第43話 今回の遠征

 店に帰って、これからレオおじいちゃんとお茶会です。


「レオ様、いらっしゃいませ。今日もアリスを迎えに行ってもらって、ありがとうございます」

「フォフォ、テオ殿、ここに来るついでじゃ」


 レオおじいちゃんは、明後日から遠征に行くことになったと話しながらいつもの席に座った。テオもその前に座る。火の曜日のカウンター横の4人掛けのテーブルは、レオおじいちゃんの予約席になっているの。さあ、お茶をいれよう。


 お茶を出してテオの隣に座り、リアム様が用意してくれた高級そうなお菓子とにらめっこ……果物やナッツが練り込んである焼き菓子で、4種類もあるからどれから食べようか迷うな~。決めた! これにしよう~。ふふ。


「レオ様、遠征とは穏やかではないですね」

「ああ、そうじゃな。テオ殿、今回の獲物はワイバーンじゃ」


 ナッツが入った焼き菓子に手を伸ばした時、『ワイバーン』の言葉に手が止まって、レオおじいちゃんを見た。


「えっ、「ワイバーン!?」北の山に住む魔物……」


 ニコニコと、白いあご髭を触るレオおじいちゃん。


 <リッヒ王国>の北にある<北の帝国>との国境には、高くて険しい山々がそびえ立っていて、そこにはワイバーンと言う大きな翼のある魔物が住んでいるの。


 私は本で絵姿しか見たことないけど、トカゲの魔物リザードを何倍にも大きくした魔物で、馬車なんて馬ごと平気で掴んで飛んでいくと書いてあった。


 レオおじいちゃんの話では、山の近くにある村で、ワイバーンの目撃情報があって、牧場の家畜が襲われる事件が何度も起きたそうです。


「あの山のワイバーンが、人里まで下りて来ることは滅多にないんじゃが……。冒険者ギルドに依頼を出したが、引き受ける冒険者がおらんそうじゃ。近頃では、商人の馬車を襲う被害が増えて、領主から陳情書が届いたそうじゃ」


「あ~、普通の冒険者パーティーでは、ランクAのワイバーンを倒すなんて無理ですからね」


 テオが、ワイバーンを倒すには手練れの上級パーティーで、魔法使いが2人はいないとキツイだろうと言う。


 冒険者のランクで言うと、ランクBが上級者――未成年や初心者はランクFから始まって、経験を積むとE・D・Cと上がる。能力があれば更に上がって、特級のランクAまであるそう。


「テオ殿の言う通りじゃ。ある程度のレベルを持つ魔法使いが2名いれば、ワイバーンを地面に落とせる。地面に落としてしまえば、後はどうとでもなるのぉ」


 宮廷魔術師は、冒険者でいうランクB以上の魔法使いで、レオおじいちゃんやリアム様は特級のランクA。その中でもレオおじいちゃんが1番の魔法使いなんだって!


 レオおじいちゃんが行かなくても、リアム様がベテランの宮廷魔術師を連れて行けば余裕で倒せるのに、経験を積ませる為に若手の宮廷魔術師を連れて行くことになったそうです。それでレオおじいちゃんもついて行くことになったとか。


「レオおじいちゃん、またエリオット様達と行くんですか?」

「いや、今回は第二騎士団とじゃ。数体のワイバーン程度なら小規模の部隊で十分なんじゃが……」


 ワイバーンが現れるまで待機するから、時間が掛かるだろうと言う。


「「第二騎士団」とですか」


 この国には第一と第二の2つの騎士団がある。制服が同じだからパッと見ただけでは見分けがつかない。テオに、見分けるのは胸元のバッジだと教えてもらった。


 エリオット様やアルバート様達が付けているバッジには、1本の剣が真ん中に描かれていて、エリオット様だけバッジに金色のラインが入っているの……副隊長だからかな? 第二騎士団のバッジは、2本の剣が交差している。


「もしかして、レオおじいちゃんは、空を飛ぶワイバーンを1人で倒せるんですか?」

「フォフォフォ、倒せるぞ。じゃが、今回はひよっこの子守りでな……そうじゃ、アリスの土産にワイバーンの爪でも取って来ようかの~」


 えええっ! ワイバーンの爪って高価な素材だよ? 加工して槍や弓矢の矢尻にするって本に書いてあった。


「えっ、レオ様、土産にワイバーンの爪ですか? それは凄い! アリス、楽しみだな!」


 テオは、ワイバーンには数回しかお目にかかったことがなく、1度だけパーティーで狩ったと言う。


「あの時は稼がせてもらったなぁ。肉も旨かったし」


 ワイバーンの肉って食べられるの? それなら、お土産は爪よりお肉が良いな~。あっ、普通のアイテムバッグには、時間停止の機能がついていないから肉が傷んでしまうのか……残念。


 そうだ! 氷魔法を使える人がいれば肉を凍らせて……レアな氷魔法は、回復魔法より使える人が少ないって授業で聞いたな。


「そうじゃ! アリスも一緒に連れて行こうかのぉ。学園で魔法の勉強をするより、ワイバーン狩りの見学の方が勉強になるじゃろう」

「えっ、レオ様……アリスには、まだ早いですよ。騎士団や魔術師の方の邪魔になると思います」


 テオの言う通りで、子供の私が一緒なんて迷惑だと思う。それに、学園を休まないといけなくなるしね。


「レオおじいちゃん、学園の授業がありますから……」

「そうじゃな……決めたぞ! テオ殿も一緒に見学に来ると良い。学園には、わしから話を通しておくからの」

「俺も? レオ様、良いんですか!? まあ、俺が一緒ならアリスを連れて行っても大丈夫ですよ。フフフ」


 ええー! テオ、その間お店はどうするの? 臨時休業の紙を貼るって……こんな機会は滅多にないから? 確かに、討伐部隊の見学なんて普通は出来ないだろうな。


「決まりじゃ。明後日の朝、迎えの馬車を行かせるからの。アリス、お茶の用意を忘れずに持って来るんじゃぞ」


 レオおじいちゃん、決定ですか? お茶のセットはバッグに入れてありますけど……、


「……はい」

「ハハ! アリス、良かったな。ワイバーン狩りが見られるなんて、こんな機会は滅多にないぞ!」


 そうかも知れないけど……テオ、凄く嬉しそうだね。




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