第42話 レオおじいちゃん
◇◇◇
いつの間にか、レオおじいちゃんが1年の演習の授業に顔を出したことが噂で流れていて、2・3年の魔術科の先輩が授業に参加しようとして、見つかって罰を受けている。噂の発端はウィルバート様だったりして~……ありえる。
火の曜日のお昼、食堂に向かいながら、今日も先輩達が紛れ込もうとするんじゃないかという話になった。途中、ロレンツ様とユーゴも加わり、
「絶対にバレるのに、どうして1年の授業に参加しようと思うのかな~?」
「だよな。騎士科と違って、魔術科は人数が少ない上に、グループで行動するんだからバレるに決まっているよな」
魔術科の1年生は、A・Bクラス合わせて40名もいないのに、騎士科は各クラス40名前後いるんだって、多いね~。
「ミア、ユーゴ、貴族なら誰でもマルティネス様とお近づきになりたいんだよ」
「そうだよ。僕の兄なんて、兄弟を代われとまで言って来るよ。先生に見つかって、騎士科と走るくらいなら、みんな諦めないんじゃないかな~」
見つかった先輩たちは、罰として、そのまま3年の騎士科の実技の授業に連れて行かれて、走り込みをした後、みっちり基礎体力を付ける授業を受けるらしい。騎士科の3年生と一緒の授業は大変だと思うよ……私達が一緒に走り込みをしているのは、騎士科の1年だからね。
いつものテーブルについても、みんな定食を取りに行くのも忘れて話に夢中になっている。ロレンツ様とミハエル様が、レオおじいちゃんの姿を見られるだけでも幸運なんだと言う。
「その通りだね。マルティネス様は、魔術を志す者にとって生きる目標・神様みたいな人だからね」
「「「ええっ、神様!」」なんですか?」
ロレンツ様の言葉に、庶民の3人は驚いたよ。ソフィア様とミハエル様は深く頷いている。
「ええ、神様のように尊い方です。アリスのお陰で、毎週どれだけ楽しみにしているか……アリス、ありがとう」
「そうだよ。アリスのお陰で、どれだけ兄に羨ましがられるか~。フフ」
「えっ……」
ソフィア様とミハエル様に感謝されて、どう返事をしていいのか困っていると声が聞こえた。
「アリス――! どこじゃ~」
一瞬、みんな固まった。直ぐに、ロレンツ様とミハエル様、ソフィア様まで立ちあがって、
「「「マルティネス閣下! こちらです!」」」
手を上げてレオおじいちゃんに返事をした。3人の反応に、ユーゴとミアまで立って迎えるから、周りの視線を一気に集めてしまった。私も立った方がいいのかな?
「おお、そこか! アリス、明後日から遠征になってしまったんじゃ」
「えっ、レオおじいちゃん、今度はどこに行くんですか?」
「ここでは詳しく話せぬから、店に行ってからな。来週はアリスとお茶が出来そうにないから、早めにお茶をしようと思って来たんじゃ。リアムに、アリスが喜びそうな茶菓子を用意させたからな」
「えっ、今から?」
リアム様がお菓子を用意してくれんだ。それは楽しみだけど、まだお昼を食べていないの……。
「「「マルティネス閣下、担任には伝えておきます!」」」
「おお、すまんが、アリスを連れて帰ると伝えてくれ」
「「「お任せ下さい!」」」
ロレンツ様・ソフィア様・ミハエル様の3人が、ピッタリと息の合った返事をしているけど、ロレンツ様は騎士科でクラスが違いますよ? 細かいことはいいか~。それより、レオおじいちゃんを食事に誘っても良いかな? 私、お腹がペコペコです……。
「レオおじいちゃん、お昼はもう食べました? まだなら、サンドパンで良ければ、一緒に食べませんか?」
「アリスの作ったパンか! あれは旨いな。ご馳走になろうかの」
レオおじいちゃんに、テーブルの真ん中に座ってもらって私が隣。反対側にソフィア様で、向かいの席にユーゴ、ロレンツ様、ミハエル様とミアが並んだ。うわぁ、みんなの視線がキラキラと輝いている。
あっ、ユーゴとミアは、私のバッグを見ている。ふふ、みんなの分もありますと言うと、2人が急いで食堂のトレイを取りに行ってくれた。ありがとう。
バッグから定番の3種類のサンドパンを出してトレイに並べる。まだ誰も定食を取りに行ってないので、良かったらどうぞと声を掛けた。
「「アリス……ありがとう」兄上に自慢できる!」
「アリス、一生の思い出を……感謝しますわ」
レオおじいちゃんと一緒だと、緊張すると言われるかと思ったけど大丈夫だった。ソフィア様がちょっと大げさな気もするけど。
「やった~! アリスのサンドパンだ~」
「俺、コカ肉もらい!」
「ぬ、お主、それを1番に選ぶとは、分かっているではないか!」
「私はオーク肉から~!」
「うむ。それも旨いが、わしもコカ肉じゃ!」
緊張する貴族組に対して、ユーゴとミアが場を和ませてくれる。ふふ。レオおじいちゃんがコカ肉のサンドパンを取った後、ロレンツ様達もサンドパンを選んだ。
「沢山ありますからね。あっ、そうだ。今日は新作のサンドパンもあるんですよ。半分に切るんで、味見します?」
みんなの動きが止まって一斉にこっちを見る……えっ?
「何? アリス、新作じゃと……」「えっ、新作?「ゴクッ……」」「「アリス、どんなパンなの?」かしら?」「フフ、食べるのが楽しみだね~」
「えっと……ミノタウロスの肉が手に入ったので、オーク肉とミノタウロス肉を細かく混ぜて焼いたお肉の上に、チーズと目玉焼きを乗せました。ソースには、ニンニクをたっぷり入れてあるんです」
ミノタウロスは2本足で立つ牛の魔物で、別の街にあるダンジョンの深い層に行かないと出て来ないらしい。その肉は値段が高いのになかなか手に入らなくて、市場の肉屋さんでも売っていない日が多いの。
最近、オーク肉をたくさん買うようになって、肉屋のおじさんが特別だと言って安く分けてくれた。それでも、オーク肉の倍の値段だったよ……本当はミノタウロスのお肉だけで作ってみたかったけど、高いからオーク肉と混ぜたの。半分オーク肉だけどね。ふふ。
「何じゃと……」
「「「ミノタウロスだって……」」俺、食べたことない」
「私もないよ。ミノタウロスって、貴族が食べる高級肉だよね……どんな味がするのかな~?」
「ミア……ミノタウロスの肉は、王族や高位の貴族でないと手に入らないわ。下位の貴族では……滅多に食べられないわよ。ニンニク……この際、ええ、気にしないわ」
みんなの目が怖かったので、風魔法で半分に切ったミノタウロスのサンドパンを、1個ずつ渡した。
「おお! これは柔らかくて旨いの~」
「このニンニクソースが! 参ったな~」「フフ、僕も参ったよ。アリス、美味しいよ」「アリス、これ好き~!」「俺も!」「これは、禁断の味ですわね……ふふ」
「ふふ、気に入ってもらえて良かったです」
みんなでレオおじいちゃんを囲んで食べ始めたんだけど、何故か……Aクラスの生徒がリカルド様とスカーレット様の指示で、他の生徒を近寄らせないようにガードしていた。上級生にも注意している……あっ、ウィルバート様だ。
「どちらの先輩が存じませんが、ここから先は通しませんわよ。マルティネス公爵のお姿を見ることだけは許されますわ」
「ムッ、マーフィー侯爵令嬢……。私は、魔術科3年のウィルバート・ベンダーと言います。何の権限があって仰っているのですか?」
「あら、私のことをご存じで? ふふ、魔術科のグレース先生から指導があり、マルティネス公爵の行動を阻むなと言われておりますの。フェルナンデス公爵家のリカルド様と私が、今、責任を持って実行しているのですわ!」
「なっ、フェルナンデス公爵家の名前も出されるのですか……、あそこに弟のミハエルがいるのです。通していただけないでしょうか?」
「ご冗談を……親族がいるからと、通すわけがないでしょう。ふふ、グレース先生の許可を取って来られたら、お通ししますわ」
リカルド様とスカーレット様のお陰で、誰にも邪魔されることなくゆっくり食事が出来た。(見世物のように先輩方に遠巻きに見られ、特にウィルバート様の視線が熱かったけど……)Aクラスの皆さん、ありがとうございます。
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