第26話 試験②

 名前を呼ばれたので前に出ると、試験官のフランチェ先生が呼び止めた。


「アリス、これを治して下さい」


 振り向いてフランチェ先生を見ると、自分の左手をナイフで傷つけていた。


「えっ……先生、何をしているんですか!?」


「浅い傷だから大丈夫ですよ」


 自分の手を傷つけるなんて、信じられない……血がポタポタ流れているじゃない!


 慌てて先生に走り寄って、手の傷を押さえた。いつも魔法を使う時は無詠唱だけど、エリオット様から無詠唱は目立つから、学園で魔法を使う時は簡単でいいから詠唱するように言われている。


「『ヒール!』……フランチェ先生、試験は風魔法で良いんですよね?」


「ええ、その通りですが……」


 フランチェ先生は、天然の回復魔法を体験したかったと言う。天然の回復魔法って意味が分からない。それにしても……普通、自分の手をナイフで切る? あり得ないよ。


「アリス、暖かい魔力が流れて来ましたよ。もう傷がキレイにふさがった……天然の回復魔法は凄いですね~。フフ」


 フランチェ先生がニコニコしながら言うけど、スキル書で覚える回復魔法と私が使う回復魔法は同じだと思いますよ。


「「「「おおー!」」回復魔法だ!」」

「「まぁ……」始めて『ヒール』を見たわ」


 これは、目立ってしまったんじゃぁ……。私の試験はこれで終わりだと言われたので、自分の風魔法の威力が分からないままだった。


 最後に、水晶で魔力量を調べるそうです。先生の説明では、透明の水晶に手を当てると、水晶が魔力に反応して白くなるとか……白い部分が多いほど持っている魔力量が多いと分かる仕組みらしい。


 水晶は、みんなに見えないようについ立で隠されていて、番号順に仕切られた所に入って行くけど、見えないから水晶がどういう風になるのか分からない。


 最後は私、つい立の奥へ入って、机の上にある透明の水晶に手を伸ばすと……触っていないのに、水晶が真っ白になってキラキラと輝いた。


「これは……」


 女の先生が目を見開いている。


「アリス、流石ですね~。マルティネス様に推薦状を書いて貰うだけはあります。水晶が輝いていますよ! フフフ」


 フランチェ先生の言葉を聞くと、私の魔力は多かったのかな?


 これで試験は終わりらしく、合否の通知は来週送りますと言われた。エリオット様とロペス様から試験は実技だけだって聞いていたけど、思っていたより早く終わった。


「テオ~、終わったよ」

「おう! アリス、どうだった?」

「う~ん、それがね……」


 帰りながらテオに、的に魔法を撃つ試験で、試験官の先生が自分の手をナイフで切って回復魔法をかけさせたと話した。


「その試験官は、変なヤツだな~」

「でしょう~? びっくりしたよ。結局、風魔法を使わなかったしね。そう言えば、試験官の先生が杖なしで、って言ったの。テオ、杖って何?」

「ああ、魔法を安定させたり、威力を増幅させたりする武器だ。学園に入って必要だと言われたら買いにいこうか」


 冒険者の魔法使いは、その杖で魔物を殴ったりするそうです。杖は、その性能によって値段の桁が違い、人が作る杖と魔物が落とす杖があるんだって。


「ふ~ん。そんなのがあるんだ」


 帰り道、テオと広場にある屋台に行ってお昼を食べた。


「アリス、学園までの道を覚えたか?」

「大通りに面しているから道に迷うことはないよ。それに、まだ試験に合格したか分からないしね」

「アリスが受からないなら、誰が受かるんだ?」

「テオ……」


 親バカだよね~。今日、凄い魔法を撃つ子がいっぱいいたよ。


 ◇◇◇

 翌週、試験の通知が来て、テオの言う通り合格だったので、4の月から学園に通うことになった。そんなに乗り気じゃなかったけど、合格って言われたら嬉しいな。ふふ。通知の紙には、入学の手続きと制服の申し込みを3の月中に済ませるようにと書いてあった。


「アリス、入学の手続きに行かないとな」

「うん。制服も買わないとね」


 ◇◇◇

 数日後、テオと一緒に<リッヒ王国学園>へ入学の手続きに行き、指定された教室に行くと制服が並べてあった。そこにいた身なりの良い人……貴族専用の服屋さんかな? 身体のサイズを測ってもらう。


 学園の制服は、男の子は白いシャツに紺色のジャケットとズボン。女の子は、白いシャツに丸首・袖なしの長いワンピースと紺色のジャケット。魔術科はマントもいるそうです。


 制服の値段が書かれている紙を見ると、えっと~、制服とマントで合計は……うわっ、金貨4枚を超える。高い! さすが貴族が通う学園、特注の制服なんて金貨30枚以上する……支払いは事務所でと書かれている。


「こちらの制服、見た目は同じですが、生地にジャイアントスパイダーの糸が使われています」


「おっ、制服にジャイアントスパイダーの糸を使っているのか。贅沢だな~」

「……ソウデスカ」


「ジャイアントスパイダーをご存じとは恐れ入ります。フフ、こちらは……」


 ダンジョンの下層にいるクモの魔物が落とす糸で、耐久性がよく……って、笑顔で庶民に勧めないでください。そんな高い制服を買えるわけがない……テオ、汚したら怒られるから触らない方がいいよ。


 少し大きめのの制服とマントを注文した。制服が汚れたら、浄化魔法『クリーン』をかければいいから1着あれば十分よ。


 1年生になったら、ひもみたいなリボンも買わないといけないそうです。学年で胸元のリボンの色が決まっていて、3年は赤・2年青・1年黄・年少科はなし、普通科はリボンの幅が広いの。


 そうか、制服で見分けられるのね。騎士科は制服だけ、魔術科は制服+マント、普通科は制服+幅広のリボンで、リボンの色で学年が分かるんだ。



 その後、学費と制服の支払いに玄関ホール横にある事務所へ行き、事務の人に試験の合格通知を見せた。


「アリスさんは、学費免除になっております」


「「えっ?」」


 テオと顔を見合わせる。


「通知書のここに、赤字で『特』に〇と書いてありますよね。年少科に通われる貴族でない方は、特待生の扱いになりますので学費は免除です。それと、制服と寮の使用料も無料になります」


「貴族でない方って、庶民は無料なのか……」

「えっ……制服も?」


 また、テオと顔を見合わせた。魔力の多い庶民は特待生扱いで、〇が付くのは『回復魔法』か『聖魔法』を使える生徒の印、どちらかの魔法が使えるだけで学園に入ることが出来るそうです。


『魔力の強い庶民の子供を保護する為』


 本当に、保護の為の学園生活なんだ。制服2着にすれば良かったな~。あぁ、あの服屋さんは、庶民は無料だから特注の制服を勧めてきたのか……先に言ってよ。


「テオ、無料だって……」

「ああ、エリオット様の言う通りだったな。まあ、アリスの年で回復魔法を使える者はほとんどいないからな~」


 回復魔法のスキルを持っている人は少なくて、ほとんどの人が、魔物が出す『スキル書』で覚えるそうです。『スキル書』を売っている専門の店があって、身分証があれば誰でも買えるんだって。


 テオが言うには、回復魔法を覚えたくても覚えられない人が多くて、10人に1人くらいしか覚えられないんだって。


「何か、タダで勉強させてあげるから、勉強をがんばりなさいって言われた気がする……」

「ハハハ! そうだな。だがアリス、タダでも寮はダメだからな」


 テオが確認するように言うから、にっこり答える。


「うん。寮に入る気は無いよ。店から通うからね」

「ああ。アリスがいないと寂しいからな」


 ふふ、テオが寂しいだって。

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