第55話 遠征⑫ バレていた

 うん? リアム様が言うインパクトって何だろうと不思議に思っていると、リアム様が私を見た。


「アリス、貴方が作ったドラゴンの干し肉を食べると、全身を駆け巡る癒しの波と清らかな風を感じるのですよ」


「ええっ!?」


 ……リアム様、何を言っているんですか?


 ワイバーンの干し肉には、浄化魔法と回復魔法を掛けたけど、ドラゴンの干し肉には聖魔法も掛けたの。だって、物語に出てくる魔物だよ……食べて呪われたりしたら嫌だからね。


「確か……清らかな風は、秘密でしたね?」


「えっ……」


 リアム様が、私に確認するように言葉を付け足した。リアム様には、ドラゴンの干し肉に掛けたがバレているの? どうしよう……。


「リアムは、いつも一言多いのぉ」


 えっ、レオおじいちゃんにもバレていた?


 宿に戻ってテオに話すと、


「ん~。エリオット様から、秘密だと話が行ってるんじゃないか? そうじゃなきゃ、今頃、教会に見つかっているだろう。まあ、教会にバレたら王都を出ればいいだけだ。他の国に行くのも良いかもな」

「そっか……」


 テオは色々と考えてくれているんだ。任せておけばいいね。


「アリス、調味料を買いに行くんだろ?」

「そうだった! テオ、<トロム>の市場に連れて行って」


 ◇◇

 翌日、<王都リッヒ>へ向けて出発した。行きと違って余裕があると言うか、みなさんはのんびりしているけど、私は残りの肉でドラゴンの干し肉作りを頑張った。


 馬車に揺られながら干し肉を作る。昼の休憩や野営でも作業をして、2日ほど掛かってやっと作り終えた。布袋に干し肉を詰めて補佐の騎士様に渡したから、これでのんびり出来るよ~。


 その後、特に何事もなく10日目の昼頃、<王都リッヒ>に到着した。討伐部隊とは北門で別れ、ハロルドさんに店まで送ってもらった。


「ハロルドさん、色々とお世話になりました」

「ハロルドさん、ありがとうございました!」


「いえ、こちらこそ……あの時、ドラゴンから逃げなかったお二人に感謝しています。ありがとうございました」


 ハロルドさんを見送って、勝手口から家に入ると……あぁ、やっぱり、家が良いな~。


 テオとお昼を食べると、テオはこれから昼寝すると言って2階へ上がって行った。私はレポートを書こうかな。フランチェ先生からレポートを提出するように言われたからね。


 書き方がよく分からなくて、箇条書きの日記みたいになってしまうな。う~ん、地図も書き入れて……ワイバーン討伐時の騎士様の動きと宮廷魔術団の魔法を詳しく書いたけど、ドラゴンは……フランチェ先生から、あれこれ聞かれたら困るから簡単に書こう。


 研究中のレオおじいちゃんの魔法は、書かない方がいいような気がして『トルネード』とだけ書いた。だって、研究中の魔法ってと書くと、フランチェ先生が、レオおじいちゃんに見せてくれとねだる姿が目に浮かぶからね。


 テオがドラゴン戦に加わったことは書いたけど、杖とかマジックポーションのことは省いて、私は簡単に『ヒールを掛けた』とだけ書く。


 ワイバーンの干し肉作りも簡単に書いたし、あぁ、後処理に必要なアイテムとして『シャベル』を書き忘れないようにしないとね。他に書き忘れてないかな……そうだ! 肉の保存の為に『氷魔法を使える人がいればよかった』と書いておこう。


 ワイバーンやドラゴンの絵も描こうかな。ドラゴンなんて、どこかの物語に描いてあった絵と全然違ったしね。


 もう直ぐ8の月。学園を1カ月近くも休んだから早く学園に行きたい。早く行かないと、みんなに忘れられそうだな……。


◇◇

 何て思ったけど、学園に行くと、待っていましたとソフィア様とミア、ミハエル様に遠征の話を聞かれた。


「アリス、兄から聞いたけど、北山の<トロム>の街まで行ったんですって? アリスが無事に帰って来られて良かったわ。まあ、マルティネス様がご一緒なら、何も問題ないでしょうけどね。ふふ」


 ソフィア様が微笑みながら言う。「はい、その通りです」と答えたけど、やっぱり、ソフィア様はかわいいな~。


「アリス、宿のお客さんに聞いたことがあるけど、<トロム>の街って、ミノタウロスの肉が名物だよね~?」


 良く知っているね~。ミアに屋台の話をすると、「えっ! 屋台でミノタウロスの串焼きがあるの!? 絶対、<トロム>に行きたい~!」って、手を握り締めて飛び跳ねている。ふふ。


「兄には、アリスは急用で休んでいるとだけしか言ってないんだよ。アリスが、マルティネス様と一緒に、ワイバーン討伐を見に言ったと話せば羨ましがるだろうね~。フフ」

「ミハエル様……」


 ウィルバート様に知られると話が広がりそうなので、言わないでくださいとお願いした。


「あ~……そうなるだろうね。分かった、僕からは言わないでおくね」

「ミハエル様、ありがとうございます」


 ソフィア様は、ロペス様から今回の遠征先の話を聞いて、グループのメンバーにだけ秘密だと言って話したそうです。勿論、ロレンツ様とユーゴにも……そうなると、お昼にも同じ話をするんだろうな。


 でも、ドラゴンが現れたことは知らないみたいで何も聞いて来ない。ギーレン副隊長が報告したら、直ぐに噂になるだろうから話しても良いよね? 口止めもされなかったし。


 食堂で、ロレンツ様とユーゴにも討伐の話を聞かれ、みんなから質問攻めにされた。その後、まだ話してないことがあるんですと姿勢を正す。


「あのぉ……公表されるまでは黙っていて欲しいんですけど、討伐したのはワイバーンだけじゃないんです」


 ミアが、「アリスがもったいぶるなんて珍しい~」って茶化してくる。


「大きな声を出さないで下さいね。実は、帰りにドラゴンが襲って来たんです」


 みんながキョトンとした後、周りに迷惑なほど大声で、


「えっ……何だって!!」「マジか!!」「何ですって!」「うっそ~!」「アリス! それは話しても良いのかい!?」


 周りの差すような視線から隠れるように……みんな、テーブルに伏せるように頭を寄せあって私の話を聞いてくれた。


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