第48話 遠征⑤ ワイバーン

不味まずいな。仲間を呼んだみたいだ」


 テオが北の空をジッと見ている。その視線の先を見ると、黒い点が……2つ?


「えっ! 仲間のワイバーンが来たの?」

「ああ、助けを呼んだのかもな。こいつの親かも知れん」


 テオ以外にも、手を止めて北の空を見る騎士様がいる。


「ギーレン副隊長! 新手のワイバーンを2体確認しました!」


 騎士様の声に、みんなの動きが停まった。


「何だと!? 全員、戦闘態勢を取れ!」

「A班! 前に出て、右のワイバーンを落とせ!」


 直ぐに、ギーレン副隊長とリアム様の声が響いた。


「「「ハッ!」」」「「「はい!」」」


 素早く、騎士団とA班が解体中のワイバーンの横を走り抜けて、北から飛んで来る2体のワイバーンを待ち構える。


「リアム、わしが左のをもらおうかの?」


 と言うレオおじいちゃんに、リアム様は「マルティネス様、暇だからと言って若手の仕事を取らないでください。経験を積ませる為に連れて来たのですから」と断って、直ぐにB班のリーダーに声を掛けた。


「ルーカス、連続で行けるな?」

「はい、勿論です。リアム様」


 B班リーダーのルーカス様が、余裕の表情で答えている。


「では、B班は左のワイバーンだ」

「「「はい!」」」


 B班は、騎士団の左側に少し離れて待機した。ここからは聞こえないけど、レオおじいちゃんが何かブツブツ言っている。


「(アリスにわしの魔法を見せたかったのに……リアムめ……)」


「お前達! 同時に2体のワイバーンだ! 気を抜くな!」

「「「ハッ!」」」


 補佐の騎士様も前に出て、B班の直ぐ後ろに待機した。


『ギャギャー!』『ギャー!』


 2体のワイバーンの姿がハッキリ見えると、A班の3人が前に走り出し、杖を掲げて魔法の詠唱を始めた。


「テオ、さっきのワイバーンより大きいね」

「ああ、2体ともデカいな」


 A班から撃たれた魔法は、見事に右のワイバーンの片翼に命中して穴を開けた。右のワイバーンは『ギャー!』っと、叫びながら地面に落ちたけど、左のワイバーンはそのままA班に向かって飛んで来る。


 補佐の騎士様と4人の騎士様がA班を守るようにワイバーンとの間に入り、残りの騎士様は落ちたワイバーンを仕留めようと一斉に走りだした。


シュワッ! シュー、ズバァー!


 B班のルーカス様がいつの間にか前に出ていて、A班に襲い掛かろうと向かって来る左のワイバーンを風魔法で攻撃したみたい。


『ギャー!!』


 怒った左のワイバーンがルーカス様へと向きを変え、ルーカス様は先に落ちて暴れているワイバーンから離れる為か、左・西側へと全速力で走り出した。


「あのB班のリーダー、上手く自分に注意を向けさせたな」

「一人でワイバーンに攻撃するなんて、怖くないのかな?」


 補佐の騎士様ともう1人の騎士様が、ルーカス様を標的にした左のワイバーンを追いかけ、他の騎士様は先に落ちたワイバーンに向かった……何で?


 ルーカス様が追いつかれそう……そう思った時、


 ボワッ! シュー、バアーン!!


『グギャー!!』


 残りのB班から、ルーカス様を追いかけるワイバーンに向けて火魔法が撃たれた。ワイバーンの左翼に炎が上がり、魔法を放った宮廷魔術師が斜め南……南西へと走り出す。


「凄い……命中したよ」

「ああ、さっきの風魔法より強い火魔法を撃ってタゲを取るとは……上手いな」

「テオ、タゲって?」

「ん~、ターゲット。攻撃される的だな」


 複数人から攻撃された魔物は、より強いダメージを与えた相手に向かって攻撃するそう。


「全部の魔物じゃないけどな。パーティーを組んで強い魔物と戦う時は、タゲを変えながら魔物を倒したりするんだ」


 へえ~、魔物の種類とパーティーメンバーによって、倒し方を変えるんだって。


 ワイバーンは少し向きを変え、火魔法を撃った魔術師を追いかけ始めると、左翼の炎が消えてしまった。どこからか声が聞こえると、2人の騎士様の追いかけるスピードが上がった。


ボワッ! シュー、ババアーン!!


 ワイバーンの後ろから魔法が飛んで来て、さっき炎が上がった左翼に命中して、また燃え上がった! 一瞬、視線を向けると、3人目の魔術師とルーカス様が杖を掲げている。


『ギャギャー!!』


シュワッ! シュー、ズババァー!!


 あっ、風魔法が……燃え上がったワイバーンの翼を切り裂いた! バランスを失ったワイバーンが地面に落ちて行く。そこへ、追いかけて来た2人の騎士様が攻撃を始めた。


「あの2人の騎士、相当場数を踏んでいるな。攻撃に無駄がない」

「ベテランの騎士様?」


 そう言えば、第二騎士団は半分が若手だと言っていたな。残りの半分はベテランの騎士様なのかもね。


 騎士様達の動きに目が離せない……地面に落ちたワイバーンが、足で踏みつけようとしたり、噛みつこうと暴れている。騎士様はそれをかわして交互に脚を攻撃し、B班も声を掛けながら魔法で攻撃している。


『グギャー!!』


 あっ、ワイバーンは立っていられず、完全に地面に胴体がついた。バサバサと翼と片足を使って立ち上がろうとするワイバーンに、騎士様達は首を狙って攻撃を始める。


「あっちの、1体目のワイバーンは手間取っていたが、こっちは楽勝だな」

「あっちってA班? テオ、両方見ていたの? 私、B班しか見てなかった……」


 補佐の騎士様達がワイバーンを仕留めた頃、1体目のワイバーンを仕留めた騎士様達が合流した。息を切らして、ボロボロとまでは言わないけど怪我をしている人もいるみたい。


「ギーレン副隊長、終了しました」


 補佐の騎士様がギーレン副隊長の所に戻って報告している。


「了解。負傷した者はポーションを飲んでおくように。他にもワイバーンが現れるかも知れないからな。それと、ワイバーンの処理を頼んだぞ」


「ハッ!」


 補佐の騎士様は頷き、ワイバーンの所へ向かった。


 3体のワイバーンを解体することになったので、テオと私も手伝う。テオは経験があるから解体に参加して、私は解体した素材や肉を補佐の騎士様の所まで運ぶ。


 ワイバーンの売れない部位・残骸は、穴を掘って燃やしてから埋めるそうです。ワイバーン3体の残骸を埋めるから、かなり大きな穴が必要で、土魔法を使える宮廷魔術師さんの出番でした。


 土魔法が使えない宮廷魔術師様はシャベルで穴を掘っている。シャベルをアイテムバッグに入れてあるんだ……私も買っておいた方が良いかな。


 火魔法で焼くのも大変そう。レオおじいちゃんなら一瞬で終わらせそうだけど、経験を積むためか、A班・B班総出でワイバーンの後処理をしている。


 ちなみに、回復魔法を使える宮廷魔術師さんもいるけど、戦闘時は攻撃魔法が最優先で、回復は各自ポーションを飲むように(回復魔法に使うMPが勿体ないらしい……)指導されているそうです。


 ワイバーンの素材は王都に持って帰るそうだけど、今回、氷魔法が使える宮廷魔術師様がいないので、持って帰れない肉はギルドに売るんだって。


「テオさん、ギーレン副隊長から、今夜はワイバーンの肉だと言われましたよ」


 えっ、私達もワイバーンの肉を食べられるの? やった~! ワイバーンの肉なんて初めて食べるよ。どんな味がするんだろう? ふふふ。


「大判振る舞いだな! 酒が飲めれば最高なんだが……」

「フフ、テオさん、遠征中なので我慢してください」

「ああ、ハロルドさん、分かっている……」


 テオ、アイテムバッグの中のお酒を出したらダメだよ。

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