第8話 護衛
◇◇
週末の光の曜日、エリオット様のお屋敷にポーションを届けに行った。
門番さんにあいさつをして、お屋敷の勝手口に向かう。門番さんが顔を覚えてくれたので、そのまま通してくれるの。扉でベルを鳴らすと、年配の執事さんが出て来てニッコリ微笑んでくれる。
「トーマスさん、こんにちは!」
この執事さんはトーマスさんと言い、エリオット様のお祖父ちゃんの代から侯爵家に仕えているそうです。エリオット様のお父さん――フィリップス侯爵は騎士団を退団されて、今は領地にいるそうです。
「アリス様、お待ちしておりました。さあ、中へ」
前に、”様”をつけないでアリスと呼んで欲しいと言ったら、『エリオット様の大事なお客様ですから』と聞き入れてもらえなかった。そして私が『トーマス様』と呼んだら、『アリス様、エリオット様のお客様から”様”付けされる訳にはまいりません。ご遠慮いたします』って言われたの。
応接室へ通されると、いつものメイドさんがお菓子と紅茶を持ってきてくれた。
「ステラさん、こんにちは!」
「ふふ。アリス様、お待ちしておりました」
ステラさんは、初めて来た時から優しくしてくれるメイドさん。明るい茶色の髪で、茶色の目をした20才ぐらいの可愛いお姉さん。エリオット様が来るまで、いつも話し相手になってくれるの。エリオット様が留守の時は、執事のトーマスさんにポーションを渡して、お菓子をご馳走になって帰ります。ふふ。
ノックがして、エリオット様が入って来た。
「アリス、待たせたね」
「いえ。エリオット様、こんにちは!」
「フフ、今日もアリスは元気だね」
バッグからポーションを2本取り出して、テーブルに並べた。そして、トーマスさんから代金を受け取る。
「アリス、このポーションには本当に助かっているよ。これを飲めば、呪いを受ける以前の生活が出来るんだ。本当に有難い」
「エリオット様の痛みを和らげることが出来て良かったです」
エリオット様の顔色も来るたびに良くなっている。目の下のクマもとれて、顔がキラキラしているもん。
「ところでアリス、騎士団の者やその関係者が困らせているようだね。すまない」
「えっ、いえ……」
なぜエリオット様が知っているのかと聞いたら、
「アリスを困らせる者がいると報告があってね。明日から警備の者を付けることにしたよ」
「警備!? そこまでしてもらわなくても、お店を閉めるのも早いから大丈夫ですよ」
小さなお店で警備の人がいたら、何かあるのかと思って入りにくいと思う。
「何だってアリス、店を早めに閉めているのか!? そこまで追い詰められて……」
「ち、違います! もともと、テオが……先生がいない時は、早く閉めているんです。薬が売り切れてしまうこともありますからね」
にっこり微笑んで、エリオット様に言う。
「そうか……そう言えば、テオ殿は沢山作っていないと言っていたな。だがアリス、護衛の者は付けるからね。『テオの薬屋』に何かあったら私が困るんだ」
「エリオット様……」
結局、お断りすることができなくて、明日から護衛の騎士様が店に来ることになった。
◇
「テオ、ただいま~」
「おう! アリス、お帰り!」
店に帰って、テオに護衛のことを聞いてもらった。
「アリス、
「騎士様の護衛ってことは、貴族だよね?」
この国の騎士団は、<リッヒ王国学園>の騎士科を卒業した貴族で組織されているって聞いた。中には優秀な成績で卒業した庶民もいるそうだけど。
「そうだな。アリス、何かあったら必ず俺に言うんだぞ」
「うん、分かった……」
◇◇
翌日の朝、テオはダンジョンに向かった。私は、いつものようにお店を開けると声を掛けられた。
「失礼、君がアリスかな? 私は、第一騎士団所属のロペス・ラミレスと言う。ロペスと呼んでくれ。エリオット副隊長から店の警備をするように言われて来たのだが、店前に立たせて貰って良いかな?」
「えっと、ロペス様……おはようございます」
若い騎士様……ロペス・ラミレス様は16才ぐらいかな~? 水色の髪は少し長めで青い目をしている。キレイな顔……絶対に貴族だ。庶民の私にも丁寧に話し掛けてくれる優しそうな騎士様だけど、店の前に立たれるとお客さんが入りにくくなると思う。なので、店の中に入ってもらうようにお願いした。
「そうか、店前はマズイか……分かった、店内にお邪魔するよ」
「はい、よろしくお願いします」
にっこり笑って、カウンター横にある4人掛けのテーブルに案内した。
「ロペス様、こちらに座ってください。本を何冊か置いておきますね。私は、隣の作業場で薬を作っていますので、何かあったら呼んでください」
「ええ? 君が作るのかい?」
あっ、しまった! ポーションを作っているのは、テオってことにしているんだった。
「えっと……錬金術の勉強をしていて、練習で簡単な傷薬を作っているんです」
にっこり答えた。
「なるほど。幼いのに錬金術の勉強をしているのか」
ごまかせたかな? 護衛の騎士様が来ている時は、簡単な薬だけでポーションは作らないようにしないとね。
午前中に何人かお客さんが来て、特に何事もなくお昼になったけど、ロペス様はどうするんだろう?
「あの~、ロペス様。交代はしないんですか?」
「ああ、一日ここの警備だよ」
「そうですか。ロペス様、お昼はどうされるのですか?」
「アリス、気にしなくて大丈夫だよ」
微笑んで言うけど、まさか昼抜きですか!? お腹が減るでしょう? いつもは、休憩中の札を掛けてからお昼を作って食べるんだけど……。
「ロペス様、少しの間、お店を見てもらっても良いですか?」
「ああ、お客が入って来たら知らせるから、お昼を食べてくるといい」
「ありがとうございます」
奥の台所に行って、多めにサンドパンを作ることにした。丸パンを上下に切って軽く焼いて、目玉焼きとチーズをはさむ。もう1種類は、ピリ辛ソースをかけたオークハムとトマトと野菜をはさんだ。
オークは豚の顔をした魔物なんだけど、普通の豚肉より美味しくて値段も安いから助かっています。2種類のサンドパンと、朝に作ったシチューを温めてお皿に入れた。
「ロペス様、ロペス様の分も作ったので食べて下さい」
「アリス、私のことなど気にせず、奥で食べてくるといいよ」
ロペス様のお腹が気になって、私だけなんて食べられませんよ。
「私が作った料理は食べられませんか?」
上目づかいで見る。テオは、こうすると何でも言うことを聞いてくれるんだけどな~。
「いや、そんなことはないが……」
職務中だからと、ロペス様は少し困った顔をしている。休憩中の札を店の扉にかけるので、一緒にお昼休みにしてくださいとお願いした。
ロペス様の前にお皿を並べ、私もロペス様の前に座った。
「ロペス様、目玉焼きとチーズのサンドパンと、ピリ辛のオークハムのサンドパンです。こっちはシチューです」
「手が込んでいるね。有難く頂くよ」
ロベス様は、ピリ辛ソースをかけたオークハム入りのパンを取って食べた。すると、目をキラキラさせて、
「これ、アリスが作ったのかい? 凄く美味しいよ」
「ふふ、ロペス様のお口に合って良かったです」
美味しいって言われるのが嬉しいなぁ~。
「たくさん作ったから、食べてくださいね!」
「ありがとう。アリス、遠慮なく頂くよ」
ロペス様と他愛もない話をしながらお昼を食べ、今日はテオが帰って来ないから早めに店を閉めた。
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