第35話 学園の食堂
週明け、テオに学園まで送ってもらって、帰りも迎えに来るまで学園の門の中で待つように言われた。心配かけたから、しばらくはテオの言う通りにする。
「テオ、今日はお昼から魔法の演習があるから、終わるのは3時頃だからね」
「おう、分かった。アリス、門から出るなよ」
「は~い」
教室に行くと、いつもと変わらないソフィア様とミアがいた。3人でお互いを大丈夫かと心配し合って、今まで以上に仲良くなった気がする。
今日の午前中の授業は、街中で事件や事故に遭った時の、対処の仕方だった。
「皆さん、街中で攻撃魔法を使ってはいけません。ただし、身の危険を感じたら、大声を出して
これって……ミアが誘拐われそうになったからだよね。隣の席のミアと目を合わせた。
◇
お昼休み、作って来たサンドパンを――目玉焼きとチーズ・特製の甘いソースを掛けたコカ肉・ピリ辛ソースのオークハムの3種類を1個ずつ中が見えるように紙袋に入れてある――食堂にあるトレイを借りて乗せた。
「ありがとう、アリス。沢山作って来てくれたんだね」
「アリス、旨そうだ~! いっぱい食べても良いんだよな?」
ふふ、ロレンツ様とユーゴが、どれから食べようかと悩んでいる。
「ちょっと、ユーゴ! みんなで食べるんだからね」
「えっ、ロレンツ様と俺の分じゃないのか?」
「ユーゴ、アリスは私達の分も持って来てくれたんですよ」
「はい。沢山あるから、遠慮なく食べてくださいね」
半分に切ったサンドパンもトレイに並べて、みんなで食べ始めた。
「アリス、コカ肉のサンドパンも美味しかったけど、このピリ辛ソースのオークハムも美味しいわ。ふふ、この辛さなら誰でも食べられるわね」
ソフィア様は、食べたいと言っていたピリ辛のオークハムのサンドパンを、両手で上品に持ってニコニコしながら食べている……かわいい。
「ああ、本当に美味しいよ。アリスは料理が上手だね」
「マジで旨いよ! モグモグ……」
「うん。いくらでも食べられそうだよね~。モグモグ……」
「ふふ、ありがとう」
美味しいって、言われると嬉しいな。
「ええ、本当に美味しいですわ。一度に3種類食べられるミアが羨ましい……」
「えへへ、ソフィア様にほめられた」
「ぶっ、ミア、今のほめられたのか?」
「ん……ユーゴ、違うの?」
「ユーゴ、パンを飛ばしているよ。フフ」
ロレンツ様が、2人の会話にクスッと笑っている。
「ええ、素直に、3種類食べられるミアを褒めたんですよ。ふふ」
「良かったね、ミア」
「うん、アリス……ん?」
ふふ、楽しい。
食事が落ち着いた頃、ソフィア様がミアと私をジッと見てから、ロレンツ様とユーゴにミアが誘拐犯に狙われたことを話し出した。
「何だって! そんなことが……それで、朝の授業はあの話だったんだね」
「ええー! ミアが狙われたのか!?」
「ユーゴも気を付けた方が良いよ。私が魔力持ちって知られていたから、ユーゴも知られているかもよ?」
うん。庶民のミアが狙われたんだから、ユーゴも狙われていると思った方が良い……私も?
「そうね。ユーゴも1人では出歩かない方が良いわ。学園の外に出る時は、親に迎えに来てもらうか、グループの誰かと一緒に行動するようにね」
ソフィア様の言葉に、ユーゴは学園が長期休暇になるまで、外に出ることはないって答えた。
「アリスは、一人で学園に通学して大丈夫なのかい?」
「ロレンツ様、毎朝テオが送って来てくれるんです。帰りは1人だったんですけど、今日からは帰りも迎えに来てくれることになりました」
「それなら安心だね」
ミアは私も寮に入れば良いのにと言うけど、テオが反対するし、私もテオと離れて一人暮らしは寂しいからね。
◇◇◇
その後、エリオット様が店に来て、テオに事件後どうなったか教えてくれた。
その話によると、レオおじいちゃんの怖い取り調べで――どんな取り調べだったかは教えてもらえなかった――誘拐犯の手下の2人がアジトにしている場所を白状して、レオおじいちゃんと第一騎士団が踏み混んだそうです。
そこで、見張り役が1人捕まって、幼い子供が1人助け出された……さらわれた子がいたんだ。
アジトの中を調べると、そこには隣国の商人との取引書類があって、誘拐する子供の名前と見た目の特徴が書かれていたとか……エリオット様は、私の名前は無かったとテオに教えてくれた。
今回の誘拐事件の調査は終わったけど、隣国の商人は引き続き調べることになったそうです。
「テオ、助かった子がいて良かったね」
「ああ、そうだな。もし、アリスが攫われたら……レオ様じゃないが、俺は誘拐犯を生かしちゃおかない。その書類に名前が書いてあるだけでも許さないぞ!」
「テオ……私は無事だよ」
心配させてしまったなぁ……テオに抱き着いてなだめると、テオが私の頭を撫でながらつぶやく。
「アリスは、俺が守るからな」
「うん……ありがとう」
◇◇◇
そして、毎日テオに学園の送り迎えをしてもらっている。もう、誘拐犯は全員捕まったんだけど、テオが「商人が捕まっていないから、違う奴らがこの街に来るかも知れないじゃないか」って言うの。そう言われると、そうかもって思ってしまう。
ただ……時々、「薬屋に行くついでだよ」と言って、アルバート様やロペス様が迎えに来てくれるのが申し訳ない。
レオおじいちゃんは、あれ以来、火の曜日の魔法の演習が始まる頃に来るようになったの……毎週ね。そして、そのまま連れて帰られる。みんなの視線に耐えながら帰るんだよ? 下を向いて、何とも言えない気持ちになるの……。
リカルド様に「僕も、マルティネス公爵とのお茶会に誘って欲しい」と言われ、「私から……マルティネス様に言うことなんて出来ません」とお断りする。
スカーレット様にも「本当に魔法の練習をしていないのです?」と聞かれ、「マルティネス様に魔法を見てもらったことはないです」と答える。
そして、今日もレオおじいちゃんが来た。最近、みんなが道を開けてくれるの……そこを、レオおじいちゃんと手をつないで帰って行く……。
最近、鍛えられたかも。下を向かなくなったし、心の中でもフェルナンデス様・マーフィー様としか言えなかったのが、リカルド様・スカーレット様と言えるようになったからね。心の中だけだけど。
「アリス、今日は珍しい菓子が手に入ったんじゃ。南にある<獣王国>の果物を使った菓子でな、アリスのお茶にピッタリ合うと思うんじゃ~」
「えっ、<獣王国>の果物ですか? レオおじいちゃん、食べるのが楽しみです。ふふ」
「そうかそうか。フォフォフォ」
この会話を聞いて、これから魔法の練習をすると思いますか?
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