第29話 魔法の演習
今日もいつもの席で、5人仲良くお昼を食べている。
「昼からは、やっと魔法の演習だね」
「ロレンツ様、俺、楽しみですよ!」
「私も~、魔法を使うとスッキリするのよね~」
ユーゴもミアも、今日から始まる魔法の演習を楽しみにしていたからね。
今週から通常授業。年少科の午前中は座学で、お昼からは――火の曜日から風・土・水の曜日までの4日間、魔法の演習と騎士科の講習が交互にあって、騎士科の講習は希望者だけ。騎士科の講習を希望しない生徒は、お昼までの授業になるの。
週末の闇曜日と光曜日、年少科は休みなんだけど、騎士科を希望する生徒だけ闇曜日に騎士科の講習がある。騎士科希望の生徒は、週5日みっちり授業があるから大変そう。
「ふふ。ユーゴもミアも、無茶をしないでね」
ソフィア様が優しく2人に声をかける。ソフィア様のラミレス家は、魔力の強い家系で、ソフィア様のお祖父ちゃんが宮廷魔術師だったこともあり、幼い頃から家庭教師を付けて魔法を教わっているそうです。
「宮廷魔術師を出した家では、ほとんどの貴族が子供に魔法の家庭教師をつけているわ」
「「「宮廷魔術師!」凄い……」」
宮廷魔術師は、強い魔法が使えれば誰でもなれる訳ではなく、多くの魔力量を持つ選ばれた魔法使いしかなれないって聞いた。
「騎士を出す家系で、剣術の指南役を付けるのと同じだね。アリスは、回復魔法を使えるのに魔術の先生に習っていないのかい?」
「はい。ロレンツ様、家が小さな薬屋なので、店番をしながら錬金術の練習で薬を作っていました」
「「錬金術……」」
ロレンツ様とソフィア様が顔を見合わせ、私をジッと見て言った。
「「もったいない」ですわ」
2人の声がハモっている……まぁ、魔法は使えば魔力量が増えたり、強い魔法が使えるようになることもあるって聞くけど、普通の庶民は家庭教師を付ける余裕なんてないですよ。
でも、薬を作る時に回復魔法と聖魔法は使っていたし、浄化魔法も良く使っていたから少しは成長していると思う。
ただ、属性魔法は……薬草や野菜を水で洗ったり切ったり、お肉を焼いたりする時にしか使わなかったなぁ。
◇
お昼から魔法の訓練場へ行った。魔法の演習は、Aクラス・Bクラスの合同で授業を受けるみたい。Aクラスの先生は、試験の時にいた黒髪のグレース先生。
「では、グループに分かれて。1人ずつ前に出て、的に向かって魔法を撃つつもりで手に魔力を溜めてもらいます。合図をするまで撃たないように、これは魔力を制御する訓練です」
授業の進行はグレース先生で、フランチェ先生は上手く出来ない生徒に声を掛けている。魔力を溜めて維持するのは難しくて、魔力が膨らみ過ぎて我慢できずに魔法を撃つ子もいる。
「では、的に向けて魔法を放ってください」
グレース先生の言葉に、最後まで魔力を溜めていた生徒達が、的に向かって魔法を撃っていく。
「リカルド様、さすがです!」
「リカルド様は、宮廷魔術師になるお方だからな!」
「「「キャ~! リカルド様~、ステキ!」」
リカルド・フェルナンデス様は、魔力が多そうなのに安定して余裕の表情です。そして、取り巻きのかけ声も安定している。
隣のグループにいるスカーレット・マーフィー様の……手に溜めた魔力量がスゴイ。そこまで魔力を込めなくても……火花が散って今にも暴発しそうだよ……。
「「スカーレット様、スゴイですわ!」魔力まで輝いている!」
「「「おぉ……」」耐えた!」
フランチェ先生がすぐ後ろで待機していたけど……耐えた。
「ふう~、なかなか良い訓練ですわね!」
拍手している取り巻きに、額から汗を流しながらドヤ顔で言っている……スゴイ。
溜める時間が長いから、終わった後に息切れして座り込んでいる子もいる。ユーゴとミアも座り込んでいて、ロレンツ様も息が苦しそう……騎士科希望の子は、制御が出来ない子が多いみたい……そう言えば、ロレンツ様も来年騎士科の試験を受けるって言っていたな。
息切れしていない学生は、家庭教師から魔法を教わっていたのかな。ソフィア様は汗一つかかず、余裕の表情です。今日もかわいい。
最後は私。ゆっくり魔力を流して、手の平に『風魔法』を大きくならないように、包み込む。そして、グレース先生の合図で的に向かって放つ――『エアーカッター』の詠唱を忘れずに――
シュルルル、ヒュ――シュバッ!
やった! そよ風じゃなかったよ~。低レベルから中レベルの間かな? 魔力を抑えていたからもう少し強い魔法も撃てるかも。
「アリス、魔法の制御が上手いわね」
「ソフィア様、ありがとうございます!」
ソフィア様にほめられた~。木箱とかの魔道具を作る時、魔力を込めて魔法陣を描いたりするから、魔力を制御するのは慣れているかも。木箱をよく燃やしたけどね。ふふ。
魔法の実習が終わる頃、フランチェ先生がこっちに来た。
「アリス、回復魔法の練習をしませんか?」
「フランチェ先生、しませんよ……」
回復魔法の練習なんかしたら目立つじゃないですか……。
「アリス、今から騎士科の授業を見学に行ったら、好きなだけ回復魔法の練習が出来ますよ。フフ」
「行きません……」
フランチェ先生、笑顔でしつこいですよ。
「アリス、回復魔法のレベルを上げたいでしょ? 練習したい時はいつでも声を掛けて下さい。僕が連れて行きますからね。フフ」
もう一度言います、
「フランチェ先生、行きませんよ」
目立つことをして、貴族に声をかけられたらどうするんですか!
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