第13話 お茶コーナー

 ◇◇

 火の曜日、今日からお茶コーナーを始めます。テオはお茶コーナーの様子を聞きたいから、夜には帰って来ると言って出かけた。


 さあ! 開店の準備をしよう。


 バッグに買い置きしている丸パンを使って、目玉焼きとチーズのサンドパンとピリ辛ソースのオークハムパンの2種類を作った。赤字にならないように、考えながら作るのが面倒だな……10個ずつ作ったけど多いかな? バッグに入れておけば悪くならないから良いか。


 お店を開けて常連のお客さんが来ると、お茶のコーナーを始めたのかと果実水を飲んでくれた。果実水は、レモンの果実水と季節のフルーツで作った果実水の2種類です。


 近所のナタリーさんも、自家製ポーションを買いに来てくれたついでに果実水を飲んでくれた。


「アリス、美味しかったよ。目玉焼きのサンドパンをお昼用にもらって帰るから、1つ包んでおくれ」

「はい! ナタリーさん、ありがとうございます」


 ふふ、お世辞でも「美味しい」って言われたら嬉しいな。ニコニコしてしまう。



 お昼頃、ロペス様がお店の様子を見に来た。


「えっ、アリスが作ったパンが食べられるの?」


「はい、今日から数量限定で出すことにしたんです」


 ロペス様はお茶コーナーに座って、目玉焼きとチーズのサンドパンとピリ辛ソースのオークハムパンを注文してくれた。


「うん、美味しい……。アリス、明日も来るからね」


「はい! ロペス様、ありがとうございます」


 あれ? 明日は交代でアルバート様が見回りに来るんじゃ……ロペス様は、お客さんとして来てくれるのかな? 明日も同じメニューなんだけど、日替わりも作った方がいいのかな?


 ロペス様は、「数量限定なら、伝えるのはアルバート様だけだね……」と小声で言いながら帰っていった。


 その後、ロペス様から聞いたとアルバート様も来てくれて、2種類のサンドパンとレモンの果実水を注文して、ペロッと平らげて帰っていった。ふふ、ありがとうございます。


 テーブルを片付けていると、ドアの呼び鈴が鳴った。


「いらっしゃいませ~」


 振り向くと高級な黒のローブを着た白髪交じりの……あっ、偉いおじいちゃんが来た。


「うむ。アリス、ポーション1本と、先日の旨いお茶をご馳走してくれぬか?」


「はい、こちらの席へどうぞ~。お茶をいれてきますね」


 おじいちゃんをカウンター横のテーブルに案内した後、台所でお茶をいれて、袋に入れた自家製ポーションを持って行く。


「アリス、パンを売ることにしたのか?」


「はい、数量限定で売ることにしました」


「ほお~、2種類あるのか。では、それも両方包んでもらおうかのぉ。ズズズ……」


 おじいちゃんが、音を立てて美味しそうにお茶を飲んでいる。ふふ、かわいいと思ったら失礼かな。


「ありがとうございます。用意しますね」


 おじいちゃんはお茶を飲み終えると、自家製ポーションと袋に入れたサンドパンをバッグに入れて「うむ。アリス、来週も来るからな」と、嬉しそうに帰って行った。


 その後も、ナタリーさんから聞いたと、近所の人がサンドパンを買いに来てくれた。ありがたいな~。おかげで、店を閉める前にサンドパンは売り切れました。ふふ。


 ◇

 夜、台所で晩ご飯を作っていると、テオが帰って来た……店の横を通って裏手にある勝手口に向かっている。最近、テオの気配が分かるようになったのよね~。これも何かの魔法なのかな?


「テオ、おかえり~」

「おう! アリス、お茶コーナーはどうだった?」


 テオに、サンドパンは全部売れたと伝えたら、


「アリス、明日は倍作っても足りないかも知れないぞ?」

「えっ……、そんなに売れるかな~?」

「アリス、ナタリーさん一人の口コミで売り切れたんだから、明日はその倍の人が来ると思ってもいいぞ」

「テオ、怖いことを言わないで……」


 サンドパンを20個作るのも時間が掛かるんだよ!


 ◇◇

 翌朝早く、テオは2~3日で戻ると言ってダンジョンへ向かった。私は市場のあるパン屋に行く。朝早く行くと出来立てのパンが売っているから、いつも多めに買ってアイテムバッグに入れておくの。


「アリス、今日は沢山買ってくれるんだね~」


 パン屋のおばちゃんが声をかけてくれる。「昨日から、この店のパンを使って具材をはさんだサンドパンを作って売っているの」って言ったら、おまけしてくれた。たくさん売っておくれだって。ふふ。


 お店に戻って、目玉焼きとチーズのパンとピリ辛ソースのオークハムパンを作る。今日から日替わりも1種類作ることにした。コカトリス肉を炒めて、特製のソースをかけたサンドパン。この特製のソースは果物で甘みを付けているの。コカトリス肉は値段が高いので、1つ銅貨6枚で売ろう。


 2種類のパンは10個ずつ、日替わりも10個用意した。はぁ~、疲れたよ。焼いたり切ったりするのは魔法でサッと出来るけど、パンに挟むのは1個ずつ手作業だから時間がかかる……これじゃぁ、お店を開けるのに余裕がないな。朝じゃなくて、お店を閉めた後に作ってバッグに入れておこうかな。


 9時にお店を開けると、すぐにナタリーさんが入って来た。


「アリス、おはよう」

「ナタリーさん、おはようございます」

「昨日の目玉焼きパン、美味しかったよ! 今日はオークハムのパンを買いに来たんだよ」

「うれしい~。ナタリーさん、ありがとうございます!」


 その後も、昨日買って美味しかったと、お店で食べてくれる人や持ち帰るお客さんが来てくれた。薬より売れている……。


 ガチャ、チリンチリン~


「こんにちは、アリス」

「アリス、まだ売り切れていないよね? あっ、今日は日替わりがあるんだ。コカ肉のサンドパンだって! これは食べないと……」


 お昼前に、アルバート様とロペス様が来てくれた。


「アルバート様、ロペス様、いらっしゃいませ~」


 二人は、日替わりのコカ肉と目玉焼きのサンドパンを食べてくれた。その後もサンドパンが売れて、昼すぎに完売した……テオの言う通り、口コミってすごいね。


 そんな日が続いて、アルバート様たちの見回り期間にも、何事もなかったので警備は終わったけど、2人が毎日のように食べに来てくれるから、今までと変わらない気もするな。ふふ。

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