第30話 隣国で
授業が終わると、男の子達は誰の魔法が強いとか順位をつけている。年少科は、基本的な魔法の授業ばかりで、試験もないそうだから誰かと競うこともないのに。
段々、男の子達の声が大きくなって来た……風魔法が得意なリカルド・フェルナンデス様と、スカーレット・マーフィー様の火魔法のどちらが1位かで
◇◇◇
ある朝、テオに学園の門まで送ってもらうと、学園の正面入り口に整然と馬車が並んでいた。朝から騎士科と魔術科の3年生が馬車に乗り込んでいる。どこかに行くのかな……。
私みたいに、家から通う生徒達――騎士科のCクラス(警備兵希望の庶民)かな――も、気になるようでチラチラ見ている。
「大掛かりだな。野外へ演習にでも行くのか? それとも、ダンジョンで実践練習か……」
「ダンジョン……」
教室に行って、グループのみんなに今見てきたことを伝えると、ロレンツ様が教えてくれた。
「アリス、3年になるとね、魔物討伐の実習があるんだ。騎士科と魔術科でパーティーを組んでダンジョンに入るって聞いたよ」
「そうなんですね」
「でも早いね。夏頃から始まると聞いていたんだが……」
その日の授業で、<リッヒ王国>の南にある<グラーツ王国>で、スタンピードが起きたとフランチェ先生から話があった。
第二騎士団が、南の国境付近の街や村を見回りに向かったそうで、人手が足りなくなると、3年生が見回りに参加することもあるから、今年は早めに実習を始めたんだって。
「皆さん、過去に隣国で起きたスタンピードでは、魔物がここまで来たことはありません。噂が耳に入るかも知れませんから、正しい情報を知っておいて下さい」
毎年、どこかの国でスタンピードが起きていて、隣接した領地の貴族には知らせるけど、それ以外は不安をあおるから知らせないそうです。噂を聞いても、騎士団が見回りに向かったから心配しないようにと言われた。
お昼の食堂では、スタンピードの話があちこちから聞こえて来た。
「隣の国でスタンピードか……いつ起きるか分からないから俺も鍛えないとな!」
「ユーゴ、私達が駆り出されるのは3年になってからでしょう?」
「ミア、そんなことは滅多にないと思うよ」
「ええ、ロレンツ様の言う通りよ。3年生が見回りに参加したなんて話は聞いたことないですわ」
隣の国の話でも、スタンピードと聞くと不安になるよね。もし、国内で起きたら……。
「4年前の……この国で起きたスタンピードの時はどうだったのかな?」
「えっ? アリス、<リッヒ王国>内でスタンピードがあったのかい?」
「はい、ロレンツ様。4年前にスタンピードがあったと、第一騎士団のエリオット様から聞きました」
その時、街の様子はどうだったんだろう……。
「「「4年前……」」覚えてない」「私も~」
私が6歳頃の話だから、私も記憶はないな。
「えっ! アリスは、第一騎士団副隊長のエリオット・フィリップス様を知っているのかい?」
ロレンツ様が目を見開いて、少し大きな声で私に身体を向けて来た。私、不味いことを言ったのかな……推薦状を書いてもらっているから話しても良いよね?
「はい……ロレンツ様。私、エリオット様の勧めで学園の試験を受けたんです」
「アリス、第一騎士団の副団長を知っているのか? 凄いな!」
う~ん、スタンピードの話がエリオット様の話になってしまった。「俺、騎士の知り合いなんて一人もいないぞ」と、ユーゴがキラキラした目で見てくる。
「えっと……ユーゴ、凄くないよ。家が薬屋をやっていてね、エリオット様はお客様なのよ」
「薬屋? そうか、アリスん家の客なのか」
「えっ、第一騎士団の副団長が店に来るんだ。しかも、エリオット様……名前呼びとは親しい証拠だよね……羨ましいな」
えっ、ロレンツ様? あ……フィリップス様と言えば良かったのか。ロレンツ様まで目がキラキラしてきた。騎士科希望の2人にとって、第一騎士団の副隊長は憧れの人なのかもね。
ああ、4年前にスタンピードがあったことは、グループのメンバーは誰も知りませんでした。
ロレンツ様とソフィア様は、学園に入るまで王都じゃなく領地にいたそうなので、余計に聞かなかったのかも……でも、5~6歳の頃のことってあんまり覚えてないな。
◇◇◇
それから1カ月ほどして、フランチェ先生から、<グラーツ王国>で起きたスタンピードの魔物の討伐が完了し、見回りに行っていた第二騎士団が王都に戻って来たと知らされた。
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