドラゴンの話で持ち切りになった。


 授業で”ドラゴン”が取り上げられて、討伐する為には『どんな薬や魔道具が必要か』とか『ドラゴンの弱点は何属性なのか?』など、いつも以上に意見が出た。


 私から意見を言うことはなかったけど、みんなの意見を聞くのが面白かった。他の学年でも、”ドラゴンの討伐”を課題にして授業をしているそうです。


 午前中の授業が終わると、フランチェ先生から、帰りに職員室に来るように言われた。昨日提出したレポートに何か不備があったのかな?


 食堂で、みんなでいつものテーブルに座ると、Aクラスのリカルド様がスッと隣に立った。えっ!?


「アリス……」


 リカルド様がかがんで、小さな声で話し掛けて来た。


「君がドラゴンの討伐で回復魔法を掛けたんだって? 兄から聞いたけど、アリスのことは口外するなと言われているんだ。詳しい話が聞きたいんだけど、小声で話した方が良いだろう? 隣に座っても良いかな?」


 えっ……私がレオおじいちゃんに付いて行ったことは、フランチェ先生とグループのメンバーしか知らないのに……なんで? 「口外するな」って……もしかして、レオおじいちゃんの秘密の孫だと思われている? びっくりして、頭の中がゴチャゴチャだ。


「あ、兄? と、隣ですか!? えっと……」


 私が返事をする前に、リカルド様は私が座る長椅子――右隣に座った。


 周りから「「「リカルド様!?」イヤー!!」」って声が聞こえる。リカルド様が「アリスに聞きたいことがあるから、みんな後でね。機密事項の内容もあるかも知れないから離れる様に」って、取り巻きの方を追い払ったけど、また、ご令嬢から『キッ!』って睨まれたよ。うぅ……心臓に悪い。


 リカルド様とは反対側――私の左側に座るソフィア様の顔が引きつっている。目の前にいるミアはキョロキョロと「ロレンツ様、まだかな……」と呟く。その隣のミハエル様は何が始まるのかと興味津々な感じです。目がキラキラしていますよ……はぁ~。


 話を聞くと、リカルド様のお兄様は、何と、宮廷魔術師・B班リーダーのルーカス様だと言う。


 じゃあ、リカルド様は、私がレオおじいちゃんに同行したことやドラゴンのことも聞いたんだ。ルーカス様とリカルド様……風魔法が得意で髪と目の色も同じ。あの時、誰かに似ているなって思ったのよね。


「ねえ、アリス。兄はアリスのことを気にしていたけど……兄は、アリスのお茶を飲んだの?」


 えっ、リカルド様……聞きたいのはそこですか? あ~、お兄様のルーカス様が、レオおじいちゃんに気に入られているかを知りたいのかな?


「いいえ。宮廷魔術師の方で、マルティネス様とお茶をご一緒したのはリアム様だけです」


「そうか……リアム・ガルシア様だけか」


 あぁ、なんだかんだ言っても、レオおじいちゃんが認めているのはリアム様だけなのかも。あの時、褒めていたし。


 ソフィア様が、ここで聞いた話は他言しないように言ってくれて、リカルド様が頷いてくれたので、途中、リカルド様の質問に答えながら、昨日みんなに話したのと同じ話をした。


 後から来たロレンツ様とユーゴが、リカルド様を見て変な空気になったけど、みんな食い入るように話を聞いてくれた。


 食事をしながらだけど、2回目――あっ、エリオット様を入れると3回目だね――だったので、要領よく話せたよ。昨日の続きもレポートに書いた程度にかいつまんで話した。干し肉のことは話さなかったけどね。


「そうか、アリスは凄い体験をしたね。僕もマルティネス公爵の魔法を見たかったよ。ドラゴンを倒せて、兄が無事に帰って来られたのは……アリスのお陰だと聞いた。ありがとう」


 マジックポーションのことは話さなかったけど、ルーカス様から聞いたんだろうな。


「いえ、それは違います。討伐部隊の皆さんが、諦めずに頑張ったからドラゴンを倒せたんですよ」


 飛ばされて怪我をしても、ポーションを飲んで直ぐにドラゴンへ立ち向かって行った。あの姿を見たら……私なんて、頑張ったなんて言えない。レオおじいちゃんが「もうすっからかんじゃ」と言った時は焦ったけどね。


「フフ、君は……」


 なぜか、リカルド様が微笑んでいる……止めて下さい。あっちにいる取り巻き方の視線が怖いです!


「「「……!!」」」


 帰りにフランチェ先生の所に行ったら、レポートとその内容が書かれた書類を見せられた。


 昨日出して、もう? 日記みたいな内容だったから、目を通すのも楽だったのかもね。あれ、評価の欄に何も書かれていないけど……まさか、書き直し?


「アリス、本当に羨ましい。私もアリスの保護者として付いて行きたかった!」


「えっと……」


 それは無理じゃ……先生は学校の授業があるから。


「レポートの内容はまあまあでしたが、ワイバーンや特にドラゴンの絵! 細かく丁寧に描かれていて興味深かったですよ。誰も実物を見たことがないですからね~」


「はい……ありがとうございます」


 3年生で使っているドラゴンの教材に、この絵を使っても良いかと聞かれたので、どうぞと答えると、その場で空白だった評価の欄にAのサインをしてくれた。えっ、嬉しい~! ドラゴンの絵を描いて良かったよ~。



◇◇◇

 その後、何人か知らない先輩が話を聞かせて欲しいと来たけど、ソフィア様が「軍の機密事項になるので、騎士団から口外するなと言われています」と断ってくれた。


 ソフィア様が、リカルド様のことをロペス様に相談したら、エリオット様から騎士団の隊長とか上層部に話が行って、そうなったらしい。


 そっか、騎士団の攻撃体制とか宮廷魔術団の魔法の威力は、誰が聞いているか分からないから話したらダメなのか。それじゃあ、研究中のレオおじいちゃんの魔法は、絶対に秘密だよね。


 そのうち、ドラゴンの話も落ち着くと思うけど……あっ、レオおじいちゃんが火の曜日に来たら無理かな。


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