第41話 1年生④ お茶を飲む許可?

 レオおじいちゃんは、相変わらず火の曜日の魔法の演習に迎えに来てくれる。昼の休憩を兼ねて来るんだって。


「マルティネス閣下! 今度は、私の火魔法を見て下さい!」


 スカーレット様がそう言って、的に向けて火魔法を撃とうとした。


「ん? 止めーい!」


 レオおじいちゃんが、大きな声で止めた。びっくりした~。

スカーレット様も驚いて、レオおじいちゃんを見て固まっている。


「こやつの担任は誰じゃ? わしの前で不安定な魔法を撃たせようとするとは……」


「マルティネス閣下……わ、私です……申し訳ございません」


 グレース先生が、顔を引きつらせて謝っている。レオおじいちゃんの顔は、ちょっとだけ怖いから、大声を出したら……怒っていないのに、凄く怒っているように見えますよ。


「ふむ、こういうタイプは騎士科と一緒に走らせろ。魔力量に対して、体力が足りんのじゃ。経過を見て、リアムに報告書を送れ」


「報告書……は、はい。マルティネス閣下、分かりました……」


「なっ! 私、騎士科で走るのですか!?」


 隣でミアが「安定するなら、私も走ろうかな~」って、言っている。



 そして、次の魔法演習の授業から、1年の騎士科A・Bのクラスと合同で、初めの30分ほど走り込みをすることになった。スカーレット様だけじゃなく全員で……侯爵家の令嬢だけを騎士科で走らせることなんて出来ないんだろうね。


 広い競技場でロレンツ様を見つけると、ミアと小さく手を振る。私達魔術科は騎士科の後ろについて走る。


 宮廷魔術師を目指す生徒は、体力がないみたいで、騎士科のペースで走らされると、途中で力尽きて倒れ込む生徒(特にAクラス)がいる。歩き出す生徒も多くて……30分間、走り切った生徒は数人しかいなかった。


 ミハエル様は途中で力尽きて動かなくなり、ソフィア様は途中から歩き出した。ミアと私は最後まで騎士科の生徒について走り切ったけど、ミアは肩で息をしている。


「ハァ、ハァ、アリス……余裕だね。ハァ」

「うん、こういうのは慣れているからね」


 騎士科の走りについて行けるミアが凄いよ。ごまかしたけど、私は強化魔法を使ったからね……ズルいかな? でも、の演習の授業だから良いよね。


 スカーレット様の件以降、レオおじいちゃんが来ても誰も絡みに行かなくなった。Aクラスで、マルティネス公爵を見かけても、挨拶だけで話し掛けてはいけないことになったそうです。グレース先生がレオおじいちゃんに怒られたからかな? 報告書まで書くように言われていたしね。


 ◇◇

 ある日、食堂の入口でリカルド様と出くわした。


「やあ、アリス。もう少し魔力が増えて、魔法の完成度があがったら、またマルティネス公爵に魔法を見てもらいたいと思っているんだ。アリスのお茶を飲む許可をもらうからね」


 あれ? レオおじいちゃんに話し掛けたらダメなんじゃ……グレース先生に怒られますよ。もし、レオおじいちゃんと同じお茶を飲みたいだけなら、


「えっと、リカルド様。お茶は、『テオの薬屋』のお茶コーナーで売っていますよ」


 マルティネス様が飲んでいるお茶と同じですよと言うと、リカルド様がキョトンとする。


「マルティネス様とお茶をする時、いつもアリスがお茶を淹れているんだろう?」


「はい。そうですけど、店で売っているお茶と同じですよ。それに……リカルド様でしたら、マルティネス様とお茶をしなくても、宮廷魔術師になれるのでは?」


「アリスは嬉しいことを言ってくれるね。でも僕は、マルティネス公爵から認めてもらって、アリスのお茶会に参加するよ。フフ、じゃあね」


 やっぱり、お茶を飲みたいんじゃなくて、レオおじいちゃんに認められたいんだ。


「「おおお……」」

「「「キャ~!」」リカルド様が微笑まれたわ!」


 リカルド様は、取り巻き方に静かにするように声を掛けて離れて行った。あぁ……令嬢方の視線が怖いです。


 いつもの席に座るなり、リカルド様との話を聞いていたソフィア様がジッと私を見る。


「アリス。よりによってリカルド様……公爵家に目を付けられるなんて……お兄様に何て報告しようかしら」

「アリスが、『風の貴公子』に気に入られるなんて~」


 えっ、今の話の何を聞いてそう思ったのかな?


「ソフィア様? ミアも勘違いだよ。リカルド様は、『マルティネス公爵から認めてもらって』と、言っていたじゃないですか……」


 レオおじいちゃんに認められたら、宮廷魔術師への道が確実になるよね。


 ◇◇◇

 それから数日して、テオが迎えに来た時に、店でエリオット様が待っていると言われた。


「なあ、アリス。エリオット様が、リカルドって奴の話を聞きたいって言うんだが、何者だ? グループのメンバーじゃないよな」

「えっ……隣のAクラスの公爵家の御子息だよ」

「公爵家……」


 噂話がエリオット様の耳まで届いたのかな? まさかね。


 店に帰ると、扉には閉店の札が掛けられていた。私を迎えに来る時は、いつも休憩中の札を掛けて、その後、テオは店を夕方まで開けているのに……店の中に入ると、エリオット様だけじゃなく、アルバート様とロペス様まで来ていた。


「エリオット様、こんにちは。アルバート様、ロペス様もこんにちは」

「お帰り、アリス。少し聞きたいことがあるんだ」

「「アリス、おかえり」」


 エリオット様たちがいるテーブルに座ると、リカルド様について聞かれたので、レオおじいちゃんが魔法の演習に来るようになってから、レオおじいちゃん目当てで声を掛けられるようになったと話した。


 それと、侯爵家のスカーレット様からも、レオおじいちゃんと魔法の訓練をしたいと声を掛けられたことがあると言っておいた。


「なんだって、マーフィー侯爵家からも声を掛けられているのか……」

「エリオット副隊長、マーフィー侯爵は温厚な方なので問題ないかと思われます」

「アルバート様の言う通りかと。マーフィー家では、スカーレット嬢だけが魔力が強いようです」


 テオが椅子を持って来て横に座った。みんなに囲まれて、何だか怒られている気分……。


「アリス、リカルド・フェルナンデスが『アリスのお茶を飲む許可をもらうからね』と言ったのは本当かい?」


 あっ、ソフィア様が知らせたんですね。


「……はい、言われました。リカルド様は、レオおじいちゃんを尊敬していて、『マルティネス公爵から認めてもらう』って、言ってました。宮廷魔術師を目指しているみたいです」

「何……マルティネス様を絡ませて話し掛けて来るのか」

「副団長、噂通りの頭の良いヤツですね」

「口の上手い奴だな。アリス、騙されたらダメだよ」


 アルバート様の言う通り、リカルド様は頭が良さそうです。でも、ロペス様、リカルド様はどちらかというと口数の少ない方で、誰かを騙そうなんて思っていないと思いますよ。

 

「何だと……アリス、そいつは店に入れないからな!」

「テオ……」


 リカルド様は、レオおじいちゃんを尊敬していて、私の回復魔法に興味を持っているんじゃないのよ? リカルド様は貴族だけど……10歳か11歳の子供に、みんな大袈裟だよ。


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