第28話 頼りになる


 グループの自己紹介が終わった後、フランチェ先生に引率されて食堂へ行った。


「皆さん、食堂の使い方を教えますから覚えて下さい。先ず、中庭に続くテラス席は、王族と特別科の生徒、そして、3年生の公爵家・侯爵家が利用します」


 へえ~、特別科なんてあるんだ……私達は立入禁止ってことね。そして、食堂の真ん中にあるキッチンから向こう側は、普通科の生徒が使うスペースになっているので、キッチンより手前側のテーブルを使うように言われた。


「テーブルの数は多いので、ゆったりと利用出来ますからね。それと……」


 なんと、食堂で食べる日替わり定食は無料だって! 無料だったら食堂で食べる方が良いな。キッチンのメニューを見に行くと、別の料理やデザートは有料で、豪華なコース料理もあって金貨1枚もするんだって。


「今日はこれで終わりです。食堂は今日から使えますので、食べて帰っても良いですよ。では、また明日」


 フランチェ先生は、そう言って食堂から出て行った。


「アリスちゃん、お昼食べない?」

「うん。ミアちゃん、食べる~」


 ミアちゃんが、お昼を誘ってくれた。わ~い。


「アリスさん、ミアさん、私もご一緒していいですか?」

「ソフィア様、「もちろんです!」」

「俺も一緒に食べる!」

「僕は部屋の片付けが残っているから寮に戻るね。みんな、また明日」


 ロレンツ様が食堂から出た後、4人で食堂の端っこに座った。と言っても、大人8人でもゆったりと使える広いテーブルで、長椅子が4脚ある。


「私はパンを持って来たので、ここで待っていますね」


 無料の定食を食べようか迷ったけど、今日は様子見でバッグにあるサンドパンを食べよう。


「分かった。俺、定食を頼んで来る」

「アリスちゃん、私も行って来るね~」

「うん、いってらっしゃい。ソフィア様もどうぞ料理を頼んできて下さい」

「いいえ。私は、アリスを一人にはしませんから。ふふ」


 ソフィア様の笑顔がかわいい~。釣られて笑顔になるよ。


「うわぁ……」

「アリスさん、どうかしました?」

「いえ、ソフィア様が……かわいいなぁって思って。ふふ」

「えっ、アリスさん……困りますわ」


 ソフィア様が目を泳がせる。顔を赤くして、かわいい~! 白い肌で、髪が水色だからか、顔が赤くなったのが良く分かるね。


「ソフィア様、顔が赤いぞ。大丈夫……ですか?」

「ユ、ユーゴ、大丈夫です。私も料理を頼んで行きますから、アリスをお願いしますね」

「おう! 何か分からないけど頼まれた……ました?」


 ユーゴの言葉使いが、友達口調だったり丁寧語が入ったり……ふふ、可笑しい。話し慣れていないとそうなるよね。ソフィア様も、ユーゴの話し方に笑っている。


 ミアちゃんも戻って来たので、私も目玉焼きとチーズのサンドパンを出した。


「アリスちゃん、そのパン美味しそうね~。もしかして、自分で作ったの?」

「うん。食事は私の担当だからね」


 いつだったか……テオが、私の作った料理をおいしいって言ってくれたのが嬉しくて、食事を作るようになったな。


「皆さん、お待たせしました」


 ソフィア様が戻ってきたので食べ始めると、ミアちゃんが自己紹介の続きを始めた。


「私ね、魔力の制御ができなくて時々熱が出るの……だから制御の仕方を覚えたくて年少科の試験を受けました。それと、魔力の多い子はさらわれやすいんだって。危ないから寮に入るように親から言われました」


 ミアちゃんの家は、貴族が利用する高級な宿屋をやっていて、よく利用してくれる貴族が推薦状を書いてくれたそうです。


「俺は魔法が使える騎士になりたい! だから魔法を勉強して、来年は騎士科の試験を受ける。寮に入ったのは、オヤジから旨い食事がタダだと聞いたから……です」


 えっ、寮の食事も……じゃあ、3食無料ってこと!?


「ユーゴは騎士を目指しているのね」

「そうです。ソフィア様、騎士科のCクラス……警備兵クラスで上位の成績を取れば、騎士になれるチャンスがあるってオヤジから聞きました」


 ユーゴのお父さんは警備兵さんで、学園の騎士科を出ているから色々と教えてもらったそうです。


「ええ、その通りね」

「「へえ~」」


 ユーゴは、ちゃんと先のことを考えているのね。すごいな。


「アリスちゃんは?」

「ミアちゃん、私が年少科の試験を受けたのは、知り合いの貴族様に勧められたからなの。学園では、錬金術と魔道具の勉強がしたい。寮には入らないで家から通っています」


 ユーゴとミアちゃんが、寮に入らないんだと驚いている。


「私は、その方にアリスさんを見守るように頼まれたのですわ」


 ソフィア様は自慢げに言うけど、エリオット様から頼まれたのですか? それって……、


「もしかして、私のせいで年少科に……」

「アリスさん、勘違いしないで下さいね。私は宮廷魔術師になりたくて年少科を受けたかったのですが……両親に反対されていたの。それが、アリスさんのお陰で、試験を受けることが出来て喜んでいるのですからね。ふふふ」


 良かった。エリオット様に言われて、イヤイヤ年少科に来たのかと思ったよ……私、しっかりしているって良く言われるけど、ソフィア様の方がもっとしっかりしている。話し方とか……スゴイね! あぁ、何か楽しいな~。同年代の子と話すことって、ほとんどないからね。


 ◇

「テオ、ただいま~!」

「おう、おかえり! アリス、学園はどうだった?」


 テオにグループ分けをしたことや、みんなでお昼を食べたことを話した。


「そうだ! テオ、食堂の日替わり定食が無料なんだよ。食べないと損だよね~」

「アリス、損とか考えなくていいぞ。アリスが作る方が旨いに決まっているからな」


 出た~、テオの親バカ発言。ふふ、嬉しいけどね。


 ◇◇

 翌日の授業は、午前中は簡単な生活魔法の勉強だった。お昼からは競技場の見学。1階の中央には観客席のある広い競技場があって、その左右の建物に騎士科の訓練場と試験を受けた魔法科の訓練場がある。


 2階には錬金術や魔術具の実験ができる部屋があって、サークル活動をしたり、研究で部屋を借りることも出来るんだって。


 そんな感じで午前中は座学――教室で授業することを言うんだって――で、昼から学園内にある施設の見学が続いた。


 午前中の授業で1番興味があったのはステータスの授業。みんなは、10歳の『鑑定の儀』で自分のステータスを見ただろうけど、私は知らないから必死にメモを取った。最後にフランチェ先生は、自分のステータスやスキルランクは、なるべく他人に教えないようにと言って授業が終わった。



「アリスは、今日はパンを持って来たの?」

「うん、そうなの。ミア、待っているから定食を頼んで来て」


 美味しそうな日替わりメニューの時は食べるんだけど、今日の日替わりのメニューを見たら、辛そうだったのでバッグにあるコカ肉のサンドパンにする。自分で作るピリ辛ソースは加減が出来るから大丈夫だけど、外で食べる辛い料理は苦手なんだよね。


「ロレンツ様、ソフィア様も先に定食を取りに行ってください。俺がアリスと席を取っていますから」

「じゃあ、ユーゴ、先に取って来るよ」

「ユーゴ、お願いしますね。ミア、行きましょうか」

「はい。ユーゴ、アリス、すぐに戻って来るからね」


 グループのメンバーとはすっかり仲良くなって、ミアとは”ちゃん”付けがなくなり、ソフィア様も「アリス」と呼んでくれるようになった。”さん”付けされるのは変な感じだったから嬉しい。ふふ。


 それと、始めはソフィア様だけだったのに、みんな私を1人にしなくなった。この前、定食のお皿を厨房に返しに行ったら、後ろから声を掛けられたの……。



 ◆    ◆    ◆


「お前が、『回復魔法』を使える庶民か?」


 振り向くと、背が高くて体格のいい先輩? に声を掛けられた。マントを付けていないから騎士科か普通科……胸元が細いリボンで赤色だから、騎士科の3年生だ。『庶民か?』って聞いて来るから貴族だよね……。


「えっ、あの……」


 それを見たミアがソフィア様に知らせてくれて、慌てて来てくれたソフィア様が、私をかばうように立って3年生を見上げて言った。


「失礼します。3年の方が年少科に何の御用ですか? 私が変わってお話を伺いますわ」

「ソ、ソフィア様……」


 助けに来てくれた!


「私のグループの者が、何か無礼なことでもしましたか? バルテス様」

「ロレンツ様……」


 ロレンツ様も、私を隠すようにソフィア様と並んで立ってくれた……同い年なのに、なんて頼りになるんだろう。ユーゴとミアまで隣に来てくれる……。


「むっ、お前はアーノルド家の……特に何もないぞ。挨拶をしようと思っただけだ。またな」



 この後から、誰かがいつも側にいてくれるようになったの。ありがとうございます。

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