第47話 遠征④ 牧場
翌朝、馬車に乗り込みワイバーンの被害が報告されている村の牧場へと向かった。その村は<トロム>の街から西にあるそうで、道中、押しつぶされた馬車の残骸を見かけた……ワイバーンに襲われたのかな?
日が暮れる前に村が見えて来た。村の北側に牧場が見える――柵で囲まれた牧場がいくつもあって、馬が放牧されている。あっ、豚もいる。あちこちに建物があって馬の世話をしている人がこっちを見ていた。
「広いね~」
「ああ、馬を飼育するには広い牧場が必要だからな」
豚は小屋の中だけでも飼育できるんだって。
「ねえ、テオ。家畜って、普通の魔物……ゴブリンとかに襲われたりしないの?」
「襲われるぞ。だから金は掛かるが、牧場に魔物除けの薬や魔道具を置いたりするんだ。牧場に現れた魔物を自分達で狩って、夜は魔道具や結界を張った厩舎小屋に家畜を入れると聞いたことがあるな」
「へえ~、牧場の人が魔物を狩るのね」
牧場で働く人のほとんどは、冒険者の経験があって、ある程度の魔物を倒せるんだって。魔物除けの魔道具は、良い物でランクCの魔物まで効果があって、魔法陣や結界石を使った結界は、ランクB位までの魔物を排除できるけど値段が高額らしい。
だから、牧場から冒険者ギルドに魔物討伐の依頼が出る時は、ランクB以上の魔物の討伐が多いと言う。
「今回のワイバーンはランクAの魔物になるから、ランクB以上のパーティー依頼になる。ランクBのパーティーで、ベテランの魔法使いが2人以上いるパーティーなんて少ないからな」
テオは、無理をしてワイバーン討伐の依頼を受けるより、<トロム>のダンジョンに入る方が稼げると言う。
討伐部隊は牧場を抜けて北側へ行き、私達の馬車はその手前の牧場近くで止まった。
「テオさん、今夜はここで野営をして、そのままここを拠点にするそうです」
「分かりました。ハロルドさん、俺とアリスは邪魔にならないように、馬車の近くにいますね」
今まで馬車の中で寝ていたけど、今回はここが拠点になるからテントを張ることになった。
テオは、魔物除けの結界石を四方に置いて、真ん中にテントを張りだした。この結界石は、テオが持っているアイテムで冒険者の必需品らしい。旅をする時やダンジョンの中で使うんだって。
テオを手伝っていると、横目に、遠征部隊の所に数人の村人が挨拶しているのが見えた。前に出て頭を下げている人が村長さんかな? その後ろにいる人達もギーレン副隊長とレオおじいちゃんに頭を下げている。
夕食後、レオおじいちゃんとリアム様がお茶を飲みに来て、明日から騎士様が偵察に出ると聞いた。
◇◇
『……!』
う~ん、テントの外で誰かが大声を出している……。もう起きる時間……? もう少し寝ていたいな……。
『ワイバーン襲来!!』
えっ……?
「全員! 戦闘配置に付けー!」
「B班、騎士団前で戦闘準備! A班、待機!」
ギーレン副隊長とリアム様の声で目が覚めた。テオが慌てて片手剣を掴んでいる。
「アリス起きろ! 外に出るぞ」
「うん……」
テントから出て周りを見ると、まだ薄暗い……北側の野営場の向こうに、討伐部隊が整列していた。
野営場の焚火近くにいたハロルドさんに手招きされ、ハロルドさんが北の空を指差した――高い山で見えにくいけど、黒い点が見える。あれがワイバーン……テオと私は、邪魔にならないように離れた所で見学させてもらう。
前列にB班のリーダー・ルーカス様を真ん中に3人の宮廷魔術師が並んで、第二騎士団が4人ずつ、B班の左右に分かれて待機している。その後ろに、リアム様と宮廷魔術師のA班。
レオおじいちゃんと、ギーレン副隊長と補佐の騎士様の3人は、少し後ろに立っている。
遠くに見える黒い点が、段々と大きくなって来た。
ヒヒーーン!!
ワイバーンの姿が見えて来ると、牧場の厩舎から数頭の馬の声が高く聞こえた。テオが「馬は賢いから、見えなくても魔物の気配が分かるんだ」と言う。
ワイバーンがハッキリと見えてきた……焦げ茶色のデコボコした皮膚に、手に翼が生えたような凄く大きなトカゲ。馬車を2台並べて上にも乗せた位大きい……尻尾の先まで入れたらもっとだよ。
B班の3人が杖を掲げて、ワイバーンに向けて魔法の詠唱を始めたみたい。
ボワ、ボワッ! シューー、ババーーン!!
『グアッ!?』
シュワッ! シューー、ズバァーー!!
放たれた火魔法がワイバーンの右の翼に命中し大きな炎が上がった。時間差で撃たれた風魔法が、炎が上がっている右の翼を2つに切り裂いた。
「凄い!」
「ああ、先に火魔法が2つ撃たれたが、ワイバーンの翼を真っ二つに切り裂くとは……あの風魔法の使い手はかなりの魔力持ちだな」
『ギャー!』
ワイバーンはバランスを崩して地面へと落ちて来た。同時に、第二騎士団が一斉にワイバーンを囲んで、暴れるワイバーンの攻撃をかわしながら止めを刺した。
『ギャーー!!』
ワイバーンは一際大きく空に向かって咆えて、その首を地面に落として動かなくなった。
あんなに大きなワイバーンを、あっという間に倒したよ! 直ぐに、ワイバーンの解体が始まった。
「テオ、凄かったね……」
「ああ、終わったな。小さめのワイバーンだったな」
「えっ、あれで小さいの?」
『……!』
ふと、何か……聞こえた気がする。
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