第38話 1年生 4の月

 1年生になると、錬金術と魔法陣の授業が増え、闇の曜日には研究サークル活動に参加するそうです。訓練場にある研究教室に移動して、グループに分かれて授業を受けた。


 初めての錬金術の授業では、傷薬の作り方を教わった。初心者用の錬金術の本を見ながら作業を進める――傷薬はいつも作っているから、材料の分量や手順は覚えていて、手早く作って後片付けを始めた。


「アリス、もう傷薬が出来たの?」

「ソフィア様、学園に来る前は、毎日のように傷薬を作っていたから慣れているんですよ」

「これを毎日? 薬作りって、こんなにも手間が掛かるのね……」


 薬作りは、丁寧に作業しないと薬の効果が下がるんですよ。


「アリス、手伝って~」

「ミア、私が手伝うと勉強にならないよ?」

「大丈夫、作業の手順を覚えればいいんでしょ? 初日で、私には錬金術が向いてないって分かったよ。細かい作業は苦手なのよね~」


 その細かい作業をするのが、錬金術の勉強なんだと思う……錬金術は、向き不向きはあるけど授業だからね。


「ミア、初日からアリスに手伝ってもらうのはどうかと思うわ。ミア、一緒に頑張りましょう?」

「はい……ソフィア様」


 ソフィア様に言われて、ミアはソフィア様の作業を覗きながら作業を続ける……ちょっと薬草のカットとか雑だけど、自分でやることが大事だからね。


 隣で、ミハエル様が丁寧に作業をされているのに驚いた。手先が器用で錬金術に向いているかも。


「ミハエル様、上手ですね」

「そうかい? 本職のアリスに言われると嬉しいな。フフ」

「本職……」


 まだ見習いなんだけど、ちょっと嬉しい。


 ◇◇◇

 魔法陣の授業では、基本の属性魔法の魔法陣を描く授業を受けた。誤作動しても危なくないように、水魔法の魔法陣から作るそうです。フランチェ先生は、黒板に見本の魔法陣を貼り付けて、みんなの作業を見て回る。


「皆さん、魔法陣を描く時、ペンに魔力を少しずつ流してください。均等に、ゆっくりですよ」


 インクに魔力を込めながら丁寧に書けば良いだけで、魔石を組み込まない簡単な魔法陣だったので直ぐに出来てしまった。魔法陣が発動するか先生の前で試して、合格をもらえたら次の属性魔法陣を描くんだって。


「アリス、次は土魔法の魔法陣を描いてください」

「はい」


 魔法陣がちゃんと描けていたら、魔力を流せば得意じゃない属性でも生活魔法程度の弱い魔法は発動するの。でも、生活魔法でも使えない属性は発動しないから、4属性の生活魔法が使えるフランチェ先生が魔力を流して発動するか試している。


 ソフィア様とミハエル様も合格して、次の魔法陣を描き始めていたけど、ミアは描き直すように言われて「魔力を均等に……均等に……」とつぶやくのが聞こえた。頑張って、ミア。



 ◇◇

 闇の曜日、今日は魔道具・錬金術・魔法陣・魔物の4つの研究サークル活動がある。


 教室でフランチェ先生から簡単な説明を受けた後、1年生はグループに分かれて、順番に全てのサークルに参加してもらいますと言われた。2年生からは強制ではなく、自分が選んだ研究サークルに参加して、途中で研究サークルを変えてもいいそうです。


 1年生のAクラスは4グループあって、魔道具と錬金術の研究サークルに参加。Bクラスは、魔法陣と魔物の研究サークルに参加することになった。


「Bクラスは3グループなので、2・1に別れるそうよ。他の2グループは魔法陣の研究サークルで、私達のグループは魔物の研究サークルに参加することになったわ」


「へえ~、僕達だけなら気楽で良いね」


「ミハエル様、先輩の貴族の方がいらっしゃるんでしょう?」


 そっか、ミアの言う通り、サークルには2年と3年生の伯爵家以上の貴族もいるはず……。


「ああ~、そうだったね。ミア、変な奴がいたら教えるから近付かないようにね。アリスもね。フフ」


 ミハエル様が微笑んで言うと、ミアが元気に「はい!」と答えている。私も頷いたけど、失礼なことをしないように気を付けないとね……。


「グループでの活動になるから大丈夫よ。では、魔物の研究サークルに行きましょうか」

「「はい、ソフィア様」」

「フフ、訓練場の研究教室だね。行こうか」


 研究教室の中にある『魔物の研究サークル』と札の掛かった部屋に行くと、3年生の先輩から簡単にサークルの説明を受けた。


 その後、テーブルに案内されて、今日は街の近くに出る魔物として、スライム・ラット・スネイクについて、魔物の弱点と有効な倒し方をグループで考え、意見交換しながらレポートを書くように言われた。その後、先輩方が何を研究しているか見学するそうです。


「スライムは、たまに水路に紛れ込んでくるらしいけど見たことないな~」

「えっ、ミア、スライムは街の中まで入って来るの?」

「うん、アリスは聞いたことない? たまに、宿の従業員が話しているのを聞くよ」


 街中の水路は、冒険者が定期的に調査しているそうで、その時にスライムがいたら駆除するらしい。こちらから攻撃しないと襲ってはこないけど、放っておいたら数が増えて細い水路が詰まったりするそう。


「王都で魔物が出たとは聞いたことはないけど、スライム程度では報告が上がらないのかもね」


 ソフィア様のラミレス領では、森が多くて狼やゴブリンが街道にまで現れるので、定期的に魔物狩りをするそうです。


「僕が住んでいたベンダー領には、山がいくつもあるんだ。狼やゴブリンもいるけど、岩山が多いからリザードが良く出るんだよ」


「「「リザード!」」」


 リザードの皮は、ブーツや防具で良く使われる素材だ。


「では、ベンダー領では革製品が特産品なのかしら?」


「ソフィア様、その通りですよ。フフ」


 もしかして、ベンダー領で革製品を買えば王都より安いのかな? 冬休みの間、テオと薬草を採りに行っていたから、革のブーツを買ったんだけど、高かったのよね~。


 レポートを書き終わって、みんなで先輩達の研究を見学する。隣のテーブルでは2年の先輩達が、『ゴーレムを効率よく倒すには』と言う課題で討論をしている。デイル領であったゴーレム討伐を参考にしているみたい。


 奥にいる3年の先輩方は『魔術師によるダンジョンの攻略』を研究している……何で魔術師だけなんだろう?


 ◇

 今日もテオが学園まで迎えに来てくれた。家に帰って、テオと夕食を食べながら魔物の研究サークルでの話をした。


「テオ、ベンダー領にはリザードがいっぱいいて、革製品が特産品なんだって! ベンダー領に行ったら革製品が安く買えるかもね~」

「アリス、ベンダー領まで行くのに馬車で5日は掛かるぞ」

「えっ、そんなに……」


 ……馬車代入れから赤字だね。


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