第54話 遠征⑪ トロムの街で

 翌朝一番に、布袋に詰めたドラゴンの干し肉を、レオおじいちゃんとギーレン副隊長に渡した。隣で、補佐の騎士様が渡した布袋を確認して、黒いアイテムバッグに入れている。


「う~む。ワイバーンの干し肉より旨いの~」

「ええ、本当に。やはり、残りの肉も買い取った方が良かったですね……」


 早速、レオおじいちゃんとリアム様がドラゴンの干し肉を味見している。


「リアム、気持ちは分かるが止めておけ。太った貴族から苦情が来るに決まっとる」

「ですが……」


 リアム様……まだ干し肉にしてない肉が、あと半分もあるんです。これ以上の干し肉作りは遠慮させていただきます。


 出発までに、携帯食としてドラゴンの干し肉が支給されたみたいで、みなさんからお礼を言われた。


 「ありがとう! 凄く、美味しいです!!」


 と、感想を言う騎士様が……もう味見したんですね。食事休憩以外で食べているのが見つかったら、怒られるんじゃないですか? えっ、慣れているから大丈夫? さすが、ベテランの騎士様……確か、補佐の騎士様とB班のワイバーンを倒した騎士様ですよね?


 半日ほどで<トロム>の街に着き、明日は休みを取って、明後日<王都リッヒ>へ向かうことになった。来る時に泊まった宿に2泊するそうです。


 今夜はお酒が解禁になり、食堂のあちこちで討伐部隊のみなさんが嬉しそうに乾杯する声が聞こえる。ふふ、テオとハロルドさんも、お酒をおかわりする度に楽しそうに乾杯しているよ。


 領主への報告はギーレン副隊長に任せたそうで、今夜はレオおじいちゃん達と一緒に食事をしています。


「アリス、明日は一緒に菓子を買いに行くからのぉ。食堂で待ち合わせじゃ。この様子じゃと……テオ殿は起きられんじゃろう。そっちのひよっこもな」

「レオ様! 俺は大丈夫。起きられますよ! ヒック」

「えっ、マルティネス団長……『ひよっこ』とは私のことですか? ヒック、確かにひよっこですが、この程度のお酒は水と変わりません! ヒック」


 酔っているせいか、ハロルドさんがよくしゃべる。ふふ、周りも賑やかだ。


「フォフォフォ、テオ殿はそのまま寝かせて、アリスだけ来ると良いからの」

「はい、レオおじいちゃん」


 なぜか、宮廷魔術師の方々からの視線を感じる……レオおじいちゃんと一緒だから話し掛けられることはないけど、きっとあの杖のことを聞きたいんだろうな。回復魔法や光魔法を使える魔術師なら誰もが欲しがる杖だからね~。


◇◇

 翌朝、飲み過ぎたテオはまだ寝ていて、起きる気配がないので1人で食堂へ。


 食堂に行くとレオおじいちゃんとリアム様しかいなかった。補佐の騎士様が後から来たけど、他の人はまだ寝ているのかな……ハロルドさんも? レオおじいちゃんが言っていた通りだね。


 朝食を食べた後、馬車に乗ってレオおじいちゃんとお菓子屋へ向かう。リアム様も一緒です。街のあちこちからドラゴンの話が聞こえて来る――


 昨日のうちに、王都に持って帰るドラゴンの肉は、商業ギルドで氷魔法を使える人に凍らせて(有料)、冒険者ギルドに残りの肉や鱗を売ったそうなので、ギルドから話が広がったんだろうな。


 これから、街にある高級なお菓子屋――リアム様の手には、なぜか<トロム>の街のお菓子屋が書かれたリストがあって、しかも地図まで書いてある――から順番に巡るそうです。


「アリス、遠慮せずに、気になった菓子があれば何でも言うんじゃぞ」

「そうですよ。アリスが作ったマジックポーションに助けられましたからね。嬉しいことに、これからも手に入ることになりましたし……フフ、全て宮廷魔術団の経費で落としますので、遠慮なく言ってください」


「えっ、リアム様……」


 経費って税金だよね? 私が買ってもらうお菓子を……良いのかな?


「リアム、何を言っておる。全部わしが、アリスにプレゼントするんじゃ!」


 うん、その方が良いな。


「レオおじいちゃん、ありがとうございます」


 お菓子屋で、美味しそうなのを1つ選べば、レオおじいちゃんが「そうかそうか、アリスはそれが良いのか。フォフォフォ」と喜んでくれる。


 するとリアム様が、「この店では、このお菓子食べてみるべきです」と別のお菓子を持って来てくれるの。リストに書いてある、リアム様お勧めのお菓子ですね。ありがとうございます。


 そして、馬車で次の店へ……の繰り返し。


「アリス、後は日持ちのする焼き菓子を選んだ方が良いですよ」


「はい、リアム様……」


 バッグがあるからいいけど、いくつお菓子を買ってもらったか分からない……。



 お昼には、高そうなレストランに連れて行ってもらった。貴族が行くようなお店は初めてだから緊張するな。入口に『ドラゴンの肉、入荷しました!』の貼り紙があるけど、値段が書いてないです。


「どれ、試しに食べてみようかの~リアム」

「ええ、どんな味付けで出されるのでしょうね。アリスが作ったドラゴンの干し肉より美味しいでしょうか? 興味がありますね。アリスもいただきましょう」

「はい……」


 リアム様、干し肉と比べるのはおかしいんじゃないですか? と思うけど、言えません。それより、値段を確認しないで注文するんですか? これも聞けません……。


 学園の授業でテーブルマナーを教えてもらっていて良かった~。実際にマナーが必要なお食事会? は初めてなので、レオおじいちゃんとリアム様を見ながら食べよう。マナーを失敗しても怒られないと思うけどね。


 レオおじいちゃんが頼んでくれた果実水をチビチビ飲みながら、ドラゴンの料理を楽しみに待っていたら、ニンニクの香りがただようドラゴンのステーキが運ばれて来た。うわ~! 美味しそう~。


 リアム様を真似して、フォークとナイフを使ってステーキ肉を小さく切って口へ運ぶ……う~ん、美味しい! ステーキに添えてあるトロトロのじゃがいもかな? ドラゴンの肉汁が掛かった所が美味しい~。ニンニク最高! 幸せだ~♪


「野営で食べたのと変わらんのぉ」

「ええ、ニンニクが有るか無いかの違いだけですからね。アリスの作った干し肉の方が、インパクトがあります」


 うん? インパクト……?

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