第27話 4の月入学
4の月、今日から学園が始まる……緊張するな。
お店用に作った大きな木箱に、目玉焼きとチーズのサンドパンと日替わりのサンドパンを10個ずつ入れた。テオのお昼は、好きな方を食べてもらう。自分の分は、バッグに作り置きのサンドパンがいっぱい入っているから問題ない。
学園の制服に着替えてテオに見せたら、「アリス、可愛いぞ!」とほめてくれた。ふふ。
「テオ、行って来るね!」
「待て待て! アリス、俺が門まで送って行く。俺が送り迎えをするって言っただろう?」
「一人で大丈夫だよ」
テオと押し問答をした結果、朝はテオに送ってもらって、帰りは1人で帰ることで話が付いた。
「じゃあ、アリス行くぞ!」
「は~い」
テオが嬉しそうに手を差し出すので、仕方ないなぁと思いながら手をつないで学園へ向かった。テオの笑顔には弱いのよね~。ふふ。
中央広場から、南の貴族街に伸びる大通りを歩いて行くと学園の門が見えた。
「テオ、ありがとう!」
「おう! アリス、頑張って来い」
テオに手を振って、学園の門で別れた。
門番さんに講堂に行くように言われ、講堂に入ると、新1年生と年少科の生徒が並んでガヤガヤしている。私は年少科の列の最後に並んだ……何だかソワソワしてきた。
『それでは、入学式をはじめます』
正面の右手にいる先生……試験の時にいたフランチェ先生だったかな? の声が大きく響くと、講堂はシ~ンと静まり返った。へえ~、声を『風魔法』に乗せるなんて、面白い魔法の使い方をするな。
間もなく、正面の壇上にシルバーの髪で青い目をした年配の先生が現れた。
「入学おめでとう。私は学園長のローガン・ガルシア。皆さんは、この学園で色々なことを学びます。自分の能力を少しでも伸ばす為に……」
学園長のちょっと長い話が終わって、フランチェ先生が各自のクラスに移動するよう言った。
クラスは爵位で決まっていて、騎士科と普通科のAクラスは、王族・公爵家・侯爵家・伯爵家。Bクラスは伯爵家・子爵家・男爵家に別れる。伯爵家は、その年の人数によって振り分けられるそうです。
騎士科だけCクラスがあって、警備兵を目指す庶民のクラスだって。
魔術科の1年生と年少科はそれぞれ2クラス。Aクラスが王族・公爵・侯爵・伯爵で、Bクラスは子爵家・男爵家・庶民だそうです。エリオット様から、今の学園には王族はいないと聞いたので、ちょっとだけ気分が楽かな。
校舎の1階、事務所のある玄関ホールから入って正面が食堂で、左が1年生の教室。右に行くと医務室があって、奥に年少科の教室があると先生から説明があった。みんなについて行き、年少科のBクラスの教室へ行く。
部屋に入ると黒板に席順が書いてあって、私の席は一番後ろで……あぁ、試験の時にいた庶民の女の子が隣で、その向こうに男の子。庶民の3人が、横一列に並ぶようになっている。
前の教壇に立ったのはフランチェ先生だった。
「僕が、このクラスを受け持つフランチェです。分からないことがあったら何でも聞いて下さい。1年生には3年の相談役の生徒が付きますが、年少科には付かないですからね」
先生が、今年の年少科はA・Bクラス共に20名ずつで、合わせて40名だと言った。私の番号札は50番だったから落ちた人もいるんだ。
「皆さん、今からグループ分けをします。この教室から移動する時は、必ずグループで行動するように心掛けてください」
学園内は広くて、教室移動で毎年迷子が出るからクラスを4つ――5人ずつのグループに分けるそうです。
初めに、リーダーを4人決めることになったんだけど、このクラスで爵位が上位の子爵家は6人いて、この中から選ぶそうです。投票するのは貴族の学生だけで、庶民は分からないだろうから投票しなくていいらしい。あぁ、貴族には派閥とかがあるってロペス様が言っていたな。
先生が、「貴族でない3人は一緒のグループにしますからね」と言ってくれたのが嬉しかった。隣の女の子と目が合って、良かったねと喜びあった。ふふふ。
決まった4人のリーダーの中から、庶民の3人をグループに入れてくれるリーダーを決めるんだけど、リーダー全員が手を挙げた。へぇ~、庶民をグループに入れるなんて嫌がるかと思ったけど。
「ほお~。では、庶民のリーダーに、ロレンツ・アーノルドを指名しましょう」
フランチェ先生が決めたリーダーのロレンツ・アーノルド様は、クラスの中でも背が高い方で、淡い茶色の髪に茶色の瞳、姿勢が良くて頭が良さそうに見える。その後、グループのメンバーを決める話し合いが行われた。
ロレンツ・アーノルド様のグループは、庶民3人が入るから、残り1人ね。
「僕をグループに入れてください!」
「わ・た・し・を是非、グループに! お願いします」
「リーダー、私に補佐をさせてください!」
「アーノルド様、とある方から依頼を受けた私を、貴方のグループに入れてください! お願いしますわ」
おおっ、それぞれのリーダーに自分を売り込む人がいるから、それほど時間もかからずにグループ分けが出来た。
「では、グループが決まったら自己紹介するように」
フランチェ先生に言われて、グループごとに集まり自己紹介を始めた。
「まずは僕からだね。僕はリーダーをさせてもらうロレンツ・アーノルド、子爵家の嫡男で、風魔法が使える。よろしく」
優しそうな声でハキハキした話し方。でも偉そうじゃなくて、微笑みながら1人ずつ目を合わせて話しかけるなんて、同い年には見えないよ……。
「私は、ソフィア・ラミレス。男爵家です。水と風魔法が得意で、土魔法も使えます。兄の指示で年少科に入りました」
アーノルド様の次に挨拶したのは、試験の時に目を引いた水色の髪をした青い目の可愛いい女の子。えっ、兄って……やっぱり! ロペス様の妹さんね。目を見開いてソフィア様を見ると、にっこり笑顔で返してくれた。うわぁ~! かわいい~。
「次は俺! 俺はユーゴ、庶民です。火魔法が得意で風魔法も使える。よろしく!」
ユーゴは、短めの赤い髪で黒い目の元気な男の子。ふふ。
「えっと、私はミア……庶民です。火魔法が1番得意で水魔法も使えます。よろしくお願いします」
ミアちゃんは、クルクルした金髪で大きな茶色い目の女の子。最後は私ね。
「私はアリス。庶民です。風魔法と回復魔法が使えます。よろしくお願いします」
「「おお~!」」
「その年齢で、回復魔法を使えるのは凄いよね。僕を含めて、リーダー達はみんなアリス狙いだったんだよ。フフ」
えっ、私狙い? アーノルド様が言うには、未成年で回復魔法を使える子は貴重らしい。
「本当に……アリスさんに変な虫を付けないよう、お兄様から言われているんです。同じグループだと目が届きますわ。アーノルド様、グループに入れて頂いて感謝します」
えっ……ラミレス様、10歳の私に変な虫って無いと思いますよ。
「アハハ! ラミレス嬢が言っていた『とある方』とは、兄上だったのか。アリス、ラミレス嬢の兄上と知り合いなの?」
「はい、アーノルド様。えっと……家が小さな薬屋をしていて、ロペス様はお客様です」
ロペス様が騎士団の方だとか、お客さんの詳しい話は言ったらダメだよね。
「これから、グループのメンバーとして仲良くやって行きたいから、みんなにはロレンツと呼んで欲しいな」
「まぁ! では、私はソフィアと呼んでくださいね」
言われたからといって呼び捨てはダメだよね……ロレンツ様とソフィア様ですね。分かりました。
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