第46話 遠征③ 食堂で

 夜、ハロルドさんと3人で宿の食堂に行くと、普通のお客さんに紛れて、第二騎士団や宮廷魔術団の人達が既に食事を始めていた。


 ここまでの道中、休憩や野営の時は、レオおじいちゃんとリアム様が来るので他の人と話すこともなく、目が合うとこっちから頭を下げる程度だったな。


 3人で隅っこのテーブルに座ると、食堂の店員さんが来て人数を確認された。ハロルドさんが討伐部隊用の食事を頼むと、近くに座っていた宮廷魔術団の一人がテオに声を掛けて来た。


「失礼、私は宮廷魔術師のルーカスと言います。マルティネス団長とはどういうご関係ですか?」


 16か17歳位かな? 銀色の髪に青い目のイケメンで、B班のリーダーだって。A班の宮廷魔術団の人達は離れたテーブルにいる。


「ルーカス殿、俺はテオと言います。こっちはアリス」


 テオが私の頭に手を置いたので頭を下げた。


「<王都リッヒ>で小さな薬屋をしていて、マルティネス様にはいつもお世話になっています。今回、マルティネス様のご厚意で、ワイバーンの討伐を見学させてもらうことになりました」


「貴方が、専属の薬屋の方ですか……冒険者ではなく?」


 今回、討伐に参加する人達は、レオおじいちゃん専属の薬屋が同行すると通達を受けているそうです。ああ、テオは上級者が使う装備で、片手剣を下げているからベテランの冒険者にしか見えないからね。だから、気になったのか。


「今回、マルティネス団長が薬屋の同行を希望されたのが不思議で……しかも子供が一緒とは……」


 ですよね。薬やポーションを多めに持って行けばいいだけのことだし、私もどうして付いて来いと言われたのか……お茶しかないけど。


「えーっと、マルティネス様はアリスを可愛がってくれていまして……アリスは<リッヒ王国学園>の魔術科に通っていて、勉強になるだろうと同行させて頂くことになりました。邪魔にならないように気を付けますのでよろしくお願いします。あっ、ルーカス殿、ポーションは持ってきましたので必要でしたら言って下さい」


「学園に? アリスは保護対象の生徒で、マルティネス団長のお気に入りですか……なるほど。あぁ、テオ殿、ポーションやマジックポーションは十分に支給されているので大丈夫です」


 ルーカス様と他の宮廷魔術師の2人が、じっと私の顔を見るので下を向いた。「レオおじいちゃんが気に入っているのはお茶ですよ」と言いたい……言えないけど。


「アリス~! 食事の前にお茶を淹れてくれぬか」


 私を呼ぶ声に振り向くと、レオおじいちゃんとリアム様が食堂に入って来た。宮廷魔術師の人達が立ち上がり、レオおじいちゃんに頭を下げるのをリアム様が『必要ない』とばかりに手を振り、座って食事の続きをするように言っている。


「レオおじいちゃん、おかえりなさい」


 レオおじいちゃんとリアム様が広いテーブルに並んで座ると、そっちのテーブルに来るように手招きされた。


「レオ様、リアム様も食事はまだなんですか? 向こうで接待されると思っていましたが……」


 テオが声を掛けながらレオおじいちゃんの前に座り、私がレオおじいちゃんの横に座った。ハロルドさんは、少し遅れて私の前・テオの隣に座った。


「そうじゃ、夕飯も食べて行けと言われたが断わって帰って来たんじゃ。知らん奴と食べても美味しくないし、帰りが遅くなるのは嫌じゃからの」

「マルティネス様が、昼もアリスのお茶を飲めなかったと駄々をこねて……まあ、必要以上の接待も面倒ですから良いんですが」


 夕飯でお酒を勧められた後、泊まって行けと言われるのが普通らしく、「それだけで終われば良いのですけどね」とリアム様が言う。


「ああ、リアム様は独身でしたね……」


 テオが意味ありげに言う。どういう意味だろうと考えていたら、ハロルドさんから声が掛かった。


「アリス、マルティネス様にお茶を淹れるんだろう? 調理場を使わせてもらおうか」

「あっ、はい」


 ここでお茶を淹れることも出来るけど、周りにいる宮廷魔術師の人達や騎士様に見られながら魔法を使ってお茶を淹れるのは気が引ける。ハロルドさんと一緒に調理場まで行き、食堂のコップを借りて隅っこを使わせてもらった。


 レオおじいちゃんとリアム様、私達を合わせて5人分のお茶を淹れてテーブルに戻って来たら、第二騎士団のギーレン副隊長とその補佐らしき騎士さんがテーブルにいた。


「アリス、悪いがギーレン副隊長にもお茶を淹れてやってくれんか? ギーレン副隊長、今回だけ特別じゃぞ」


「えっ、はい……?」


 ギーレン副隊長が不思議そうな顔をしている。特別じゃないですよ。店で、誰でも銅貨1枚で飲めるお茶です。飲むと疲れが取れますけどね。


「直ぐに淹れて来ますね」


 あっ、ハロルドさん、2回目は付いて来てくれなくても大丈夫ですよ? あぁ、あのテーブルから少しでも離れていたいのかな? 偉い人ばっかりだもんね。テオは、初対面のギーレン副隊長に緊張することも無く普通に対応している。度胸あるよね。


 ギーレン副隊長と補佐の騎士さんがお茶を飲み終える頃、テーブルに大皿の料理が並び始めた。コカ肉と野菜を炒めた料理に、オーク肉のステーキ……ニンニクの香りがする。サラダの真ん中にある薄切り肉には、トマトと果物かな? のソースが掛っている……どれも美味しそう。


 テオが大皿を持って、レオおじいちゃんとリアム様、ギーレン副隊長達に料理を取ってもらった後、自分の取り皿に料理を入れて、私のお皿にも乗せてくれる。ハロルドさんにも遠慮するなと勝手に乗せているし……ふふ。


 あっ、また料理が運ばれて来た。何の料理かと見ていたら、ギーレン副隊長が、お茶の入っていたカップを握り締めながらボソッと声を出した。


「このお茶は……」

「美味しいですね……副隊長、何だか体が軽くなりましたよ」

「ああ、そうだな……」


 ギーレン副隊長と補佐の騎士さんの声が聞こえた。


「どうじゃ、疲れが綺麗に取れたじゃろ? アリスの淹れるお茶は特別なんじゃよ。フォフォフォ、ギーレン副隊長、他言無用で頼むぞ」


「マルティネス団長……承知しました」


 何度も言いますが、店で売っていますよ。でも、身体が楽になったのなら良かったです。


 みなさん、携帯食で我慢していたせいか食べる量が凄かった~。遠征中だからか、お酒は飲んでいないけどね。テオも周りが飲まないから我慢している。ふふ。


「アリス、食後のお茶も飲みたいんじゃが」

「はい、レオおじいちゃん」

「アリス、私にもお願いします」

「はい、リアム様。みなさんの分も淹れて来ますね」


 リアム様がお茶をなんて言うのは珍しいな。遠征に来てから毎日、昼と夜の食後にお茶を飲んでいるから癖になったのかもね。ハロルドさんと一緒に調理場へ行き、お茶の入ったカップはハロルドさんに運んでもらう。


「お待たせしました。どうぞ~」

「うむ! アリスを連れて来て正解じゃな。ズズズ……」



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