第58話 冒険者になる

 10の月の第2光の曜日、私の12歳の誕生日が来た。


 ドラゴン――あの時から自分のステータスが見られるようになって、本当は9の月には12歳になっていたんだけど、誕生日の今日を待って冒険者登録に行くことにしたの。


 私のステータスには、変なスキルじゃないけど、よく分からないスキルがあったから、テオの言う通り『鑑定の儀』に行かなくて良かったと思う。聖魔法のランクも高いから、絶対! テオと引き離されていたよ。


 さあ、準備しよう。


 テオから誕生日プレゼントにもらった冒険者(初心者)用の革装備に着替えて、1階へ下りると、台所で珍しくテオが朝食を作ってくれている。


「テオ、おはよう」

「おはよう、アリス。食べたらギルドに行くぞ」


 ギルドに登録するぐらい一人で大丈夫なのに、テオは一緒に行くと言って聞かない。最近、テオの過保護がますます酷くなった気がする。


「……一人で大丈夫だよ?」

「ダメだ。アリスを一人で冒険者ギルドなんかに行かせられない。アリスはしっかりしているが、変な奴はあちこちにいるんだぞ!」


 そう言われて、テオと一緒に行くことになった。テオは言い出したら聞かないからね。


「お嬢ちゃん、可愛いな~。冒険者ギルドに何か用かな~? お兄さんが手伝ってあげよう~!」


 大通りにある冒険者ギルドに入ると、直ぐに20代後半かな? 真っ赤な顔をした冒険者が声をかけて来た。年季の入った装備を身に付けているけど、朝から飲んでいるみたいで酒臭い……速攻、後ろにいたテオが私の前に出た。


「お前……俺のアリスに絡むとは良い根性しているな! 誰が『お兄さん』だ! 俺が相手になってやる!」


「えっ、ランクBのテオさん!? ヒエ~! テオさんの連れとは知らなくて、すいませんでしたー!!」


 真っ赤な顔の冒険者は、テオにペコペコ謝ってギルドから飛び出して行った。


「テオは有名人なの?」

「いや、有名じゃないが、アリスは俺が守るからな!」


 テオはドヤ顔だ……ふふ、頼りにしています。


 受付にいるお姉さんに冒険者の登録をしたいと伝え、置いてある登録用紙に名前・年齢・出身国を記入して渡した。お姉さんが登録用紙を持って奥に行き、少し待つと、鉄っぽい金属で出来た冒険者カードを持って来た。


 手の平に納まる大きさの薄いカードで、これに私の血を一滴垂らすだけ。


「アリス様、こちらの冒険者カードは身分証にもなっています。未成年や初心者の方は、ランクFからのスタートになり、カードの再発行は有料になりますのでお気を付けください」


 最初、個人で受けられる依頼はランクFだけで、パーティーを組んでいたらメンバーのランクや人数によってEやDの依頼を受けられるそうです。条件をクリアーすると個人のランクがFからE→Dと、上がっていくけど無理しないようにと言われた。


「はい。ありがとうございます」


 カードには革のひもが通してあったので、早速、首から下げる。これで1人でも、門から出られるようになった。ふふ、薬草を1人で採りに行けるのよ!


 初心者の講習会があるけど、参加は自由で、テオが教えてくれるから参加しなくても大丈夫だと言う。


「アリス、冒険者カードを出せ。パーティーを組むぞ」

「パーティーを組むのにカードがいるんだ」


 パーティーを組む時は、冒険者ギルドに登録するんだって。受付のお姉さんが、テオと私の冒険者カードを受け取って、私をチラチラと見る。


「パーティーを組まれるんですね……アリスさんは、テオさんのお知り合いですか?」


「ああ、俺の可愛いアリスだ」

「テオ……」


 それだと誤解されるよ。受付のお姉さんが変な顔をしたので、勘違いされないように私から言葉を足しておく。


「あの、私はテオの娘です」


「あぁ! そうなんですね。直ぐに登録します」


 受付のお姉さんが納得して、側に置いてある魔道具を使って作業を始めた。


【パーティーメンバー:テオ】


 返されたカードの裏面を見ると、テオの名前が書かれていた。パーティー名があれば、パーティー名も登録されるんだって。


 前から、テオが言っていたからパーティーを組んだけど……男女の2人パーティーって、普通は恋人同士で組むんでしょ? これじゃあ、いつまで経っても彼女が出来ないよ。


「アリス、パーティーの名前を付けようか? カッコイイ名前が良いな! 双頭の龍とか暁の剣とか」

「えっ……テオ、付けないよ」


 親子のパーティーなのに、そんな名前は恥ずかしすぎる。それなら無い方がいいよ。


 初めての依頼はランクFの『薬草収集』……これにする。薬草はアイテムバッグに入っているけど、初めての依頼なのでちゃんと薬草を採りに行こう。


「テオ、薬草収集の依頼を受けるね。今から薬草を採りに行くから」

「おう! アリスの初依頼だから<大森林>へ行こうか」

「うん!」


 ◇

 東門を出て、2時間ほど歩くと<大森林>の入口に着いた。早速、薬草を採り始める。


「そうだ……ねえ、テオ。私、ステータスを見られるようになったんだけど、どうして私のスキルはこんなに沢山あるのかな?」


「おっ、アリスはステータスを見られるようになったのか! って、ことは鑑定スキルを持っているんだな。アリスのスキルが多いのは、母親の能力を受け継いだんだろう。実は……お前の母親・サユリは<迷い人>だったんだ」


「えっ!? <迷い人>……私の母さんが? 初めて聞いたけど……」


 学園の授業で習ったよ。<迷い人>って、別の世界から迷い込んで来る人のことで、強い力や魔法を持っている人が多いから、どこの国でも大事に保護されるって聞いたな。


 <迷い人>の母さんの能力を……だから、あのステータスなのか。


「ああ、言わなかった。トラブルになりそうだから誰にも言ってないぞ。それと、俺もアリスに言わないといけないことがある……」


 テオが手を止めて、じっと私の顔を見る。


「ん……何?」


「実は、だいぶ前なんだが……信用できる冒険者に、サユリの行方を詳しく調べてもらったんだ……」


 その調査の報告で、私の母さんは東の国の政権争いに巻き込まれて、死んだことが分かったそう。前から……もう死んでいるかもって思っていたから、やっぱり、って感じ……。


「テオ、調べてくれてありがとう」


「ああ、国が変わって、それ以上詳しく調べられなかったんだ。アリスの父親の事は知らん。知りたいか?」


「う~ん、別にいい。私にはテオがいるからね」


 にっこり笑って、「母さんがサユリで、育て親はテオ。これで十分だよ」と言うと、テオは胸を抑えて苦しそうなんだけど、大丈夫かな?


「ぐうっ、アリス……お前、可愛すぎるぞ!」


「テオ……」


 親バカだ。


 テオからスキルのことは誰にも言うなと釘を刺されたけど、このステータスは、誰にも見せられないよ。テオには……どうしようかな~。『ステータス・オープン』

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名前  アリス

年齢  12歳

HP   31/31

MP  689/689

攻撃力  E→D

防御力  D→C

速度   C→B

知力   A

幸運   B

スキル・生活魔法 ・鑑定B ・料理B→A ・身体強化B

・火魔法B ・風魔法B→A ・土魔法B ・水魔法B

・闇魔法A ・光魔法A ・雷魔法B ・氷魔法B

・回復魔法S ・聖魔法S ・無属性魔法C ・空間魔法C 

・付加魔法B ・浄化魔法S ・短剣D→C ・錬金術B

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 凄い数のスキルだよね。スキルのランクが高いのは、母さんの能力を受け継いだからか……あっ! いつの間にかステータスが上がっている。スキルも……ふふ、嬉しいな。


 私が作った簡単な料理やお茶が美味しいって言われるのは、『料理』スキルのお陰だったみたい。このスキルは、持っているだけで他の人が作った料理より美味しくなるんだって。


 何も考えて無かったけど、お茶や干し肉に回復効果が付いたのは『付加魔法』を持っていたからで、普通は魔法を掛けた”物”に属性効果は付かないって授業で習った。


 『無属性魔法』や『空間魔法』は、よく分からない。そのうち、授業で教えてもらうかも知れないけど自分でも調べてみようかな。


 ギルドで依頼の薬草を渡して、初めての報奨金をもらった。


 薬草10本を一束で銅貨5枚か……売らずにポーションを作った方が儲かるから、依頼を受けるのは薬草を採りに行くついでにしようかな~。


 学園の休みに、テオと一緒にね。ふふ。





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・あとがき・

この話で完結とさせて頂きます。拙作を最後まで読んで頂き、ありがとうございます。多くの方に読んで頂いて、フォローや♡・★・応援していただいて、とても嬉しく思っています。ありがとうございました。


2023/4/30 Rapu


※「第2章」で完結でしたが、「第3章」書き始めました。

2023/10/8 Rapu

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