第9話 怪しい客


 翌日、お店を開けるとロペス様が立っていた。朝早くから申し訳ないなぁ。


「ロペス様、おはようございます!」

「アリス、おはよう」


 ニッコリと笑顔で返してくれる。昨日も思ったけど、ロペス様はキレイな顔をしているね~。今日もカウンター横のテーブルに座ってもらうと、ロペス様は薬草の本をペラペラとめくり出した。私が隣の作業場へ向かうと、扉が開く音がした。


 ガチャ、チリンチリン~


「いらっしゃいませ~」


「……」


 目つきの怪しいお客さんが入って来た。ちょっと高そうなローブを着ている……魔法使いか錬金術師かな?


 どちらにしても、小さな薬屋なんかには来ない人だ。魔法使いなら、色んな薬を置いている大手の薬屋に行くだろうし、錬金術師は自分で薬を作るからね。


 カウンター奥の棚に並べているポーションを見つめた後、店の奥をのぞいている……怪しい。


「おい娘! ここのポーションのレシピを見せろ! 普通の作り方ではないのだろ?」


 うわ~、テオが言ってた他の薬屋の錬金術師ね。嫌がらせをしに来たんだ……奥に誰もいないのを確認して、子供の店番だから偉そうに言うの? 迷惑な人だ……ポーションのレシピって、初心者用の錬金術の本に書いてあるじゃない。


「……どちらのお店の錬金術師ですか? お客さんじゃないのなら、お帰りください」


「ふん! こっちか」


 その錬金術師は、店から続く作業場を見つけて入ろうとしたので、あわてて引き留めようとしたら、ロペス様に危ないから離れるように言われた。


「お前は何をしている? 強盗か? 騎士団の詰所まで来てもらおうか。おとなしく付いて来い」


「えっ! 騎士様!? 私は強盗ではありません……ちょっと、作業場を見たかっただけで……」


 錬金術師が、騎士団の制服を着ているロペス様を見てビックリしている。座っていたロペス様に気が付かなかったの? おどおどして、さっきの偉そうな態度はどこへ行ったの……。


「言い訳は詰所でして貰おう。嫌がって暴れるなら拘束するからな」


「えっ、そんなっ! 私は、あの……錬金術師でして……」


 そう言って、ロペス様は錬金術師を連れて行った。作業場をぐちゃぐちゃにされなくて良かった~。ロペス様に感謝しないとね。


 ◇

 昼頃、ロペス様が戻って来た。さっきの錬金術師は、貴族街の近くで薬屋をしているらしく、近ごろ噂になっている薬屋を見に来たそうです。子供が一人で店番をしていたから、秘密のレシピを手に入れようと思ったそうで……秘密のレシピなんてないのにね。


「ロペス様、ありがとうございます。ロペス様がいなかったら、作業場をぐちゃぐちゃにされていたと思います」


「フフ、アリス、私は自分の仕事をしただけだよ」


 ロペス様は優しく微笑んで、テーブルに座った。よし! お礼に、お昼を頑張って作るよ~!


 オーク肉を風魔法で薄く切って、お酒を振って軽く塩で炒める。半分に切った丸パンにオーク肉を多めに乗せてトマトで作った特製ソースをたっぷりかけ、その上に目玉焼きとサラダをのせてパンで挟んだ。今日は肉を多めにしたので1個だけ。それと、野菜とウサギ肉がたっぷり入ったクリームシチュー。


「ロペス様、今日は特製トマトソースをかけたオーク肉のサンドパンを作りました! こっちはウサギ肉のクリームシチューです。味見してください」


「アリス、ありがとう。ご馳走になるよ。フフ」


 ロペス様は、今日も目をキラキラさせて美味しそうに食べています。ふふ。


「美味しい……えっ、このトマトソースはアリスが作ったの? アリスは料理が上手だね」


「ふふ。ロペス様、ありがとうございます!」


 トマトソースには、隠し味に少し薬草を入れている。これが良いアクセントになっていて、鶏肉にこのソースを掛けても美味しいのよね~。


 今日はロペス様の話を聞きました。ロペス様はラミレス男爵家の嫡男で、同じ水色の髪と青い目を持つ妹さんがいるそうです。ロペス様の話は知らない世界と言うか、貴族の話だから面白いな。ふふ。



「ロペス様、ありがとうございました」


「アリス、ご馳走様。また、明日来るからね。じゃぁ」


「はい、また明日ですね」


 ロペス様を見送ってお店を閉めた。そして、今日売れた薬を補充していたら、ふと、テオの気配を感じた……そろそろ帰って来るかな? 直ぐに台所の勝手口が開く音がして、テオの声が聞こえた。


「アリス~、帰ったぞ!」


「お帰り~、テオ!」


 テオに走り寄って、浄化魔法と回復魔法を掛ける。


「おっ、一瞬でサッパリした。アリス、魔法ありがとな」

「ふふ、どういたしまして! テオ、お茶をいれるね。お腹は空いてる?」


 ダンジョンから帰って来たテオには、いつも魔法を掛けて、回復魔法と聖魔法を掛けた水を使ったお茶を出すの。気休めかもしれないけど、これを飲んだら元気になると思うんだ~。


「おう! いつでも食えるぞ。アリス、先に土産を作業場に置いてくるな」

「テオ、ありがと~。ご飯作るね!」


 魔法を使って手早くご飯を作ってテーブルに並べると、テオは待ってましたと食べ始めた。


「アリス、護衛の騎士は来たのか?」

「うん。第一騎士団のロペス様が、昨日から来てくれているよ。それと今日ね、変な錬金術師が来たの……」


 テオに、今日あったことを話した。


「なんだって! アリス、怪我はしてないか?」

「うん、大丈夫。ロペス様がいてくれたから何ともなかった。ロペス様はね、15~16歳くらいの上品な騎士さんでね、男爵家の嫡男なのに偉そうじゃなくて、優しいの」

「ムゥ~。アリス、高評価だな……」


 本当のことを言っただけなんだけど、なぜかテオの機嫌が悪くなった。仕方ないな~。


「テオ、今日も薬草のお土産ありがとね。ダンジョンの話をもっと聞かせてよ~。はい、お酒!」

「おお! アリス、いくらでもダンジョンの話を聞かせてやるぞ~」


 戸棚からお酒を出すと、一瞬でテオの機嫌が良くなって、夜遅くまでダンジョンの話を聞かせてくれた。テオはお酒に弱いよね~。ふふふ。

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