第36話 11歳の誕生日・冬休み
10の月の第2光の曜日、私は11才になった。
テオと服屋に行って、今年は薄紫色で可愛いフリルが付いているワンピースをプレゼントしてもらった。このまま買ってもらった服を着て、お昼を屋台に食べに行くの。夜はテオの好きなのを作って~、誕生日恒例のデートコースです。
「テオ、ありがとう~!」
「おう! アリス、今日は特に可愛いな~」
ふふ、テオは相変わらず親バカです。
その日の午後、エリオット様からプレゼントが届いた。箱にメッセージカードが付いている。
『私の大切な女神様へ、お誕生日おめでとう。エリオット・フィリップス』
私は女神様じゃないんだけどな~。箱の中を開けてみると、淡いピンクのフリフリのドレスと白い石のアクセサリーまで入っていた。これ、もしかして宝石? 高そう~、こんなのもらって良いのかな? テオはちょっと機嫌が悪いけど、もらっておけと言う。
レオおじいちゃんからもプレゼントが……リアム様が持って来てくれました。
「マルティネス様は、本日、所用がありますので代わりに持ってきました。これはマルティネス様からの誕生日プレゼントです」
リアム様が私をジッーと見て、長方形の木箱を手渡してくれた。ちょっとコワイです。
「はい。リアム様、ありがとうございます」
「礼は、マルティネス様に」
「は、はい……」
木箱をテーブルに置いて開けてみた――中は、赤いクッションの布が敷いてあって、その真ん中に大きな白い魔石が付いた杖が横たわっている。添えてあるカードには、
『可愛いアリスへ、一緒に魔法の研究をする日が待ち遠しい。アリスのレオおじいちゃんより』
「魔法の研究……」
杖には飾り彫りがされていて、金色に輝いた【5】の文字と魔法陣が見える。あっ、『アリス』って名前も彫られている。すっごく、高そうなんだけど……白い魔石だから回復魔法用の杖かな? 聖魔法にも使えそう。
「ムッ、マルティネス様……やり過ぎです。アリス……これは最高級の杖です。大事に使って下さい」
「えっ? この杖はレオおじいちゃんが作ったんですか?」
「いや、付加魔法師に作らせていたが……回復魔法や光魔法を使える魔術師なら、誰もが欲しがる出来栄えだ……」
「誰もが……」
……高価な杖なんですね。付加魔法師……アイテムに魔法で属性効果を付ける魔法使いで、魔法陣や魔石を使わないで、魔法だけで魔道具を作るイメージがあるな。
リアム様が、杖には付加魔法で魔法効果+5%が付いていて、魔法陣には命中率と魔法効果アップの文字が描かれているとか……大きな白い魔石は、光魔法・回復魔法・聖魔法の効果を10%以上アップすると教えてくれた。
やっぱり聖魔法にも使えるのか。そうすると……回復魔法や聖魔法が+15%以上になるってことね。あっ、付加魔法と魔法陣の魔法効果って、全ての魔法が対象なのかな? そうなると、風魔法でも+5%以上になる……付加魔法+魔法陣+大きな魔石が付いた杖。凄いな……リアム様の言う通り、やり過ぎだよね。
リアム様に「大切に使います」と約束して、レオおじいちゃんへのお返しは何が良いかと尋ねたら
「マルティネス様がここに来られた時、いつもより少し長めに話し相手になれば良いんじゃないですか」
「えっ、それだけですか?」
リアム様は「マルティネス様がやったことを、いちいち気にしていたら身が持ちませんよ。その杖を大事にしてくれれば良いです」と言って帰って行った。
でも、プレゼントをもらったら、お返しをしないといけないよね? テオに相談したら、
「別にしなくても良いんじゃねえか? アリスが、欲しいって言ったわけじゃないからな」
「そうだけど……じゃぁ、お礼の手紙で良いのかな?」
「ああ、十分だろう。貴族なんて、金で買える物は何でも持っているぞ」
そっか~。じゃあ、手作りのクッキーとお礼のカードを渡そうかな?
淡いピンクのドレスは箱のままアイテムバッグに入れて、魔法の杖はいつでも使えるように箱から出してバッグに入れよう。
◇◇◇
次の光の曜日に、朝からクッキーを作った。クッキーを食べて、ちょっとでも元気になれば良いなと思って、仕上げに回復魔法を掛ける。効果は無いだろうけどね。
可愛くラッピングして、メッセージカードを付けた。
『ステキなプレゼントをありがとうございます。大切にします。アリス』
テオにもクッキーを渡そうかな。カードを付けない代わりに、袋いっぱいにクッキーを詰めよう。
お昼から、エリオット様のお屋敷にクッキーを届けた後、王宮近くにある宮廷魔術師の研究所に行き、門番さんにレオナルド・マルティネス様に渡して欲しいとクッキーの入った袋を預けた。
その夜、食事が終わってから、テオにもクッキーを渡した。
「おっ、アリスの手作りか? ありがとな!」
「今日ね、エリオット様とレオおじいちゃんに、お礼のクッキーを届けて来たの。エリオット様の屋敷では、門番さんが顔を覚えてくれているからすんなり渡せたけど、研究所の門番さんには、『どこの誰だ?』とか『中身は何だ?』とか色々聞かれたよ」
「ハハ、それは仕方ないな。俺が門番でも聞くぞ」
テオは「1枚味見だ」と言って、早速、食べている。ふふ。
◇◇◇
学園の授業は10の月の末日までで、11の月から来年の2の月末まで冬休みです。
その間、ロレンツ様は、来年3の月に騎士科の試験があるので、領地に戻って剣の指南を受けるそうです。
ソフィア様は、王都にある屋敷に移って、同年代の女の子が集まる貴族のお茶会に参加するそうで、「これからが本番、気が抜けないのよ……」とか言っています。
それに対してミアは、「ソフィア様、ご武運を!」なんて言っているけど、それは戦いに向かう人を励ます言葉だよね? 貴族のお茶会って……怖そう。
ユーゴは家に帰ってお父さんから剣の稽古を付けてもらい、ミアは宿の手伝いをするんだって。
「じゃぁ、みんな3の月に会おう」
「ええ、ロレンツ様、皆さん、3の月に会いしましょう」
「ロレンツ様! 戻られたら、俺と手合わせお願いします!」
「「ロレンツ様、ソフィア様、お気を付けて~」」
ロレンツ様とソフィア様が、それぞれ迎えの馬車に乗り込んで見送った後、ユーゴとミアも迎えに来た親と一緒に帰って行った。
「アリス、俺達も帰ろうか」
「うん! テオ、明日から私が店番するね」
「おう、任せた! 俺は久しぶりにダンジョンに行こうか……あぁ、薬草も採りに行かないとな」
「あっ、薬草は私も採りに行きたい」
◇◇◇
冬休みに入って直ぐの店の定休日、朝早く起きて、今日はテオと薬草を採りに行く。
ゴーレムの討伐以来、傷薬や自家製ポーションを買ってくれるお客さんが増えたから、テオが週末に採る薬草だけでは余裕がないの。作り溜めしているポーションはあるけど、いざという時の為に多めに持っていたいからね。
テオと<大森林>へ向かいながら、街道沿いで薬草を探したけど、薬草が見当たらない。前はもっとあったのに……テオが、この時期は薬草が少なくなるんだって言う。寒いと薬草は育ちにくらしい。
<大森林>まで来ると、ここには前来た時と同じ位に薬草が生えている。街道で採れなかった分、ここで頑張ろうと黙々と薬草を採る……スライムを見つけると、風魔法でピュッと払いのけて薬草を探す……襲ってこないから放置でいい。スライム、戻って来ないで邪魔よ。
「アリス、そろそろ魔力草も探すか?」
「テオ、良いの?」
錬金術の練習にマジックポーションを作りたかったのよね。森の奥に行ったら魔力草があるはず。
「余り奥には行けないが、石の門が見える所まで探しに行こうか」
「テオ! ありがとう」
「アリス、絶対に俺の側から離れるなよ!」
「はい!」
テオから離れないように付いて行く。石の門から奥は腕に自信がある冒険者しか行かない。目安は冒険者ギルドでランクB以上、それがどれ程強いのか分からないけど、テオもランクBの冒険者で、私が産まれる前……昔、母さんとパーティーを組んでいた時に上がったそうです。
「アリス、あったぞ!」
テオに呼ばれて、茂みの奥を覗いたら数本の青紫色の魔力草がひっそりと生えていた。
「テオ、凄い! 魔力草だ」
魔力草を全部取らないで少し残した。この場所を覚えていたら、又、魔力草が手に入るでしょう? ふふ。
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