第44話 遠征① 討伐部隊

 レオおじいちゃんが帰った後、遠征に持って行く着替えをアイテムバッグに入れた。食事は、携帯食を出してくれるって言っていたし、バッグにはサンドパンの作り置きや肉や野菜も入っているから、特に買い足す物はないかな。


◇◇

 翌日の学園で、グループのみんなに、急用が出来て明日からしばらく休むとだけ話した。いつ帰って来るか分からないから、リーダーのソフィア様にだけレオおじいちゃんについて行くことになったと伝える。


「まあ! アリス、先日マルティネス様がおっしゃっていた遠征ね」

「そうです。私から詳しい内容は言わないでおきますね。ロペス様に聞いてください」


 遠征先について口止めはされなかったけど、私からあれこれと話さない方が良いよね。


「分かったわ。アリス、帰って来たらお話を聞かせてね」

「はい、ソフィア様」



 昼休みにフランチェ先生に呼び出され、「アリス、話は学園長から聞いています。今回は欠席ではなく実習訓練扱いにしますので、遠征から帰って来たらレポートを出すように」と言われた。


 欠席にならないのなら助かるな。学園の出席日数が足りない生徒は、冬休みに補習授業を受けないといけないそうだから。


「アリス、帰って来たら、休んでいた間の授業内容をグループのリーダーに聞くように。1年生から冬休み前に試験がありますからね」


「試験……はい」


 そうだった。年少科ではなかった試験が、1年生からあるんだった。


 ◇◇◇

 出発日の早朝、テオは、私を護衛するのに普段着ではダメだろうと言って、片手剣を腰から下げて、ダンジョンに行く時に着る黒い革の防具を着ている。この防具は、ダンジョンの崩落事故の後に買った、上級者が使う良い防具らしい。


 店の外で待っていると、迎えの馬車が来た。


「宮廷魔術師レオナルド・マルティネス団長の指示で迎えに来ました。遠征の間、馭者と護衛を務める第二騎士団所属のハロルドと言います」


 騎士団の白い鎧を着た若い騎士さんが、馬車から降りて来て丁寧に挨拶をしてくれた。


「ハロルド殿、テオと言います。今回は、よろしくお願いします」

「アリスです。よろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします。テオさん、僕は庶民出身なので普通にハロルドと呼んでください。アリスもね」


「そうですか。では、ハロルドさん、よろしくお願いします」


 茶色い髪をしたハロルドさんは庶民で、今年騎士団に入ったばかりだそう……って事は、今年16歳でかなり優秀な騎士様だ。騎士団の白い装備服がカッコイイからか、貴族にしか見えないけど。


 明らかに貴族の馬車だと分かる豪華な馬車に乗って、北門へと向かった。今回、北門へ続く大通りに見送りに来ている人は少ないな。


 北門の広場に着いたので、馬車から降りて待っていたら、馬で隊列を組んだ白い甲冑の騎士団が見えた。少ないな……騎士様は10人で、ハロルドさんを入れたら11人か。今回の討伐部隊は第二騎士団の隊長ではなく、ギーレン副隊長が率いているってハロルドさんが教えてくれた。


 第二騎士団の後ろに、レオおじいちゃんとリアム様。宮廷魔術団は全員で8人で、レオおじいちゃんとリアム様以外の6人はみんな若くて……ロペス様やハロルドさんくらいの年齢に見える。ゴーレム討伐の時に比べて本当に少ない人数だな。


「アリス! テオ殿、待たせたな。休憩を取りながら進むが、何かあったら馭者をしている者に気兼ねなく言うんじゃぞ」

「おはようございます、レオ様。お気遣いありがとうございます」

「レオおじいちゃん、おはようございます」


 ハロルドさんの「えっ……レオおじいちゃん!?」とつぶやく声が聞こえた。あぁ、後で説明しないと勘違いされるよね。


 馬車に乗り込んで討伐部隊の後ろからついて行く。初めての遠出だよ……ふふ、ちょっと楽しくなって来たな。


 ◇

 ダンジョンがある北の森を抜けて、更に北へ進む。段々と日差しが強くなって来た、空が高くて良いお天気だな。


 道中、魔物が出て来ても馬車は止まらないの。数人の騎士様たちが魔物を狩りに走り、ギーレン副隊長を始めとした討伐部隊はそのまま進む。そして、狩りに出た騎士様たちは、あっという間に魔物を倒して先頭に戻る。無駄な動きがないと言うか……凄いね。


 お昼に、ハロルドさんが作ってくれた携帯食は、干し肉と野菜が入ったスープと丸パンでした。第二騎士団と宮廷魔術団も、同じような食事なのに別々に準備している……一緒に作れば良いのに。


 ハロルドさんが、「アリス、今日のパンは柔らかいけど段々堅くなるからね。堅くなったらスープに浸して食べるんだよ」と教えてくれる。分かりましたと頷いたけど、堅いパンには水魔法をかけて、軽く火魔法を掛ければ柔らかくなると思うけど……スープに入れちゃっても良いよね。


 その日の夜、ハロルドさんに頼んで、食事の用意を手伝わせてもらった。ハロルドさんと一緒に作った野菜のスープと、サンドパンを持って来たからと言ってハロルドさんにも食べてもらった。


「えっ、これアリスが作ったの? 旨いな……」


「だろう? ハロルドさん、アリスの作る料理は何でも旨いんだ!」

「もう~、テオったら」


 テオが嬉しそうに親バカなことを言っている。サンドパンを出すのは今夜だけにしよう……他の部隊の方の視線を感じる。そして、食後にレオおじいちゃんがお茶を飲みに来た。


「これから毎日アリスの茶が飲めるとは、嬉しいの~。つまらん遠征が、アリスの美味しい茶を飲めるだけで癒されるわ。フォフォ」

「ふふ、レオおじいちゃん、ありがとうございます。お茶のおかわり入れましょうか?」


 声をかけると、リアム様が「ご馳走様です」とお茶のカップを置いて、


「アリス、マルティネス様を甘やかさないでください。さあ、マルティネス様、騎士団との打ち合わせに行きますよ」

「仕方ないのお。アリス、また明日のぉ」

「はい。レオおじいちゃん、リアム様、おやすみなさい」


 ハロルドさんが「あのマルティネス様が、好々爺に見える……」って驚いているけど、知り合った頃からあんな感じですよ。


◇◇◇

 街道を進み街や村をいくつか過ぎると、出て来る魔物が段々と強くなって来た。狼や鋭い角を持つ一角ウサギ、犬の顔をした2本足の魔物が現れる。


「アリス、あの犬顔の魔物がコボルトだ。基本2体以上で行動するから、出くわしたら気を付けろ」

「分かった。テオ、コボルトの弱点は?」


 テオに、魔物の倒し方を教えてもらう。私も冒険者になって街の外に出るようになったら、色んな魔物と戦うかもしれないからね。


「アリス、あの遠くに見える高い山が、ワイバーンの住む山だ」


 馬車の窓から顔を出して前方を見ると、遠くに……いくつもの連なった高い山が見えた。その奥に、更に大きな山があるけど、山頂は雲に隠れて見えない……どれだけ高い山なんだろう。


「あの山が……」


 あの連なった山脈の向こう側には<北の帝国>と言う国があるんだけど、あの山々を越える道はなくて、<北の帝国>へ行くには隣の国から海に出て船に乗るらしい。


 一番手前にある山にはダンジョンがあって、そのダンジョンの近くに陳情書を送った<トロム>という街があるそうです。レオおじいちゃんが、街で領主から詳しい話を聞いてから、ワイバーン狩りを始めると言っていた。


「全員! 戦闘態勢を取れ!」

「「「ハッ!!」」」


 聞こえて来たギーレン副隊長の声と同時に馬車がゆっくり止まった。


「何だ?」


 テオが窓から顔を出した。私も反対の窓から外を見ると、前を2列に整列して歩いていた騎馬が左右に広がって走って行く。その前方には……砂煙を上げて馬車が、こっちに向かって走って来るのが見えた。

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