1年生
第37話 あっという間に
冬休みはあっという間に過ぎて、3の月になった。
3の月に入ると、学園主催の剣術大会と魔術大会が開催される。大会は、トーナメント方式と言われる勝ち抜き戦で、騎士団と宮廷魔術師の偉い人が見に来るそうです。
剣術大会は、騎士科の3年生は全員参加で、2年生は担任の推薦がある学生だけが参加出来る。大会の成績で騎士団への入隊の合否が決まるので、3年生の気合いの入りようが凄いよ……騎士科を卒業したら、全員騎士になると思っていたけど違うんだ。そして、優勝者だけが希望する騎士団に入れるんだって。
魔術大会は、宮廷魔術師を希望する3年生と、担任推薦の2年生だけが参加するそうで、宮廷魔術師ではなく研究員を希望する生徒は、別室で個人の研究の成果を展示しているそうです。
そして、腕に自信のある生徒は、最後にある総合競技に参加して、剣と魔法を使って戦うんだって。
大会が行われる競技場は、ダンスホールが5つ入るくらいの広さがあって、周りには観客席と来賓席がある。年少科はグループに分かれて観客席で見学です。
あっ! 来賓席にいる騎士様の中にアルバート様がいた。少し離れた席にリアム様も……数人の黒いローブの魔術師がリアム様を守る様に囲んでいる。そっか、レオおじいちゃんのそばにいるってことは、リアム様も偉い人なのね。
剣術大会は、広い競技場を左右に分けて、同時に2組の試合が始まった。ドキドキして見ていたけど、剣と剣がぶつかると大きな音がするの! それと同時に、周りの観客席からの声がワアーっと響く……ユーゴの声も大きいな。
優勝したのは騎士科3年生のAクラスの生徒で、この人は第一騎士団の隊長の嫡男だとロレンツ様が教えてくれた。
次に魔術大会。宮廷魔術師を目指す魔術科の先輩たちも気合が入っていて、カッコイイ詠唱と共に派手な魔法が飛び交う。お互いに魔法を撃ち合って、攻撃して来た火魔法を水魔法で無効化したり、同じ火魔法をぶつけたりして、とても勉強になる。
ミアが誘拐されそうになった時を思い出すな……あの時、初めて人に向けて魔法を撃った。子供でも必要になる時があるから、きちんと魔法の使い方を覚えないとね。
魔術大会の決勝戦は、風魔法と水魔法を使う3年生と、火魔法と土魔法を得意とする3年生の戦いで、優勝したのは火魔法と土魔法を使う3年生でした。ソフィア様が「あのお二方は、宮廷魔術師決定ね」と、つぶやいていた。
お昼休憩を挟んで午後からは、総合競技の試合が始まった。剣のぶつかる音と魔法の音が響き、歓声が上がる。男の子達は目を輝かせて見ていたけど……私は怖くてあまり見られなかった。
学園は14歳で卒業なんだけど、騎士団と宮廷魔術師に入ることが内定した生徒だけ更に1年あって、実戦を兼ねた遠征や訓練をするそうです。そのクラスは『特別科』と言われ……あぁ、食堂の説明の時にフランチェ先生が言っていたクラスね。
◇
大会が終わり、迎えに来てくれたテオに、今日の大会の感想を話しながら帰った。アルバート様とリアム様が来ていたことも伝えると、
「そうか、アルバート様が来られていたのか。剣術大会で優勝したのが第一騎士団の隊長の息子だったのなら、メンツが立つな」
「優勝したら希望する騎士団に入れるって言っていたから、第一騎士団に入るのかな?」
「そりゃあ、身内がいる方が色々とやりやすいだろう」
「そっか~」
夜、ご飯を食べながら、テオから試合の様子を細かく聞かれて話していたら、「あー、俺も大会を見たかった! 何故、保護者を招待しないんだ!?」と騒いでいた。招待するなら、3年生の保護者だけじゃないかな~? ふふ。
◇◇◇
3の月の中頃、騎士科の試験があった。ロレンツ様とユーゴは、騎士科の試験を受けて合格したから1年生になったら騎士科へ行くそうです。
騎士科は3つのクラスに別れていて、A・Bクラスが貴族のクラスで、Cクラスは警備兵養成の庶民のクラス。だから、ロレンツ様とユーゴは別々のクラスになるの。
「騎士科に行っても、昼はみんなと食べるからね」
「ロレンツ様、俺も今まで通りみんなと食べる!」
「それは良いね! アリスもそう思うでしょ?」
「うんうん。お昼に会えるなら寂しくないね」
「まぁ、アリス、寂しいなんて素直すぎますわよ。ふふふ」
ユーゴに、又、私が作ったピリ辛ソースのオークパンが食べたいと言われたので、4の月の最初の授業のお昼に持ってくると約束した。ロレンツ様とソフィア様がデザートにお菓子を持って来てくれるそうです。それは楽しみだ~。
◇◇◇
そして、4の月になり魔術科の1年生になった。今日は<リッヒ王国学園>の入学式。ちょっと大きかった制服がピッタリになってきた。そして、先月買った黄色い紐のリボンを付けて学園へ行く。
講堂に入ると、新1年生と年少科の生徒が並んでいる。新1年生の後ろに行くと、魔術科の列にミアがいて、少し離れた騎士科の列にユーゴがいた。ロレンツ様とソフィア様は少し前にいる。
「ミア、おはよう」
「おはよ、アリス」
にっこり微笑んでミアの後ろに並んだ。
去年と同じで、学園長のちょっと長い話が終わって教室に向かう――玄関ホール左側にある1年生のBクラスの教室に入ると、担任の先生は変わらずフランチェ先生だった。
Bクラスは、ロレンツ様とユーゴを含めてほぼ半数が騎士科に移り、新しく数名の貴族が入学して来ました。20人いたBクラスは14人になって、4グループだったのが3グループになったの。
「新しく入った新1年生には、グループのメンバーが色々と教えるように。最低限、必要なことを書いた用紙を渡しますので、リーダーは取りに来てください」
私達のグループのリーダーはソフィア様になって、新しく入った男爵家の男の子がメンバーに加わった。すらっと背が高くて、フワフワした金色の髪で茶色の目をしている。
「僕は、ベンダー男爵家三男のミハエル。得意なのは風魔法で、兄も学園にいるから、ミハエルと呼んで欲しいな。フフ、僕は両手どころか3人の可愛い女性に囲まれて、凄くラッキーだよ。よろしくね」
11歳の貴族とは思えないほど軽い……いえ、社交的って言うのかな? な方です。
「では……ミハエル様、私はソフィア。そして、ミアとアリスよ。よろしくね」
「「ミハエル様、よろしくお願いします」!」
午前中は、グループに分かれて自己紹介をした後、フランチェ先生から渡された用紙を確認しながら、学園内の施設を案内することになった。
◇
お昼、食堂でロレンツ様とユーゴの顔を見たらホッとするな。新しくメンバーに入ったミハエル様が自己紹介をして、約束していたサンドパンをトレイに並べて出した。目玉焼きとチーズのサンドパン・特製の甘いソースを掛けたコカ肉のパン・ピリ辛ソースのオークハムパンの定番の3種類。
「アリス、ありがとう。楽しみにしていたんだよ」
「俺も! アリスのパンが楽しみで、夢にまで出て来たよ」
「ふふふ、ロレンツ様もユーゴも嬉しいことを言ってくれますね」
男の子だから、いっぱい食べるだろうと思って多めに出したけど足りるよね?
「私も楽しみにしていたのよ~。アリスのサンドパンは美味しいからね!」
「ミア、ありがとう。無理して沢山食べると、後でお腹が痛くなるから気を付けてね」
半分に切ったサンドパンも並べている。私は1個でお腹いっぱいになるのに、ミアは半分のサンドパンを3種類も食べるのよね。
「アリス、こんなに作るのは大変だったでしょ?」
「いえ、ソフィア様。いつもお店用に作っているから慣れています。ミハエル様も良かったら食べて下さいね」
「えっ、僕も食べて良いのかい? アリス、ありがとう。フフ」
ミハエル様を仲間外れにはしませんよ。足りなかったらバッグにまだあるから、追加で出せます。
サンドパンはミハエル様にも好評で、お礼にと食堂のケーキ(有料)をおごってくれた……良い人だ。ロレンツ様とソフィア様のお菓子もあって、パーティーみたいだね!
◇
午後からは、相談役の先輩との顔合わせで、3年生が1年の教室まで来てくれた。
1年生になったら、3年生の先輩が相談役として付くんだけど、3年の庶民の先輩が1人しかいなくて、ミアの担当になったの。その先輩は、ミアと同じ火魔法が得意だったからね。私の相談役は男爵家の方だった。
「私は、魔術科3年のウィルバート・ベンダー。あなたの担当になったので、何でも相談して下さい」
あれ? ミハエル様もベンダーと名乗っていたからお兄様かな?
「ベンダー様、アリスと言います。よろしくお願いします」
「アリス、このクラスに弟がいるので、ウィルバートと呼んで下さい。あなたは回復魔法が使えると聞きましたが本当ですか?」
ああ、やっぱりミハエル様の……。
「えっ、はい。ウィルバート様、使えますが風魔法も得意です」
ウィルバート様は、スラッと背の高い若草色の長い髪に茶色の目をしている。メガネを掛けていて、得意なのは風魔法だそうです。ミハエル様とは髪の色が違うのね。
「兄上、アリスをイジメたらダメだよ~!」
離れた場所からミハエル様の声が聞こえた。
「ミハエル、人聞きの悪いことを言うな!」
ウィルバート様はメガネを触りながら怒鳴っていた。
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