第34話 誘拐犯
走って来た男達にミアが捕まった。ミアは布で口を
「あなた達、ミアを放しなさい!」
直ぐに、ソフィア様が男達を魔法で攻撃しようと詠唱を始めた。
「ん? そいつも……魔法を詠唱させるな! そいつの口を
えっ、売れる!? この男達は魔力のある子供を狙う誘拐犯? 魔法を唱え始めたソフィア様の口を乱暴に塞ぎ、地面に倒して手足を縛ろうとしている。怖い……止めて、連れて行かないで……。
「邪魔だ! どけっ!」
男達を止めようと近付いたら、指示している男に思いっきり払いのけられ転んでしまった。止めなきゃ!
「ソフィア様とミアに何するのよ!」
ソフィア様とミアを担いで離れようとする、2人の男達の足に向けて風魔法を撃った。『止めて!』
シュッ――、ヒュ――シュシュシュッ!
「ぎあぁー! こいつ、魔法を撃ちやがった……痛ってー」
「ぐあっ、痛ってー! こいつも魔法が使えるのか!」
「何だと!? いつの間に詠唱しやがった!」
担いでいた男達が地面に倒れた。放り出されたソフィア様とミアが、地面に叩きつけられないように慌てて風魔法で渦を――『クッションみたいな風!』――作る。
シュルルル――……
ソフィア様とミアが、ポワンと弾んで地面に落ちた。間に合った……ソフィア様のロープをほどこうと急いで走り寄ると、
「お前、ふざけやがってー!」
指示していたリーダーの男が剣を振りかざして向かって来たので、お腹目掛けて風魔法を放った。
シュルル、ヒュ――、シュバッ!
「ぐあぅー! 痛ってぇ……」
うずくまったリーダーの男が立ち上がって向かってこないのを確認して、ソフィア様の紐を解く……うわ、紐の痕が赤くなっている。治さなきゃ……ソフィア様に回復魔法を掛けて、急いでミアに向かう。
「アリス、ありがとう……ヒールも掛けてくれたのね」
後ろから、ソフィア様の声が聞こえた。ミアの紐を解きながら回復魔法を掛けていると、騒ぎを聞きつけたのか、2人の警備兵さんが来るのが見えた。
「「お前達!」何をやっている――!?」
「助けて!」って、叫びたいけど声が出ない……。
ポーションを飲んで逃げようとしているリーダーの男に、ソフィア様が叫んだ。
「待ちなさい! 逃げるなら足を切るわよ! 『風よ、我が願いに応じ……偉大なるその力で……切り裂けー!』」
シュルル――、ヒュ――、シュバババッ!!
「ぐわっ! 死ぬー、助けてくれ!」
ソフィア様は遠慮がない……足どころか全身に攻撃を受けた男は、地面に転がってもがいている。自由になったミアは、駆けつけた警備兵さんの所に行って身振り手振りで説明を始めた。
「警備兵さん! こいつら貴族のソフィア様と私を誘拐しようとしたんです! ソフィア様が魔法を使おうとしたら『そいつも売れそうだ』って言ったんですよ! 捕まえて下さい!」
「なんだって! お前達、魔力持ちの子供を狙った誘拐犯か!」
「おとなしくしろ! 詰所で詳しく話してもらうぞ!」
「痛ってー……助けてくれ「「ぐうぅ……」」」
押さえられて、紐を掛けられた3人の誘拐犯は、後から来た警備兵さんに引きずられるように連れて行かれた。
「お嬢ちゃん達、怪我はしていないかい?」
「ええ、大丈夫ですわ。私達は、<リッヒ王国学園>の年少科の生徒です。学園に連絡をお願いします」
「はい、アリスが助けてくれたから怪我もしていません」
警備兵さんから、学園に連絡するから詰所で待つように言われた。
「ソフィア様とミアが無事で良かった。はあぁ……」
私は力が抜けて、その場に座り込んでしまった。
◇
その後、詰所で話を聞かれることになり、ソフィア様とミアが説明をしてくれた。それを私が隣でうなずく。
「生徒を保護して頂いて、ありがとうございます!」
少しして、フランチェ先生が来てくれた。その後、学園から連絡が行ったのか、ミアのお父さんとテオが引きつった顔で駆け込んで来た。
「ミア!」
「アリス! 大丈夫か!?」
テオの顔を見たら、涙が出そうになる。
「テオ! うん、私は大丈夫。あのね、ミアが捕まってね……助けようとしたソフィア様も捕まって、連れて行かれるって思って……怖くて……。私ね、魔法で……攻撃したの……」
必死で……人に向けて魔法を撃ったのは初めて……。
「そうか、アリスは正しいことをしたんだ。気にしなくて良いぞ。俺が送って行けば、こんな目に遭わなかったのに……」
「テオのせいじゃない……」
相手は3人組だったから、テオが送っていても襲って来たと思う。
その後、ソフィア様の保護者としてロペス様とエリオット様も駆けつけて来た。
「ソフィア、大丈夫か!?」
「ええ、お兄様、アリスが助けてくれたから無事です。誘拐犯が逃げようとしたので、ちょっと強めの風魔法をぶつけてやりましたわ!」
「そ、そうか……皆、無事で良かった」
ソフィア様はあんな怖い目に遭ったのに、いつもと変わらないしっかりした口調だ……私はまだ力が入らないのに。
エリオット様が近寄って私の手を取り、
「アリス……怪我はしていないかい?」
「エリオット様……はい、大丈夫です」
「私の女神を危険な目に遭わせるなんて許さない……。誘拐犯達は、第一騎士団で尋問する。詳しく調べるからね、アリス」
「エリオット様、俺からも頼む! 他にも仲間がいないか調べてくれ」
「ああ、テオ殿、任せてくれ」
エリオット様は、直ぐに警備兵に指示をして誘拐犯達を騎士団へ連れて行った。
警備兵さんとの話が終わって、帰ろうとした時、入口からバタバタと足音と共に声が聞こえた。
「アリスーー! 大丈夫か!? わしのアリスを
「マルティネス様、落ち着いて下さい。アリスが攫われそうになったんじゃありませんから」
えっ……レオおじいちゃん? とリアム様だ。誰が知らせたの? 私を見つけたレオおじいちゃんが、駆け寄って来た。
「アリス! 怪我はしていないか?」
レオおじいちゃんに両手を取られ、背中や足にケガをしていないか見ている。
「レオおじいちゃん、大丈夫です。ケガはしていま……ぐっ」
レオおじいちゃんにギュッとハグされた。痛い……。
「おお、無事で良かった……。アリスに怖い思いをさせた奴らを跡形もなく灰にしてやるからな!」
灰……燃やすってこと? レオおじいちゃんは怒っているけど、顔を見ると目がウルウルしている。あぁ……、
「レオおじいちゃん、心配させてごめんなさい。誘拐犯は仲間がいないか調べるって、エリオット様が騎士団に連れて行きました」
レオおじいちゃんの後ろから、「騎士団の管轄ではないのに……」と言うリアム様の声が聞こえた。
「何、仲間がいるのか! アリス、わしが吐かせるからな。リアム、行くぞ!」
「マルティネス様、騎士団に任せましょう……」
「リアム! 騎士団になどに任せておけぬわ! 誘拐犯め、成敗してくれる! 待っておれー」
レオおじいちゃんは、嵐のように出て行った……ほんの数分の出来事に、みんなポカンと口を開けている中、テオだけ「レオ様、よろしくお願いします」って、頭を下げていた。
明日は光の曜日で学園も休みなので、ソフィア様とミアは、一旦それぞれの家に帰ることになった。私もテオと一緒に家に戻った。
家に帰ってから、テオに店を出てからのことを詳しく話した。
「アリス、他にも誘拐犯がいるかも知れない。休み明けから、朝だけじゃなく帰りも迎えに行くからな」
「えっ……テオ、朝だけで大丈夫だよ」
次からは、迷わず魔法を使うから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます