第50話 遠征⑦ ドラゴン
あっという間にドラゴンの姿が分かるようになった。森の中に入れば、隠れることも出来るだろうけど……まだ遠いな。
「テオ、追いつかれそう……」
「ああ、逃げきれんな。アリス、戦闘になるぞ」
「うん……」
斜め前を走っていた第二騎士団が向きを変えて止まり、ギーレン副隊長が叫んだ。
『ハロルド! 森を抜けて<トロム>の街へ行け! 王都へ知らせを出せ!』
『ハッ!』
えっ! 私達だけ逃げろって言うの?
「アリス、<トロム>の街へ戻ったら、旨い茶を淹れてくれ」
馬車に並んで走っていたレオおじいちゃんが、微笑んで声をかけてきた。
「えっ、レオおじいちゃん?」
「ではマルティネス様、私が先手でドラゴンの注意を惹きます」
「うむ。その後、わしがリアムからタゲを取ろうかの。フォフォ」
「フッ、マルティネス様、そう簡単に私からドラゴンを引き剝がせるとは思わないでください」
初めて……リアム様が微笑むのを見た。
「ぬかしおって、リアムめ。フン! 一瞬で引き剥がしてやるわ!」
「マルティネス様……分かっているとは思いますが、開幕から強力な魔法はダメですからね。フフ」
「リアム、誰に言っておる。フォフォフォ」
これからドラゴンと戦うのに楽しそうに……。
レオおじいちゃんとリアム様が止まり、馬から降りた。窓から顔を出して見ると、他の宮廷魔術師達が、レオおじいちゃんの所に集まって馬から降りている。
「ひよっこ共は、リアムが魔法を撃った後にドラゴンを削れ! MPが無くなったら森から<トロム>へ行け! 命令じゃ、アリスの護衛を頼むぞ!」
「「「えっ……」」」
「「マルティネス団長……「承知しました……」」」
若い宮廷魔術師様たちも逃がすんだ……。
ドラゴンの姿がハッキリと見えて来た……大きい。リアム様が杖を掲げて詠唱を始めた。
シュワッ! シュー、ズバァー!!
『グギャァァー!!』
リアム様の風魔法が、ドラゴンの右側の翼に命中した。
馬車がレオおじいちゃん達からどんどん離れて行く……テオと目が合った。
「アリス……」
テオが気まずそうな顔をする。このまま何もせずに逃げて、<トロム>の街で最悪の知らせを聞いたら……後悔するよね。テオも馬車から降りて一緒に戦いたいんでしょ?
「俺一人が加わってもあまり変わらないが、降りて戦う。アリス、お前はこのまま逃げろ」
「私だけ逃げるのはイヤだ! テオと一緒に戦うからね」
「そう言うと思った。あ~、サユリに怒られるな……アリスを連れて逃げろって……」
そんなのは知らない。私だけ逃げて、テオがダンジョンの時みたいに傷だらけになったら……もう二度と、テオのあんな姿は見たくない。
「テオ、私もレオおじいちゃんとここでお別れはイヤだよ。バッグにあるポーションを配れるし、回復魔法や風魔法だって撃てる!」
自分が使える魔法で、どれが1番強いか分かれば良いのに。ステータスを知っていれば……
————————————
名前 アリス
年齢 11歳
HP 25/25
MP 634/634
攻撃力 E
防御力 D
速度 C
知力 A
幸運 B
スキル・生活魔法 ・鑑定B ・料理B ・身体強化…………
————————————
えっ! 目の前に私の名前と数字が浮かんだ。半透明の四角い窓に文字が並んでいる……これは授業で習ったステータスの表示だ。
まさか、こんな時に自分のステータスが見えるなんて……スキルに『鑑定』を持っているから? ステータスを知りたいと思ったから? 使える魔法が分かったのは有難い。HPは普通の子供並みだけど、MPはかなりある……この属性魔法のランクならダメージを与えられるかも!
テオが、下手に属性魔法を撃つと宮廷魔術師の邪魔になるから、私には回復魔法を頼むと言う。
「そっか、分かった。回復魔法は任せて」
「じゃあ、馬車を降りよう。アリスは俺より前に出るなよ」
「うん。分かった」
じっくりステータスを見る余裕はないな。そう思った瞬間、ステータスの表示が消えた。凄いな。
テオが、ハロルドさんに馬車を停めるように頼むと「えっ!? テオさん、ダメですよ。ドラゴンの出現を王都に知らせないといけないですし、ギーレン副隊長の命令には逆らえません……」と言って馬車を止めてくれない。
「ハロルドさん、俺はこのまま逃げるなんで出来ない。アリスと馬車から飛び降りるので、ハロルドさんはそのまま<トロム>の街へ行ってドラゴンの報告をお願いします」
「そんな! テオさん、私だけ逃げるなんて出来ません。私はあなた方の護衛ですから……仕方ない、分かりました」
馬車が止まったので急いで降りると、ハロルドさんが真剣な顔をしてこっちに来た。
「テオさん、アリス、ありがとう……私がお二人を守ります」
少し低い声でハロルドさんが頭を下げる。あっ、ハロルドさんも同じ気持ちだったんだ。
レオおじいちゃん達を見ると、その向こうの空にドラゴンが浮かんでいた。離れた場所からでも、その姿がハッキリ分かる――ワイバーンより更に大きくて、背中に翼が生えている。褐色の堅そうな鱗に覆われていて、手足に鋭い爪が付いている。目がギラギラしていて……怖い顔だ。
「デカいな……ワイバーンの二回り以上はあるんじゃないか?」
「うん……大きいね。テオ、あれもワイバーンみたいに地面に落として戦うの?」
「だろうな……」
第二騎士団がリアム様をかばうように前に出て、ドラゴンに剣を向けている。A班とB班の宮廷魔術師達が、右の翼を狙って魔法を撃っているけど、ドラゴンには余りダメージがないみたい……翼をゆっくりと羽ばたかせてリアム様を睨んでいるように見える。
ドラゴンがリアム様に向かって襲い掛かろうとした時、鋭く渦を巻く槍みたいな風魔法がドラゴンの右の翼に命中した。
『ギャアァァー!』
あっ、ドラゴンのバランスが一瞬だけ崩れた。翼にダメージはあったみたいだけど、穴が開くことは無く、ドラゴンは直ぐに体勢を整えて魔法を撃った宮廷魔術師に顔を向けた。
銀色の髪……あれは、ルーカス様ね。
「バカ者! 誰じゃ、リアムより強い魔法を撃ちよってからに!」
レオおじいちゃんが杖を掲げて、詠唱を始めた。
『偉大なる……』
「マルティネス様! その魔法は!」
あの詠唱は、競技場で見せてくれた最上位魔法『トルネード』だ。リアム様も慌てて魔法の詠唱を始めた。
『偉大なる風よ、鋭い刃となり……』
ビュ――、ゴオッ――! ゴゴゴオオッ――!!
ビュ――、ゴオッ――! ゴゴオッ――!!
レオおじいちゃんとリアム様の風魔法が続けて撃たれ、ドラゴンの右の翼に大きな穴を開けた。
『ギャァァー!!』
ドラゴンはバランスを崩して地面へと落ちて来た。騎士団が囲んだけど、ドラゴンが飛ぼうと翼を大きく羽ばたかせるので、転がるように
「風圧だけでダメージを喰らうのか……」
「テオ、こまめにポーションを飲んでね」
「ああ、分かった」
弾かれた騎士様が、ポーションを飲んでドラゴンへと攻撃しに戻る。離れた所にいる宮廷魔術師もポーションと深緑色だからマジックポーションかな? を飲んで、ドラゴンに魔法を撃っている。
ドラゴンは、左右に別れたレオおじいちゃんとリアム様を交互に見ながら、攻撃を仕掛ける騎士様達を払い除けようと鋭い爪を持つ手を振り回す。それを騎士様達が上手く避けるので、ドラゴンが苛立っているのがわかる。
ドラゴンが動きを止めて息を吸い込むと、左右から口元を目掛けて魔法が飛んで来た。
「ハハッ、レオ様もリアム殿も流石だな! ドラゴンのブレスを止めるとは! ハロルドさん、参戦するぞ!」
「ええ、私も護衛として付いて行きます。テオさん、くれぐれも気を付けて……」
「ああ、俺には『女神様』がいるから大丈夫だ。アリス、離れていろよ。絶対に前には来るな!」
「うん……」
また、そんなことを……女神にはなれないけど、回復魔法を頑張る!
「女神様? あぁ、アリスのことですね。フフ、それならアリスのそばを離れない方が……」
話の途中でテオが、ドラゴンへと突っ込んで行く。
「あっ! テオさん、待ってください!」
ハロルドさんが慌ててテオを追いかけて行った。私は後ろから回復魔法を飛ばそう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます