第49話 遠征⑥ 干し肉を作る
昨日の晩、テオはコッソリお酒を飲もうとしたら、ハロルドさんに見つかった。
「良い香りがしますが……テオさん、それ……水じゃないですよね?」
「ハハハ、
「テオさん……遠征中なので控えて下さい」
「スミマセン……」
みんな我慢しているんだからテオが悪い。怒られても仕方ないよね。
そんなことより、昨日食べたワイバーンの肉は美味しかった~! 焼いた肉に塩をかけて……ちょっと癖のある味だったけど柔らかくて、<トロム>で食べたミノタウロスの肉より美味しかったよ!
ハロルドさんから、食べきれないワイバーンの肉は、<トロム>の街の冒険者ギルドに売ると聞いた。腐ったら勿体ないけど、私のバッグに入れておけばいつでも美味しいワイバーンの肉が食べられるのに……でも、そうすると「あのアイテムバッグは何だと」怪しまれる。そこで考えたの!
――ワイバーンの肉で干し肉を作って誤魔化そう――
干し肉の作り方は知っているからね。時々、テオに頼まれてオーク肉で干し肉を作っているの。テオがダンジョンに入って、ゆっくり食事を取れない時に齧(かじ)るんだって。
テオに、ワイバーンの肉を一塊買って欲しいとおねだりした。肉の半分は生肉のままバッグに入れて、残りの肉で干し肉を作って誤魔化すんだと説明したら、テオも大賛成してくれた。良いアイデアだよね。ふふ。
その後、テオがハロルドさんに肉を一塊買い取りたいと言うと、レオおじいちゃんが「わしの茶代だ」と言って分けてくれた。無料だよ! 嬉しくて、お茶のおかわりを言われていないのに作って持って行ったよ~。ふふ。
「レオおじいちゃん、ありがとうございます!」
「フォフォフォ、喜ぶアリスの顔が見られて嬉しいの~。ズズ……」
「……」
リアム様の呆れた顔は見ないようにしました。
なので、今日は朝から干し肉作り。普通に作ったら日数が掛かってしまうから、魔法で手早く作る。
周りの視線が気になるからテントの中で、
①肉に浄化魔法を掛けて、肉を適当な大きさにカットする。
②塩をもみ込み、調味料で味付けをする。味が染み込むように更にモミモミ……うっ、テントの中が香辛料の匂いがきつくなって来たので入口を開けよう。
③風魔法で水分を飛ばして乾燥させる。
④弱~い火魔法でゆっくり肉を焼く。ゆっくり……これが、時間かかるの。
⑤出来上がった干し肉に回復魔法を掛ける……何となく。
1つ味見したけど、美味しい~。これは癖になりそう。夕食の時に、ワイバーンの干し肉をテオとハロルドさんに味見してもらった。
「おっ、アリス、もう出来たのか? うおっ! これがワイバーンの干し肉か!? う~む……味が濃くなって、旨いな! 酒が欲しい……」
テオ、またハロルドさんに怒られるよ。
「うわっ、ワイバーンの干し肉……美味しいですね。これを食べたら、普通の干し肉が食べられなくなりそうだ……」
ふふ、2人に好評だったので、お茶を飲みに来たレオおじいちゃんとリアム様にも味見してもらった。
「レオおじいちゃんにもらったワイバーンの肉で、干し肉を作ったんです。1ついかがですか? リアム様もどうぞ」
「アリスが干し肉を作ったのか? どれ、一つ味見をさせてもらおうか……う~む。旨いではないか!」
ふふ、良かった。少し癖のあるワイバーンの肉が、更に癖が強くなったけど、噛めば噛むほどジュワ~っと肉の味が広がるの。オーク肉で作る干し肉より美味しい……比べるのが間違っているのかも。
「リアム……ワイバーンの肉は売らずに、アリスに干し肉にしてもらえば良かったのぉ」
「そうですね。回復効果のあるワイバーンの干し肉なんて、売っていませんからね。お茶だけではなく、干し肉に回復効果を付けるなんて予想外です……」
リアム様がそう言って私を見る……干し肉を作る時に回復魔法を使ったのがバレてる。お茶も……う~ん、私が回復魔法を使えることは知られているから、気にしなくてもいいよね。テオも何も言わないし。
レオおじいちゃんにもらった肉なので、ワイバーンの干し肉を袋に入れて、どうぞとレオおじいちゃんとリアム様に渡した。テオ、ワイバーンの干し肉はまだあるから、残念そうに干し肉を見つめないで……。
レオおじいちゃんとリアム様が言うには、数日様子を見て、他にワイバーンが現れなければ討伐完了として<王都リッヒ>に戻るそうです。
その日から数日、見回りの騎士様が、狼とコボルトを倒しただけでワイバーンは現れなかった。
◇◇◇
今日、<トロム>の街へ行って、領主に討伐完了の報告をしてから<王都リッヒ>に帰ることになった。テントの片付けをして出発すると、「ありがとうございます」って声が聞こえる。昨日、村に討伐完了の報告をしたらしく、村人が見送りに来ていた。
牧場を出て東へ、<トロム>の街へと続く道を討伐部隊が進む。道と行っても草原の中にある、草が生えていないだけの踏み固められただけの道。
のんびりと、馬車に揺られて窓から遠くに見える北山を眺めていたら、黒い点が見えた。ん、あれは……ワイバーンかな?
「ねえ、テオ。あっちの空に黒い点があるよ」
見つけた黒い点を指差すと、テオがこっちに寄って窓の外を見た。
「どれ、あれか……ワイバーンかもな。ハロルドさんに知らせよう」
テオもワイバーンだと思ったみたいで、御者側にある小窓を開けてハロルドさんに黒い点があることを報告した。
ハロルドさんも黒い点を見て、前を歩く宮廷魔術師に知らせて、そこから第二騎士団へと連絡が行き、討伐部隊は足を止めた。直ぐに、ベテランと若手の2人の騎士様を乗せた馬が、黒い点に向かって走って行く。
「テオさん、牧場を襲ったワイバーンと商人の馬車を襲っていたワイバーンは、別の個体だったのかも知れませんね」
「可能性はありますね。しかし、他にもはぐれのワイバーンがいるとは……」
ハロルドさんとテオが小窓越しに話をしていると、偵察に出ていた騎士様達が慌てた様子で戻って来る。
『たっ、大変です!! ドッ、ドッ、ドラゴンです!!』
『副隊長!! あれはドラゴンです!』
えっ? 聞こえてきた言葉に耳を疑った。ドラゴンなんて、<大森林>の奥にいると言われている魔物で、どこかの国の言い伝えや物語に出て来る魔物だよ……。
「何! ドラゴンだと!? 全員、南の森から迂回して<トロム>に退却! 見つかる前に逃げるぞ!!」
ギーレン副隊長の叫ぶ声が聞こえた。部隊が一斉に方向を変えて、南に向かって走り出す。
「テオさん、全速力で走ります! アリス、ぶつけないようにしっかりと摑まって!」
「分かった!」
「はい!」
ハロルドさんに言われ、窓枠と椅子をつかんだ。南に? 遠くに森が見えるけど……テオが難しい顔をしてつぶやく。
「<トロム>の街に、ドラゴンを倒すだけの戦力がないんだな……あれば、知らせを出してこのまま進むはずだ」
テオが、このまま<トロム>の街を目指して、途中でドラゴンに見つかってしまったら、街の人たちを巻き込んでしまうから遠回りするんだと言う。
もしも、ドラゴンに見つかったら追いつかれる? 馬なら……馬車では無理な気がする。来る時、ワイバーンに追われていた馬車は逃げきれそうになかったから。
馬車が勢いよく走り出して直ぐに、レオおじいちゃんとリアム様の馬が馬車の横に並び、偵察の騎士様達が馬車の後ろについた。
「リアム、ベテランを連れて来るべきじゃったのぉ」
「マルティネス様、それを言うならアリスを連れて来るべきではありませんでしたね」
「ムウ……アリスはわしが守る」
レオおじいちゃんが、「わしとリアムでいけそうな気がするんじゃが?」と言うと「マルティネス様、ドラゴンを舐めていますね。私が読んだ文献によると、ドラゴンは個体によってステータスにかなりの差があるようなので、持っているマジックポーションでMPが足りるかどうか……」と聞こえて来た。
マジックポーション? それなら、コツコツ作ったのがバッグに10個だけある。
『グガァァー!』
えっ? ドラゴンの咆哮が聞こえた。
窓から後ろを見ると、偵察の騎士様の後ろから、黒い点がさっきより大きくなって、翼を広げて近付いてくるのが見えた。
偵察の騎士様……見つかっていたのね。
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