第56話 お迎えはロペス様

 お昼の休憩時間が足りなくなって、話の続きは明日になった。もっと話が聞きたいと言うユーゴをロレンツ様がなだめてくれて、それぞれの教室へと戻った。


 午後の授業が終わり、フランチェ先生にレポートを提出して学園の門に向かうと、門にはテオじゃなくロペス様がいた。


「ロペス様、迎えに来てくれたんですね。ありがとうございます」

「ああ、テオ殿はエリオット副隊長とアルバート様に捕まっているよ。アリス、凄い経験をしたんだってね。店に帰ったらエリオット副隊長から色々と聞かれると思うから覚悟してね」

「えっ? はい……」


 ロペス様が言うには、昨日のうちにドラゴン討伐の報告がされて、その話が王宮を駆け巡ったそうです。


 第一騎士団にも話が届いて、同行したマルティネス様専属の薬屋が差し出したマジックポーションのお陰で、ドラゴンを倒せたと聞いたエリオット様は、居ても立っても居られず、朝から店に来たそうです。話が聞きたいのはアルバート様もロペス様も同じで、エリオット様に付いて来たとか。


「アリス、ドラゴンの討伐を間近で見られたなんて、貴重な体験をしたね。私も行きたかったよ」

「ええー! ロペス様はドラゴンと戦いたいんですか?」

「ああ、ドラゴンはランクSの魔物だよ? いい経験になるし、スキルも上がるかも知れないからね」


 ランクS……あの時は必死だったけど、私はもうドラゴンなんてこりごりだよ。レオおじいちゃんやリアム様ぐらい強い魔法使いになったら、考えが変わるのかも知れないけどね。


 ◇

 店に帰ると、扉には臨時休業の紙が貼られていて、中でテオがエリオット様とアルバート様から質問攻めにあっていた。


「アリス、頼む! ドラゴンの説明を一緒にしてくれ! (エリオット様とアルバート様の質問が細かいんだ。俺が分からんこともあって、頭の中がゴチャゴチャだ!)」


 テオ……心の声が漏れているよ。


「アリス! 怖い目に遭ったね。怪我はしなかったかい?」


 エリオット様が駆け寄って私の手を握り、痛い所はないかと聞いて来る。大丈夫ですと言っても、なかなか手を放してくれない。私は回復魔法が使えるのに……ポーションだって持っていますよ。


「アリス、もうマルティネス様に付いて行ったらダメだよ」

「エリオット様……」


 それはテオに言ってください。私は学園があるからと断ったんですよ……聞いてもらえなかったけど。今回、レオおじいちゃんの言う通り、色々と勉強になったけどね。


「そうだ。エリオット様、お土産があるのでお茶を淹れますね」

「えっ? アリス、お土産?」


 みんなにお茶を淹れ、ドラゴンの干し肉をお皿に山盛りにして出した。


「これは……干し肉かい?」

「はい。ドラゴンの肉で作った干し肉です」

「なっ、何!」

「「えっ……」ドラゴンだって!」


 3人が干し肉を見て固まった。そこにテオがもぞもぞと、バッグからワイバーンの干し肉を出して、別のお皿に入れて並べた。


「エリオット様、こっちはワイバーンの干し肉だ。癖はあるが、旨いぞ。ドラゴンの干し肉と食べ比べてくれ!」

「こっちはワイバーン……」

「「ワイバーンの……」干し肉の食べ比べ……」

「ああ、アリスが作ったんだがどっちも旨い! 酒が欲しくなるがな。ハハハ」


 テオが、先にワイバーンの干し肉を1切食べて勧める。3人が手を伸ばしてワイバーンの干し肉を口に入れた。


「……! 確かに癖はあるが、美味しいな」「しかし、ワイバーンの肉を干し肉にするとは……」「美味しい! 副隊長、次はドラゴンの干し肉をいただきましょう!」


 エリオット様達がドラゴンの干し肉を口に入れると、


「なっ、これは干し肉なのか!?」

「う~む、これを干し肉のくくりに入れるのは、どうかと思いますが……」

「アリス、美味しいね!」


 でしょう~? ドラゴンの肉は偉大です。ふふ。


 エリオット様は2種類の干し肉を食べ比べながら、私にもドラゴンの話を聞かせて欲しいと言ったので、私が、帰りの馬車の中で「黒い点」を見つけた所から話した。


 エリオット様とアルバート様が、第二騎士団の配置とか細かい質問をして来る。テオと私が、それぞれが見たことを話すんだけど、エリオット様たちの干し肉に延ばす手が止まらなくて……ふふふ、山盛りに出した干し肉がなくなりそう。


「で、俺達がドラゴンの尻尾で吹っ飛んだ時、アリスが回復魔法を掛けてくれたんだ。そしたら、辺り一面が光って……」


 ああ、あの時はテオがなぎ倒されて必死だった。


「えっ、ちょっと待った! テオ殿、辺り一面って……アリスは『エリアヒール』を掛けたのか!?」


 エリオット様が立ち上がって、頭を抱えている。『エリアヒール』って範囲魔法だったかな? でも私、『ヒール』としか詠唱していないよ……口に出さない時もあったけど。


「……副隊長、『エリアヒール』はランクBの回復魔法ですよ。宮廷魔術師でも使える者は限られています」

「ああ、そうだな……」


 エリオット様は座って、腕を組むと目を閉じた。


 『エリアヒール』? エリオット様、私がドラゴン戦で使ったのは回復魔法の『ヒール』だけです。聖魔法は干し肉にしか使っていませんよ。


「えっ、アリスは範囲魔法の『エリアヒール』を使えるの!? 凄いね! 聖女並みじゃないか……あぁ、そうか、なるほど」


 なぜか、ロペス様が納得した顔で頷いている……ん? もしかして、ロペス様を診た治癒士は、ランクCの回復魔法の使い手だったとか? え~っと、言えませんが、ロペス様の『魔力の流れ』が良くなったのは『浄化魔法』を使ったからですよ。回復魔法や聖魔法も使ったけどね。


 アルバート様とロペス様が、『エリアヒール』を使えるのは、ほとんどが聖女様で、ランクの高い聖魔法を使える聖女様ほど回復魔法のランクも高いと言う。


「私……『ヒール』しか使いませんでしたよ。高い回復効果が出たのなら、それは、レオおじいちゃんがプレゼントしてくれた杖がとっても性能が良いからだと思います」


 ステータスが見えるようになったから、自分の回復魔法のランクが高いのは知っているけど……アルバート様とロペス様が、聖魔法と絡ませて来たら言えません。エリオット様は聖魔法のことを知っているから良いけど、二人に杖を見せて誤魔化そうとしたけど半信半疑みたい。


「この杖が、魔法のランクを上げて発動させたのか? 私には杖のことは良く分からないが、ここに付いている魔石がランクA以上の魔物の魔石なのは分かる。だが……」


「アリス……この杖は本当に良い物だね。私も回復魔法か光魔法が使えたら、絶対に欲しい! でも、杖で魔法のランクを上げられるのかな? 魔石の効果だとして、この魔石は……何の魔物だろう」


 エリオット様が意味ありげにテオを見た。


「アリスが、ドラゴン戦で何度も『ヒール』を使ったのなら、ただ単に回復魔法のランクが上がったのかも知れないな」

「ああ、エリオット様の言う通りかもな!」


「……副隊長、それは有り得ますね」

「そうですね。杖の効果より、副隊長の言う通り、スキルのランクが上がったと考える方が納得します」


 そっか。もし誰かに聞かれたら、私の回復魔法はドラゴン戦でランクBに上がったと言えば良いのかな? そう言えば、テオにステータスが見えるようになったことを言ってないな……。


 エリオット様が、テオや私が参戦したことや、マジックポーションは報告書に書かないといけないけど、ギーレン副隊長とレオおじいちゃんに、騒ぎにならないよう最小限でとお願いしてくれるそうです。


「エリオット様、助かる」

「アリスを守る為です。テオ殿も、自重してください」

「ああ……」


 最後に、テオと作ったドラゴンの干し肉が、第二騎士団と宮廷魔術団に携帯食として支給されたと言ったら、テオがエリオット様とアルバート様に睨まれていた。


 ロペス様は「えっ、この干し肉が携帯食ですか!? 羨まし過ぎる……」と、最後の1個をつまんで、悲しそうな顔をしていた。ロペス様って、スラッと細身なのに食いしん坊ですよね。ふふふ。


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