第12話 偉いおじいちゃん

 店を閉めて、今日はこれから市場に行くつもり。夕方になると、安くなる肉や野菜があるから、まとめ買いしてバッグに入れておくの。ここに入れておけば、傷まないから本当に便利なのよ。ふふ。


 ◇

 市場へ行く途中、壁にもたれて苦しそうにしている人がいた。


 金糸を使った高級そうな黒いローブを着ていて、ほとんど白い髪を後ろに撫でつけて……あれ? 白いあご髭があって、ちょっと怖そうな……見たことがある。この前、ポーションを買ってくれたおじいちゃんだ。


「あの~、大丈夫ですか? 誰か呼んで来ましょうか?」


「いや、大丈夫じゃ……。この先の薬屋のポーションを飲めば、楽になる……」


 あっ、ポーションの効果が切れてしまったのか。額に汗を浮かべて、目をギュッと閉じて眉間にしわを寄せている……辛そうだな。


 ポーションを持っていますよと言うと、おじいちゃんも持っているけど、この先にある薬屋の自家製ポーションがいいそうです。今飲んだら楽になるのに……。


「じゃぁ、その薬屋まで付き添いますね。私の肩に手を置いて下さい」


「あぁ……お嬢さん、すまんな」


 おじいちゃんが目を少し開けて、私の肩に手を置いた。私はお祖父ちゃんの背中に手を回して歩き出す。


 おじいちゃんに道を聞きながら進んで行くと、『テオの薬屋』の前で止まった。薬屋なんてあちこちにあるから、うちの店だと思わなかったよ。


「ここじゃ……むむむ。もう店が閉まっているではないか……」


「はい。早めに閉める日もありますけど、『テオの薬屋』は午後の3時には閉まるんです。今開けますから、ちょっと待ってくださいね」


「なんと! お前さんは、店にいたお嬢さんではないか……」


 私の顔を見て驚いているおじいちゃんに、にっこりと笑って、店の中へ入ってもらった。


「前回買ってもらったのは、自家製ポーションでしたよね?」


「うむ……」


 椅子に座ってもらって、カウンター奥の棚から自家製ポーションを取って来た。おじいちゃんにポーションを渡すと、金貨を1枚渡される。エリオット様もだけど、お金持ちのお客様は空瓶を持って来てくれないのよね~。


「ああ、すまんのぉ。今、飲ませて貰う。ゴクゴク……」


「はい。金貨1枚、お預かりしますね」


 お釣を取りにカウンターへ行き、台所でお茶をいれて戻ってきた。


「ここのポーションは、飲むと即座に効果が出るのぉ。苦みもないし良いポーションじゃ」


「ふふ、ありがとうございます。お茶をどうぞ~」


「おお、すまんな」


 おじいちゃんに、お釣りを渡してお茶を出した。汗をかいていたからね……お茶に使う水に、回復魔法と聖魔法をかけているからスッキリしますよ。いつも、ダンジョンから帰って来たテオにいれているお茶です。


 おじいちゃんは、腰の痛みをポーションで消しているそうです。今まで飲んでいたポーションより、うちの自家製ポーションの効き目が長いので、予備を買おうと思っていたけど忙しくて買いに来られなくて、出先で痛みが出たので慌てて買いに来たそう。


 いつも飲んでいるポーションなら、痛みが出てくる日を予想できるけど、初めて飲むポーションは、効果が何日続くか分からないもんね。


「あそこで、お嬢さんに声を掛けてもらって助かったわい。手持ちにポーションは持っているんじゃが、ここのポーションは苦味がないからのぉ」


 どうせ飲むなら、ここのポーションが良いと言ってくれる。そう言えば、私は飲んだことがないけど、テオがダンジョン産のポーションは『マズイ』って話していたな。


 お嬢さんと呼ばれるのは恥ずかしくて、名前はアリスだと言うと「フォフォ、可愛い名前じゃな」と言ってくれた。おじいちゃんの顔色はすっかり良くなって、お茶を美味しそうに飲んでいる。


「ほお~、このお茶は……旨いのお」


 ズズズ――


「アリス、予備にポーションを1本もらって行こうかの」


「はい。直ぐに用意しますね」


 カウンターで紙袋にポーションを入れていると、「アリス、次の火の曜日にポーションを買いに来る。その時に、この旨いお茶を1杯ご馳走してくれぬか?」と言われた。


「はい、良いですよ。お待ちしています」


 ◇

 夜、薬草取りから帰って来たテオに、偉いおじいちゃんの話をしたら、


「アリス、それなら店の中を半分お茶のスペースにしたらどうだ? そしたら、その爺さんもゆっくり出来るだろ」


「テオ、それは良いね! 果実水とお茶をおこうかな」


 早速、テオと店内の模様替えをする。薬を置いていた棚を半分にして、壁側に今ある4人掛けと2人掛けのテーブルセットを置く。テオと、もう1つ、2人掛けか4人掛けのテーブルセットを置こうかという話になって、なんだか楽しくなってきた~。


「アリス。明日、店を閉めた後、テーブルを買いに行こうか」

「うん!」


 買う物を紙に書き出しておこう……テーブルセットと果実水を入れる大きなビン、後はコップでいいかな。


「テオ、果実水だけじゃなく食べる物も出そうかな?」

「アリス、薬店の片手間にするんだから、品数は少なくしろよ」

「分かった~」


 そうか、薬を買いに来るお客さんに迷惑にならないようにしないとね。簡単に手早く出せる食べ物か……。


「テオ、サンドパンにしようかな? バッグに入れていたら痛まないから、朝に作り置きして売り切れたら終わりにするの」

「それは良いな! いちいち作ると時間が掛かるからな」


 テオと相談してメニューが決まった。目玉焼きとチーズのサンドパンと、ピリ辛ソースのオークハムのサンドパンの2種類。飲み物は果実水とお茶。


「アリス、後はいくらで売るかだな」


 そうなのよね~。屋台のオーク肉の串焼きは、だいたい銅貨3枚~5枚で売っている。テオは、私が作る料理は美味しいから銀貨1枚でも良いぞって言うけど、それは高すぎるよ。


 薬屋の中にあるお茶コーナーなので、良心的な値段にしよう。サンドパンは銅貨4枚か5枚で、果実水は銅貨2枚にする。お茶は銅貨1枚にして、自家製ポーションを買ってくれたお客さんにはお茶をサービスで出そうかな~。


「アリス、安すぎるぞ……」

「テオ、ちゃんと利益が出るように計算するよ~」


 お茶コーナーは、来週の火の曜日から始めることにした。それまでにテーブルセットとお皿やコップを用意しないとね。


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